42.アリアの朝
――初めて見たのは、透明なガラスの壁と色のついた液体。
同じような物がいくつも並んでいる場所で、少女は目を覚ました。
「――」
(……?)
少女に向かって、何かを言っている人がいる。
見た目だけで言えば、子供。
けれど、少女にはまだその言葉が理解できなかった。
それでも、少女を見る表情はどこか優しげだった。
「――」
白衣に身を包んだ女性が子供に声をかける。
少女にはただ、疑問に感じることしかできない。
だが、やがて思い出していく。
(……これ、わたしの夢――)
「……ん」
気が付くと少女――アリア・ノートリアは自室のベッドの上にいた。
綺麗に片付けられた部屋は、女の子らしく着飾ってはいない。
「んー……」
一度ベッドの上で大きく伸びをして、跳ねるように起き上がる。
ベッドから降りると、アリアはマットをめくり上げた。――そこにあったのは、ズラリと並ぶ武器の数々。
アリアが普段使う短刀だけではない。
折り畳み式の斧や、鋸状の剣まで様々だ。
小物で言えば、クナイのようなものまで揃えてある。
「今日は……これにしよ」
手に取ったのは、一本の短刀。テーブルの上から液体の入った小瓶、砥石を手に取る。
そのまま床に座り込むと、短刀の手入れを始めた。
アリアの日課の一つだ――自身の使う武器の手入れは欠かさない。使い方自体は、使い捨てるように投擲してしまうが。
短刀の手入れをしながら、夢のことを思い出す。
――懐かしい。『兄弟』達のことも思い出す。
もっとも、アリアが一番年下であったが。もう三年以上も前のことだ。
(何で急に……まあ、いいや)
アリアは特に気にすることなく、道具の手入れに集中した。
シュ、シュと刃を砥石で擦る音が響く。
やがて、銀色に輝く刀身を見て頷く。
「うん――」
パッと空中に紙を一枚投げた。
アリアは短刀を振るい、紙を両断する。紙は綺麗に両断され、ひらひらと宙を舞った。
アリアはこくりと頷いて、テーブルに置いてあったベルト付きのカバーを取り出す。
太腿とお腹、それに脇に装着すると、そこに何本か短刀を差し込んでいく。たった今手入れしたばかりの短刀も、その中に含まれていた。
そのまま、タンスの方へ向かう。中には学園指定の服と、数種あるアリアの私服。いずれも武器の出し入れがしやすいように加工している。
そういう意味では、学園指定の制服がもっとも武器の出し入れがしにくい。――もっとも、そもそも暗器の持ち込みなどは禁止されているのだが。
アリアはそんなことは気にしない。制服に身を包み、洗面台で顔を洗う。
一通りの準備を終えると、部屋の扉の前で待機する。
「……」
耳を済まして、聞くのは足音。
三、二、一……ガチャリと、扉を開く。
丁度、イリスがアリアの部屋をノックしようとした瞬間だった。
「ビックリした……。たまにそういうことするわよね、アリア」
「うん、イリスの驚いた顔が見たい気分だった」
「……どういう気分なのよ。まあ、いいわ。起きてたのなら校舎に行きましょ」
「うん、行こ」
「あ、ちょっと待って。寝癖、また直してないでしょ」
そう言って、イリスがカバンから櫛を取り出す。
これも日課のようなものだった。
武器の手入れは真面目に行うが、自身のことについては適当さが目立つ――それがアリアだった。
イリスに髪の手入れをしてもらいながら、アリアは学園の方へと向かう。
まだ寮生達は校舎を目指すような時間ではない。二人は久しぶりに、練武場で朝から訓練をしようと約束をしていた。
「イリス、怪我はもういい?」
「ええ、もうすっかり良くなったわ。しばらくは剣技の練習もさすがにお休みだったから、今日は肩慣らしってところかしらね」
「うん。イリスに合わせるよ」
アリアの言葉に、イリスも笑顔で頷く。
いつもと変わらぬ朝――イリスとアリアの、学園生活がまた始まるのだった。
二章スタートです!






