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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
39/189

39.《銀霊剣》

「はっ――ふはははははっ!」


 地下に、アディルの笑い声が響く。魔力が呼応するように揺れ、大気が震える。

 動かなくてもこれほどの現象が起こるのは、アディルの異常性を表していた。


「まさか、俺もこんなことを願ってしまうとは……信じてしまうとはな。お前が《剣聖》だと?」

「そうだよ。元剣聖、ということになるかな。今はまだ子供だけどね」

「ラウル・イザルフが生きていればもう六十は超えているはずだ。お前が剣聖であるはずはない。分かっているのに納得してしまう。お前の剣術が、それを証明している――《転生》などという、あり得ない現象を。だが……」


 アディルが大剣を振るい、構えを取る。


「どうだっていい。今という時を楽しむとするか……!」

「それが《剣客衆》、ってわけか」

「その通りだッ!」


 アディルが動く。

 魔力を大きく噴出して、大剣を加速させた。

 僕も剣を構えて応戦する。

 縦に振り下ろされた大剣は、僕に当たることはなく横に逸れた。


「!」

「何も驚くことはないよ。受け流しただけさ」


 剣同士でも、触れればアディルの魔力が反応して、爆発を起こす。

 だが、その方向も受け方次第では変えることができる――特性さえ分かってしまえば、魔法効果ごと切り払うのは難しくはない。


「フッ!」


 アディルが剣を切り上げる。

 僕は地面を蹴ってそれをかわした。同時に二撃、《風の刃》を繰り出す。

 アディルが纏う魔力が風の刃を打ち消す。まるで強固な鎧を着込んでいるかのようだ。

 次いで三撃――風の刃がアディルに近づくたびに、纏った魔力に触れると爆発する。

 魔力の刃だけでなく、アディルが魔力を放出している限りは触れることさえ難しいかもしれない。

 アディルが地面を蹴って距離を詰める。お互いに剣の届く距離で、斬り合いが始まった。

 受け流すたびに、爆風が周囲を包み込む。


「オオオオオオオオオオオッ!」


 雄たけびを上げて、アディルが大剣を振り続ける。

 その動きに隙はなく、ただ純粋に楽しむように戦いを続ける。

 ――もしも、僕も強い相手だけを求め続けていたとしたら、アディルのようになっていたのかもしれない。

 だからこそ、彼を止めるのは僕の役目なのだろう。

 幾重にも続いた剣撃の応酬から、お互いに一度距離を取る。

 肩で息をしながらも、アディルがにやりと笑みを浮かべた。


「ハァ……俺が全力で振るっても、なお届かないとは。素晴らしい、素晴らしいぞ……アルタ・シュヴァイツ! お前は剣聖だ……認めてやる。その上で、俺がお前を殺す!」

「それであなたは満たされるのかな」

「満たされるさ! 今、俺は満たされている。剣客衆を作り上げたのも、俺が強者と戦うためだ……! もはや期待できる相手などいないと思っていたが……お前と出会えた。これほどに嬉しいことはない!」

「仮に君が勝ったとして、それで君は何を得られるっていうのさ」

「どうだろうな……だが、俺の求めた強さがそこにあるんだ。お前はその先を知っているんだろう……!」

「……そうだね。けれど、君がその先を知ることはないよ。どれだけ続けようと、僕の方が強いからね」

「まだだ。お前と戦うことで俺はより強く――」


 そこまで言ったところで、アディルが何かに気付いたような表情を見せる。


「魔力が、減っている?」


 呟くように、そう言った。

 アディルの視線は、僕の構えた《銀霊剣》へと向けられる。先程よりもより銀色に美しく輝きを増す。

 

「……吸われている、のか?」

「気付いたみたいだね」


 アディルの纏っている魔力も、だんだんと弱々しいものへと変わっていく。

《コーアライト》――銀霊剣に使われる素材の名で、近くにいる者の魔力を吸う効果を持つ。

 時間が経てば経つほど、僕の持つ銀霊剣は周囲にいる者の魔力を奪っていくのだ。

 ――それは、僕も例外ではない。


「もう、僕もかなり魔力を消費しているからね。そろそろ頃合いというところかな」

「剣聖の持つ銀色の刃……その美しい刃こそ有名だが、剣が宿す効力を知る者は少ないと言うが」

「それはそうさ。僕がこの剣を握って戦った時、必ず相手を葬り去ってきた。あなたも例外じゃない」


 お互いに魔力が減り続ければ、やがて残るのは手に持った剣と己の肉体のみ。

 僕はアディルに剣を向けて、言い放つ。


「《剣戦領域》――やがて残された武器と肉体のみでしか、戦うことのできない場所だ。剣での戦いばかりを続けた男が、辿り着いた戦い方だよ。あなたが万に一つ、勝てる可能性があるとすれば、今この瞬間しかない」

