表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
189/189

189.任された

 イリスは一人、王都を駆けていた。

 何人かの騎士に声をかけられたが、足を止めることはない。雷を纏い、高速で移動する彼女を誰も止められはしなかった。

 そして、辿り着いた先にいたのは――


「ほう、こいつは驚いたな。ラインフェル家のお嬢さんが、こんなところに何の用だ?」


《紅虎騎士団》所属の大柄の騎士――ゴズ・ダンクリス。

 彼のことは、イリスもよく知っている。

 かつて敵対した剣客衆の一人を打ち倒した者の一人であり、アルタに並んで王国では『戦力』と目される男だ。

 ここはまだ、《黒狼騎士団》の管轄であり、本来であればゴズがいる場所ではない。


「実際にお会いするのは、初めてですよね、ダンクリスさん」

「ああ、そうだなぁ! オレは呼ばれたからここに来たんだが……どうやら敵はいないみてえだぜ。それでオレの質問に答えちゃくれねえか? こんなところに何の用だ?」

「……ある人物を探しているんです」

「ある人物?」

「はい。アルタ先生――いえ、アルタ・シュヴァイツ一等士官に並ぶ、実力者の騎士を」

「おいおい、そいつはもしかして……オレのことか!?」


 嬉々とした表情を浮かべるゴズ。

 確かに、剣客衆を打ち倒した彼の実力も――おそらくは申し分ないだろう。

 だが、イリスは一度剣を交えた相手だからこそ、分かる。


「いえ、もう一人……ウェンベル・シュナイツァー一等士官を見かけませんでしたか?」

「あん? ウェンベルだと?」


 同じく剣客衆を倒した男――ウェンベル。

 イリスは彼とも顔を合わせたことはほとんどないが、ある確信を持っている。


「あいつなら、ちょうど――」

「やあ、ゴズ。待たせたね」

「っ!」


 暗がりから姿を現したのは、ウェンベルだ。

 騎士団の正装に身を包み、二人の前に立つ。


「おや、これはラインフェル家の……こんなところで何を?」

「お前を探してたんだとよ」

「私を?」

「ええ、そうよ。あなた、今までどこにいたの?」


 イリスはまるで問い詰めるような言い放った。

 ウェンベルは肩をすくめ、


「いきなりですね。この辺りを警戒していただけですよ」

「学園にも来たわね」

「……はて、なんのことだか――」


 瞬間、イリスはウェンベルに向かって斬り込んだ。

 だが、ウェンベルもまた、腰に下げた剣を抜き放ち、一撃を防ぐ。


「これは……どういうつもりで? いかに貴族の御令嬢と言えど……いきなり剣を向けてくるなど、殺されても仕方ありませんよ?」

「あなたはすでに、私と剣を交えているでしょう……!」

「さて、なんのことだか……っ」


 ウェンベルが力に任せ、イリスを押し返す――後方に下がり、防御の構えを取るが、ウェンベルは追撃を仕掛けてこなかった。


「おやめください、今は仲間同士で争っている場合ではないでしょう」

「どの口が……! アリアを斬ったのはあなたよ!」

「その、アリアとかいう子が誰だか知りませんが、何か証拠はあるのですか? 仮に私が誰かを襲ったと言うのなら」

「なら聞くけれど――あなた、その肩の傷はどうしたの?」


 鎧で隠れてはいるが、ウェンベルが押し返す力は弱かった。

 おそらく、怪我を庇ったのだろう――だが、ウェンベルは表情を変えることなく答える。


「先ほど、敵と交戦した際に傷を負いました」

「おいおい、剣客衆と斬り合っても無傷だったお前がか? どんな強敵とやり合ったってんだよ!」


 ウェンベルの言葉に反応したのはゴズの方だ。

 

「一度、剣を交えたからこそ分かるの。今、王都にいる漆黒の騎士の一人はあなたよ」

「……漆黒の騎士の情報なら、すでに私も聞いてますよ。あれは『死者』を利用しているのでは?」


 まるで、聞かれた時に答えるために用意していたかのようだが、だからこそ――彼が嘘を吐こうとしているのが分かる。


「そうね、私も先ほど聞いたばかり」

「でしたら――」

「出血があったわ」

「……?」

「学園に侵入してきた漆黒の騎士には出血があったのよ。つまり、私が戦ったのは『生きている人間』。そして、学園の警備にもかからずに学園へと入ることができて、実力のある者――自ずと、対象は絞られるわ」


 イリスは《紫電》の剣先をウェンベルに向けて、言い放つ。


「その肩の傷は、私がつけたものよ。ウェンベル・シュナイツァー――あなたは、漆黒の騎士の一人。答えなさい、何のために学園に来たの?」

「……ふっ」


 イリスの問いかけに、ウェンベルは笑みを浮かべた。


「まさか、たった一撃受けただけでバレるとはね。なかなか賢いお嬢さんだ」

「……学園に簡単に入れる時点で、いずれ分かることよ。それとも、気付かれる前に事を済ませればいいと考えていたの?」

「ああ、その通りだよ。私の目的は初めから一つ――ある人を王にすることだ」

「ある人……? まさか」


 ウェンベルもまた、騎士団として擁立している者がいる、ということだ。

 つまり――ウェンベルの狙いは、イリスの命。


「ここに一人で来てくれるとは、むしろありがたいくらいだ。ここで君を仕留めればいいだけなのだからね」

「……ええ、私も同じよ。あなたを倒すためにここに来たのだから」

「ゴズ、分かっていると思うが、君はそこを動くなよ」

「……へいへい。オレはお前のやることには手出ししない――そういう約束があるからな」


 ちらりと、イリスはゴズに視線を送る。

 協力関係――というわけではないようだ。

 ここでイリスを仕留めるつもりならば、確実に二人で来た方がいい。

 それなのに、ゴズは殺気はおろか、やる気もなさそうにその場に座り込んだ。


「オレが見届けてやるよ。誰が王に相応しいか」

「ふっ、ならず者に決闘を見届けられるとは」

「……決闘?」


 その言葉に、イリスは反応した。

 すぐにウェンベルとの距離を詰め、剣を振るう。

 ウェンベルはそれを防ぎ、再び拮抗した。


「ふざけないで、これは決闘なんかじゃない。あなたは――王国に仇なす罪人よ。私は騎士を目指す者として……あなたを倒す!」


 イリスははっきりと宣言した。

 アルタに任されたのだ、『君の敵は、君に任せます』、と。

ちなみに今回出た騎士は118話に登場してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです、良い物語をありがとうございます。
[一言] 久しぶりの更新!! 首を長くして待ってました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