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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
40/189

40.果たされた約束

 銀色の光が、崩落した地面からあふれ出るのをイリスは見ていた。

 何が起こっているのか、イリスには分からない。

 けれど、どちらかの渾身の一撃が放たれたのだろう――そう、感じさせた。


「先生は?」


 後ろから声をかけてきたのはアリアだった。

 先ほど回復したアリアに、イリスが守った少女を安全なところまで連れて行ってもらっていた。


「分からないわ。けど、さっきの一撃で決着はついたのかもしれない」

「そう」


 アリアがそれを聞いて、イリスの横に座り込む。


「念のため、離れた方がいいよ」

「なら、どうして一緒に待つ姿勢なのよ?」

「イリスはそう言っても聞かないから」

「……うん、ごめんね」

「いいよ、デザート奢りで」


 アルタが勝つと言ったから――最強と名乗った彼を、イリスは信じると決めた。

 戻って来るのがアルタでなかったとしても、イリスはここで決着を付けなければならない。

 だからこそ、ここから動くことはしなかった。

 ほんの数分間、何も起こらないままに時は過ぎる。そして――ガァン、と近くの建物で大きな音が鳴る。


「っ!」


 イリスとアリアが反応して身構える。

 二度、三度音が鳴ったと思えば、今度は扉が切り裂かれる。

 そこから姿を現したのは、アルタだった。


「なるほど、地下の梯子はここに繋がってたんですね」

「シュヴァイツ先生!」


 イリスは立ち上がってアルタの下へ向かおうとするが、うまく立ち上がれない。

 想像以上に、自分にダメージが残っていることに気付く。

 アルタの方が、イリスとアリアの下へ駆けてくる。


「そのままで大丈夫ですよ」

「先生、勝ったの?」

「もちろん、約束しましたからね」


 アリアの言葉に、アルタが頷いて答える。

 約束――それは、イリスを助けるという約束だ。

 《剣客衆》相手にそんなことを本当に成し遂げられるのは、きっとこの国でもアルタくらいのものだろう。

 そう考えると、イリスは思わず笑みをこぼす。


(本当に、先生は私なんかよりずっと――ううん、だから、私は先生に教えてもらおうとしたんだ)


 初めて剣を合わせた時から、分かっていることだった。イリスよりもずっと、アルタの方が強いということに。


「えっと、先生、その、なんと言ったらいいか……」


 改めてアルタの無事を確認すると、言葉にできなかった。一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 そうして、イリスは言葉を続けた。


「シュヴァイツ先生、本当に……ありがとうございました。父もこれで、報われると思います」

「礼には及びませんよ。僕は僕にできることを、当たり前にしただけですから」

「……やっぱり、先生はすごいです。先生の強さを目指す必要はないと言っていましたけど、私はその強さを目指したいと思います。父の意志を持って、先生と同じ高みに立てるように」


 イリスははっきりと、そう言葉にする。

 ただアルタのようになりたいのではない。父のような騎士を目指して、それでアルタと並び立つ――否、超えられるようになりたいと、本気でそう思っていた。

 それを聞いたアルタが、こくりと頷いて答える。


「それがイリスさんの目標であるのなら、応援しますよ。君は僕の生徒でもありますから、進路相談くらいは乗れると思いますので」

「この状況で進路相談も何もないですって。でも、ありがとうございます」


 イリスとアルタがお互いに笑い合う。

 これで戦いは終わった――だが、


「さ、直にここに騎士がやってきます。イリスさんと、アリアさんも念のため治療を受けるように」

「わたしは平気だよ?」

「念のためですよ」

「あの、先生は……?」

「大丈夫です。遠くに行ったりしませんから。ただ、回収する物があるだけです」

「回収する物……?」


 イリスが問いかけた。

 アルタがこくりと頷いて、少し離れた方へと視線を向ける。


「まあ、あとは僕の仕事ではないですけどね」


 そう、呟くように言ったのだった。


 ***


 王宮内にいる一室で、ゼイル・ティロークは苛立ちを覚えていた。

 あれだけの戦力を揃えてなお、《剣客衆》が敗れ去った事実を先ほど騎士から聞いたのだった。


「イリスは無事に守られた、だと……? 何をやっているんだ、無能な奴らめ……!」


 所詮は金で雇った殺し屋でしかない――そう、吐き捨てるように物に八つ当たりをする。


「あれだけ確実に殺れるみたいな言い方をしておいて全員仲良く殺されました――笑えるな、本当に。剣客衆など名ばかりか……」


 ブツブツと悪態をついて、ゼイルは思考を巡らせる。

 このまま何も動かなければ、疑われていたとしてもゼイルのところにまで捜査が及ぶことはない――《守護騎士団》の一部の騎士は、ゼイルに協力的だ。口裏合わせはしてくれる算段は付いている。


