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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
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26.イリスとアリア

 翌日の放課後、イリスにアリアを加えて集まっていた。

 一応、昨日の夜は僕の言うことを聞いてそのまま寮に戻ったイリス。

 稽古が始まる前に、模擬剣を構えて木々の周りに立つ。

 小さく息を吐くと、自身の視界の外にある落ち葉を切り裂いて見せた。


「ふう……ど、どうですか?」

「はい、いい感じですね。今の感覚を忘れないようにしてください」

「はいっ! やった……!」


 僕の言葉を聞いて、嬉しそうな表情を浮かべるイリス。

 休んだ効力もあるのかもしれないが――それよりも心の中の迷いに向き合ったことの方が大きいのかもしれない。

 集中すればするほど、きっとイリスの中では本当の意味での強さへの葛藤が大きくなっていたのだろう。

 彼女の剣は初めから真っ直ぐだったが、より剣撃に鋭さが増している。

 イリスならば、すぐに複数枚を切り落とすことも可能になると僕は考えている。


「わたしから見ても問題ないと思うよ」


 僕の隣で腕を組みながら、何故か偉そうに見ていたアリアがそんな風に感想を述べる。

 まあ、実際アリアの方が自然な流れで落ち葉を切り落とすことができている。

 どう見ても常人の動きではないところが気になるところだけど。


「あ、ありがとう。でも、これで追いついたからね……?」

「じゃあ、模擬試合して確かめる?」

「いいわよ――じゃなくて、今は稽古の時間だから」

「いえ、いいと思いますよ。試合するのも」

「だって」

「え? でも、試合ならよく二人でしますけど……」

「イリスさんとアリアさんはお互い実力が近いようですから、研鑽の意味も込めて試合をすることは良いと思います。継続して続けていたのなら、なおさら今日もやっておきましょう」

「そういうことなら……」


 イリスも納得したように頷いて、二人が準備を始める。

 僕の見識ではアリアよりイリスの方が強い。

 だが、二人はそもそも得意とする分野が違うように見える。

 イリスはまだ試合という形式を抜け出せていないところがあり、実力はあれども未熟なところが多いというのが正直な感想だ。

 他方のアリアは、ある意味では完成されたスタイルを持っている。

 戦闘においての動きが確立していて、たとえば僕と戦う時は徹底して様子を見る動きをするなど堅実な戦い方をしていた。

 本人が向いていないのか分からないが、結局斬り合うことを選んでいたが。

 同程度の実力者同士で高め合えば、より効果的に強くなれる。

 同じ相手だと癖や動きが分かってくるが、それを指摘しあうこともできるわけだ。


「いつでもいいよ」

「先生、合図をお願いします」

「はい、では――試合開始」


 手で合図をすると、イリスとアリアが同時に動き出した。

 細剣を構えるイリスに対して、姿勢を低くしながらアリアが両手に短刀を持って駆け出す。

 アリアが様子見をすることなく真っすぐ、イリスの下へと突っ込んでいく。

 お互いに実力が分かっているからだろう――アリアの動きに迷いはない。


「!」


 だが、アリアの表情に変化があった。

 イリスの間合いに入る瞬間、何かに気付いて後ろに下がる。

 それに合わせるように動いたのはイリス。一歩踏み出してアリアへと一撃を加えようとする。

 アリアがそれを切り払い、もう一方の短刀を振るう。

 イリスが身体を回転させながら、その一撃をかわす。

 反応は早い――目に見えている一撃に対しては、十分に反応できる。……問題はこの後だ。

 空ぶったアリアが、迷うことなく再び短刀を振るう。今度は投擲――死角の外からの攻撃だ。


「――」


 イリスが地面を踏みしめて、アリアの方へと向き直る。

 すでに細剣を構えて、飛んでくる短刀を切り払う。

 来ることが分かっていなければ反応できなかっただろう。


(今の一撃への反応が常日頃からの試合の賜物だとしたら、意味はないわけだけど……そういうわけでもなさそうだ)


 アリアの表情を見れば分かる。

 普段から眠そうにしているアリアだが、戦闘となると喜怒哀楽がある程度分かる。

 イリスに防がれて――驚いているのが分かった。

 おそらく、今の一撃が完全にヒットすることはないのかもしれないが、かすめるくらいは想定していたのかもしれない。

 だが、イリスは反応して見せた。

 短刀を弾き落されたアリアがさらに距離を取ろうとする。一度距離を置いて、落ちた短刀を回収するつもりなのだろう。

 イリスがそれを許さない。地面を踏みしめて、アリアとの距離を詰める。

 二人の剣撃の速度はほぼ変わらないが、イリスの方がわずかに速い。

 ただ、二刀流という面でアリアの方が総合的には攻撃を早く繰り出せるはずだった。

 片方だけでは、アリアの方がじり貧になってしまう。剣と剣とがぶつかり合う音が響き渡り、やがて勝敗が決する時が来る。

 アリアの方がイリスの猛攻にバランスを崩し、防ぐのが一歩遅れた。首元で、ピタリとイリスが剣を止める。

 僕が止めるまでもなく、お互いに勝敗は分かっている。


「……私の勝ち、ね」

「うん、負けちゃった。イリス、ちょっと前より強くなったね」


 負けたというのに、何故か少し嬉しそうな表情を浮かべて言うアリア。

 ポンポン、とイリスの頭を優しく撫でる。


「ちょ、恥ずかしいから」

「イリスがよくしてくれるから、わたしもやってあげようと」

「そ、それはあなたの寝ぐせを直してるだけだからっ」


 頬を赤く染めてそう抗議するイリス。

 僕の方を見て、「違いますからね!」とわざわざ念を押してくるくらいだ。

 僕も分かっている、というアピールだけはしておく。


「試合も終わったことですし、反省点をまとめて稽古を始めましょうか」

「はいっ」

「はーい」


 礼儀正しく返事をするイリスと、どこか気を抜けた感じの返事をするアリア。

 改めて、三人での稽古が始まる。

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