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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
42/189

42.アリアの朝

 ――初めて見たのは、透明なガラスの壁と色のついた液体。

 同じような物がいくつも並んでいる場所で、少女は目を覚ました。


「――」

(……?)


 少女に向かって、何かを言っている人がいる。

 見た目だけで言えば、子供。

 けれど、少女にはまだその言葉が理解できなかった。

 それでも、少女を見る表情はどこか優しげだった。


「――」


 白衣に身を包んだ女性が子供に声をかける。

 少女にはただ、疑問に感じることしかできない。

 だが、やがて思い出していく。


(……これ、わたしの夢――)

「……ん」


 気が付くと少女――アリア・ノートリアは自室のベッドの上にいた。

 綺麗に片付けられた部屋は、女の子らしく着飾ってはいない。


「んー……」


 一度ベッドの上で大きく伸びをして、跳ねるように起き上がる。

 ベッドから降りると、アリアはマットをめくり上げた。――そこにあったのは、ズラリと並ぶ武器の数々。

 アリアが普段使う短刀だけではない。

 折り畳み式の斧や、鋸状の剣まで様々だ。

 小物で言えば、クナイのようなものまで揃えてある。


「今日は……これにしよ」


 手に取ったのは、一本の短刀。テーブルの上から液体の入った小瓶、砥石を手に取る。

 そのまま床に座り込むと、短刀の手入れを始めた。

 アリアの日課の一つだ――自身の使う武器の手入れは欠かさない。使い方自体は、使い捨てるように投擲してしまうが。

 短刀の手入れをしながら、夢のことを思い出す。

 ――懐かしい。『兄弟』達のことも思い出す。

 もっとも、アリアが一番年下であったが。もう三年以上も前のことだ。


(何で急に……まあ、いいや)


 アリアは特に気にすることなく、道具の手入れに集中した。

 シュ、シュと刃を砥石で擦る音が響く。

 やがて、銀色に輝く刀身を見て頷く。


「うん――」


 パッと空中に紙を一枚投げた。

 アリアは短刀を振るい、紙を両断する。紙は綺麗に両断され、ひらひらと宙を舞った。

 アリアはこくりと頷いて、テーブルに置いてあったベルト付きのカバーを取り出す。

 太腿とお腹、それに脇に装着すると、そこに何本か短刀を差し込んでいく。たった今手入れしたばかりの短刀も、その中に含まれていた。

 そのまま、タンスの方へ向かう。中には学園指定の服と、数種あるアリアの私服。いずれも武器の出し入れがしやすいように加工している。

 そういう意味では、学園指定の制服がもっとも武器の出し入れがしにくい。――もっとも、そもそも暗器の持ち込みなどは禁止されているのだが。

 アリアはそんなことは気にしない。制服に身を包み、洗面台で顔を洗う。

 一通りの準備を終えると、部屋の扉の前で待機する。


「……」


 耳を済まして、聞くのは足音。

 三、二、一……ガチャリと、扉を開く。

 丁度、イリスがアリアの部屋をノックしようとした瞬間だった。


「ビックリした……。たまにそういうことするわよね、アリア」

「うん、イリスの驚いた顔が見たい気分だった」

「……どういう気分なのよ。まあ、いいわ。起きてたのなら校舎に行きましょ」

「うん、行こ」

「あ、ちょっと待って。寝癖、また直してないでしょ」


 そう言って、イリスがカバンから櫛を取り出す。

 これも日課のようなものだった。

 武器の手入れは真面目に行うが、自身のことについては適当さが目立つ――それがアリアだった。

 イリスに髪の手入れをしてもらいながら、アリアは学園の方へと向かう。

 まだ寮生達は校舎を目指すような時間ではない。二人は久しぶりに、練武場で朝から訓練をしようと約束をしていた。


「イリス、怪我はもういい?」

「ええ、もうすっかり良くなったわ。しばらくは剣技の練習もさすがにお休みだったから、今日は肩慣らしってところかしらね」

「うん。イリスに合わせるよ」


 アリアの言葉に、イリスも笑顔で頷く。

 いつもと変わらぬ朝――イリスとアリアの、学園生活がまた始まるのだった。

二章スタートです!

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