4.担任として
クラス内はざわいていた。
まあ、ざわつくのは分かる。
僕も生徒側だったら間違いなくざわつくだろう。何せ、この学園の入学基準は十五歳から。
僕は学園に入学するのではなく、十二歳で彼らの担任となり、その上剣術まで教えるというのだから。
(団長はやることがおかしいよなぁ)
つくづくあの人は……そう思わざるを得ない。
何かと仕事面で無理を言ってくるけれど、今回もただでさえ護衛がいらないと言われているにも関わらず、こうして無理やり学園に関わるような立場として入ったわけだ。
当然――
「ふざけないでくださいっ!」
ダンッ、と机を叩き、僕と隣に立つオッズを睨み付けたのは長いブロンドの髪の少女。整った顔立ちをしていて、大人びた雰囲気を受ける――というか、イリス・ラインフェル嬢本人だった。
「イリス、落ち着け」
「これが落ち着いていられますか!」
オッズの言葉に対しても、毅然とした態度で返すイリス。さすがは四大貴族、体格で負けていても気迫はオッズを倒さんというばかりの勢いだ。
「私はこの学園に、子供と遊ぶために来たわけではありません。この学園はそれだけ人手不足なのですか?」
「いや、そういうわけではないんだが……。このアルタ先生はだな――」
「そうだぜ! こんな小さいガキが担任? ふざけんなよ!」
オッズが説明をしようとしたが、生徒の声にかき消された。
一応、僕が騎士であることは伏せることになっている。
騎士が講師としてやってきたとなれば、イリスが騎士団の差し金だと気付いて護衛をやめろ、と直談判に来かねないかららしい。
それなら本当に護衛しなくて良いのではないだろうか、と思うけど。
まあ、僕の設定は遠い国で修行を積んだ若くして天才の剣士……という本にでも出てきそうな設定だ。学園長の親戚、という融通の利きそうな設定付きで。
それを説明する暇はなかったけれど。
「こんな小さい子が剣術の担当に担任って……」
「まだウォル先生の方が良かったよー」
地味に最後の生徒の言葉はウォルを傷付ける気もするが、生徒達が納得できないというのも分かる。
僕だって抗議はするだろうし、納得はしない。
けれど、僕は今その普通じゃないことをする側にいる。
講師として赴任したのなら、後は僕が何とか講師と認められるようにしろ、ということなのだろう。……給料上げてもらおう。
それは置いといて、だ。
「はい、皆さんの言いたいことは僕にも分かります」
パンッと手を叩いて、生徒達の視線を集める。
あくまでにこやかに、これから僕が担当しないといけない生徒達なのだから穏便にいこう。
(……というか担任って楽なのか? むしろ面倒な気もするけど……まあここは一先ず、だ)
「だから、一つ試合をしましょうか」
「……試合?」
怪訝そうな表情で、イリスが言う。
僕はそれに頷く。納得できないという相手を納得させるには、いつだって一番楽な方法がある。
「僕と皆さんで模擬戦をしましょう。僕が負けたら、僕は講師を下りますので」
――力を見せること、それが一番手っ取り早い方法だ。