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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
187/189

187.《剣聖》vs《王国騎士》

 僕の前に立つのは漆黒の鎧に身を包んだ騎士――《黒狼騎士団》の本部を襲い、ほとんど壊滅状態に陥れた男、ラウル・イザルフ。

 それは、僕の前世のはずであり、すでにこの世にはいないはずの者の名だ。

 だが、向かい合った瞬間から、分かる。

 確かにこの男は、先ほど戦った漆黒の騎士とはまるで違う。

 生気は感じられないが、紛れもなくラウルは強い。


「僕の死体をどこで見つけたか分からないが、それを使ったのか」


 考えられる方法としては、それしかない。

《剣聖》――ラウル・イザルフは、おそらくは病死だ。

 おそらく、というのは、僕に死んだ瞬間の記憶はない。

 だが、死にかけていた、ということはよく覚えている。晩年のラウル・イザルフは、もはや剣を振ることすら満足にできないほど弱っていた。


「エーナさん、メルシェさん、お二人とも下がっていてください。彼を倒せるのは、きっと僕しかいない」

「アルタ……お前は――」

「エーナ様、ここはアルタ様にお任せしましょう」


 メルシェの方が冷静だ。

 エーナも決して浅くはない怪我を負っている。ここでラウルと戦ったところで、勝てないことは分かっているはずだ。


「……ああ、分かった。アルタ、私の言葉に従わなかったこと、あとで正式に抗議させてもらおうぞ。だから、必ず勝て」

「もちろん、僕は負けるつもりはありませんよ」


 僕が答えると、エーナはその場に膝を突く。

 やはり、立っているのもやっと、という状態だったようだ。


「さてと……ラウル・イザルフ。君はもう死んだはずの人間であり、そこにあるのは肉体だけ――それには違いないね?」

「……」


 僕の問いかけに、ラウルは答えない。

 ただ、剣を構えて僕と向かい合う。自分自身と戦うというのは、なんとも不思議な感覚だ。

 お互いに構えたまま、最初に打ち出したのは、風の刃――《インビジブル》。


「ふっ」


 ぶつかり合うと同時に、周囲に暴風が発生する。剣速には自信あるが、完全に僕と互角……いや、わずかながらラウルの方が上か。


「さすがというべきか。魔力で補っている僕よりも、肉体的には君の方が上か」


 冷静に、魔法で斬り合いながら状況を分析する。

 インビジブルではまず、ラウルを仕留めることはできないだろう。

 むしろ、このまま斬り合えば向こうの方が勝つ――肉体な全盛期はすでに終えているはずだが、死体であるラウルの動きに限界はない。

 このまま勝てないのであれば、様子見する必要もないだろう。

 大体、今の斬り合いで分かった。


「君は間違いなく、僕だ。利用されるのはいい気分じゃないし、だからこそ僕が君を止めるべきなんだろうね」

「……」


 何を言ったところで、ラウルからの返事はない。

 僕はラウルの放つインビジブルを回避し、側面から回り込むように斬りかかる。

 ラウルはその場から動かずに、インビジブルを無作為に放ち続ける。

 動きは早いが、やはり単調になりがちだ。


「それは僕には当たらないよ」


 距離を詰め、剣を振るう。

 ラウルがそれに応じ、互いの剣が交わった。

 だが、すぐに後方へと押し返される。腕力でも、ラウルの方が上か――やはり、全体的に『アルタ・シュヴァイツ』である僕よりも、『ラウル・イザルフ』である彼の方が強い。

 こればかりは仕方ない――だが、埋められない差を埋めるのが、僕の培ってきた剣術だ。

 十年以上も前に終わったラウルと、今の僕との違いを見せよう。


「行くぞ、ラウル・イザルフ」


 再び距離を詰め、今度は至近距離から互いに斬り合う。

 僕もラウルも、握っている剣は特別なものではない。

 あるいは、《銀霊剣》を使えば、早くに勝負はつくのかもしれない。

 ラウルが死体であるのなら、それを動かしているのは魔法だ。《銀霊剣》ならば、ラウルを動かしている魔力を全て吸い尽くすことも可能なはず――けれど、それは使わない。

《銀霊剣》は、僕が《剣聖》であるという証であり、僕が今戦っている相手が《剣聖》だと認識されているのなら、僕は王国騎士、アルタ・シュヴァイツとして彼に勝利をしなければならない。

 幾度となく刃を交え、徐々に身体に傷が増えてくる。

 彼は僕自身だから、当然僕を殺すだけの力があるのだろう。

 だが、剣術ではやはり、僕が上をいく。


「ふっ」


 一呼吸。吐き出すと共に、僕はラウルの一撃を回避し、斬り込んだ。

 腹部への一撃。ラウルは怯むことはなく動くが、普通の人間であれば、勝負がついてもおかしくはなかった。


「《剣聖》――ラウル・イザルフ。君が本当の意味で死んだことは、今ここで証明される」


 ラウルがカウンターで繰り出した一撃を跳躍で避け、勢いのままに首を刎ねる。

 ラウルの首は宙を舞うが、まだ彼は止まらない。

 彼が次の一撃を繰り出す前に――剣を握った右腕を肩から飛ばす。地面に着地すると同時に、胴体を切断した。

 ラウルは呆気なく地面へと倒れ伏し、やがて動きを見せなくなる。

 ゴロゴロと転がった首を持ち上げ、僕はその顔を確認する。

 記憶の底にある、死にかけていた頃のラウルの顔と同じままだ。

 消息不明とされていた《剣聖》ラウル・イザルフは、ここで死亡が確認されることになった。

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書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 あくまで奥の手を使わず自身の力でかつての自分を撃破””^^ 再利用され、分断したかつての自分の姿にアルタの胸に去来したモノは? 次回も楽しみにしています。
[一言] いつもありがとうございます これからも頑張ってください! 応援してます
[良い点] 終わった者と進むものの差ってやつですかね もっと手こずると思ってた [気になる点] 漫画終わってしまったのは残念 [一言] なんか転生したのも裏事情がありそう 自分の死因しらなかったのは意…
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