「そういうことか……ならば、いくぞッ!」


 アディルが駆ける。

 纏った魔力は減っているが、まだ身体の中に魔力が残っているのだろう。

 それを絞り出すようにして、大剣を加速させる。

 僕は剣に風を纏わせて、その剣撃を受け流す。

 猛攻――それでも、アディルの剣撃が僕に届くことはない。火力に重点を置いた剣撃は、それこそ僕にとっては受け流しやすいものだ。

 やがて、お互いに魔力が枯渇していく。

 アディルの纏う魔力がなくなったところで、僕の剣撃がアディルへと届いた。


「ッ!」


 肩をかすめ、アディルが一歩後ろに下がる。

 だが、すぐに力に任せて大剣を振るう。 

 僕はその剣を受け止め、切り払う。まともに受ければ、脱臼か骨折くらいはするだろう――魔力がなければ、僕の身体の強度も歳相応でしかない。

 けれど、前世で培ってきた経験と技術が僕にはある。


「ハアッ!」

「ふっ――」


 一呼吸、アディルの剣に対して僕も剣で対抗する。――剣と剣がぶつかり合った。

 お互いに魔力のない状態で、純粋な剣術の肉体のみでの戦いが続く。

 アディルが大きく剣を振るえば、隙を見て一撃を放つ。

 アディルもそれをまともに受けることはない。一歩後ろに下がって、大剣を蹴り上げるようにして動きを加速させた。

 剣を縦に構え、アディルの大剣を受け切る。

 勢いのままにアディルの身体が、ぐらりとバランスを崩した。

 その一瞬、アディルの剣を弾いて懐へと入る。

 視線が交差し――僕の剣がアディルを切り裂いた。


「……ぬ、ぐッ!」


 アディルが目を見開く。

 心臓に届くほどの深い一撃。大量の出血と共にアディルが倒れようとするが、足を前に出して耐える。

 致命傷を受けてなお、アディルが戦いを続けようとしたのが分かった。

 向き合った状態で、アディルが笑う。


「ハッ、ハッ……まさに極限状態だな。剣だけの戦いなど、久しくしていない。この程度の傷で倒れるには、あまりに勿体ない」

「いや、あなたはもう限界だよ」

「違うッ! ここからが本番だろう……!? 致命傷など知ったことか! 死ぬまで――否、死んだとしても、俺はお前に勝つ……!」


 もはや妄執。強い相手を求め続けた男がなおを求めるのは、その上での勝利だった。

 僕は剣を握り締める。銀色の刃が、強い輝きを放った。


「それなら、僕にできることはこれしかない。手向けとして受け取ってくれ」

「……なん、だ。それは……魔力、か?」


 アディルが疑問に思うのも無理はない。

 銀霊剣が纏う魔力は、アディルが先ほどまで見せていたものの比ではない。

 目で見えるほどに大気を震わし、刀身を歪めるように見せる。

 銀霊剣はただ魔力を吸うだけの剣ではない――吸い込んだ魔力は、この剣の中にたまり続けている。


「僕の倒した者の数だけ、この剣の中には魔力が蓄積している。剣聖であるラウル・イザルフは、この魔力を使うことはなかった。何せ、剣術のみで勝利を収めてきたからね。けれど、僕は少し違う――」


 僕は剣を振り上げる。

 放つのは、ため込んだ魔力のほんの一部だ。

 それでも、アディルを葬り去るには十分な威力がある。


「上で待っている子がいるからね。初めて、この技を使うよ」

「オ、オオオオオオオオオオオオオオッ!」


 アディルが雄たけびと共に、動き出す。その身体は、僕の放った一撃に覆われた。


「お、おお……これが、俺の――」


 次の瞬間、地下空間の暗闇を銀色の光が支配した。

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