「――報告します」

「……なんだ? 何故、今ここに来る?」


 不意に姿を現したのは、自身が管理する部隊の人間。仮面の模様で、ゼイルはそれを判断している。

 実際には、金で雇った殺し屋ばかりで構成された部隊だ。

 声は判別できないように魔法で変えているが、女性ということは分かる。

 膝をついて、淡々と説明するような口調で話し始めた。


「先ほど、剣客衆二人は敗れ去ったと――」

「そんなものは王宮の騎士から聞いている! 今更報告などに来る必要はないッ! 剣客衆以外の殺し屋共は軒並み役に立たなかったからな!」


 乱暴な口調で、はっきりとそうゼイルは言い切った。

 下手に動かれて繋がりがバレては困る――だからこそ王宮内には極力来ないようにと伝えているはずなのに、剣客衆の面々も含めてその辺りの意識は低かった。


「ちっ、だから無能は嫌いなんだ……!」

「そうですか――ご自身のことを棚に上げるとは、まさにこのことですね」

「……なんだと?」


 ゼイルが怒りに満ちた表情で仮面の女性を見る。

 女性が、仮面を外した。


「な、お前……」

「ゼイル・ティローク様、ご自身の管理する部隊の人間くらい、全員把握していた方がよろしいかと」


 そこにいたのは殺し屋ではない――《黒狼騎士団》の団長であるレミィル・エインだった。

 ゼイルの表情が焦りのものへと変わる。


「今の言葉はこの《水晶》に反映してあります。あなたがイリス・ラインフェル嬢を狙ったという自白になるので」


 レミィルか手にしているのは音を記録することができる物だ。

 今のゼイルとの会話を記録したのだろう。

 ――暗殺者を仕向けた、という事実を。


「じ、自白だと……そんなもので……」

「あなたも気付いておいででしょう、疑われていたことには。それと、この仮面は《剣客衆》の一人であるフィス・メーデンが持っていた物ですよ。あなたに表立って嫌疑をかけるには、十分過ぎる理由になると思いますが」

「……!」


 追い詰められた――そう感じたゼイルはふらつく。

 疑われていたとしても、《次期王》候補の一人であり、現王の息子であるゼイルに捜査の手を及ぼすことは簡単ではない。

 それが、剣客衆の敗北という形で繋がることになってしまったのだ。


「ご同行、いただけますね」

「……いや、そうはいかないな――」


 ゼイルはすぐ傍にあった直剣を手に持つ。

 自らの家紋が印された剣を持って、それをレミィルへと向ける。


「抵抗するおつもりですか?」

「当たり前だ! 私がこのようなところで捕まる……!? 断じてあり得ん! 貴様はそのフィスに腕をやられたんだろう……? 私一人だって、隠し通路を使えば逃げ切れるさ。貴様を殺したあとでな!」


 ゼイルは動く。

 剣の腕には自信がある――それこそ、イリスさえいなければ優勝を狙えるくらいには。

 手負いの騎士団長を殺すくらいならば、訳がないと。だが、


「――は?」


 気が付くと、ゼイルは床に叩きつけられていた。

 腕を取られて、そのままレミィルに投げ飛ばされたのだ。

 即座に起き上がろうとするが、首下に剣が突き立てられる。


「あなたは――いや、君は自らの実力を過信しているようだ。権力も、剣の腕もね。利き腕が使えない程度なら、君を捕らえるくらい造作もないんだよ」

「……ッ!」

「さて、改めて言おう。ゼイル・ティローク、イリス・ラインフェルへの暗殺未遂の容疑で君を拘束する。これは、《王》からもすでに許可を取ってあることだ」


 レミィルの言葉から、はっきりとそう告げられた。

 大きく息を吐いたあと、ゼイルは剣を手放す。


 ――こうして、イリスを狙った暗殺事件は幕を閉じる。

 現王の息子が、次期王候補であるイリスを狙ったという、大きな爪痕を残して。

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