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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
186/189

186.役目

(動きは止めた。これなら――っ!)


 エーナが動くよりも先に、ラウルが動いた。手足を鎖によって縛られているというのに、まるで気にすることなく力ずくで歩き出す。


「この、力は……!」

「人間なの……!?」

「メルシェ! ルリネ! そのままでいい! 私がやる!」


 メルシェと、メルシェのコピー――ルリネに対してそう宣言し、エーナは駆け出した。

 真っ向からの斬り合い。相手の動きは抑制状態にあり、エーナは万全の状態だ。

 戦法として卑怯だということは分かっている。

 だが、エーナですら正々堂々、真正面から戦い勝つことは難しいと判断した。

 勝利のために、エーナはこの一瞬に全てを懸けることにしたのだ。

 ラウルもエーナに反応し、鎖で縛られながらも腕を振り上げる。交差するように、互いに剣を振るう。

 瞬間、ラウルを捕らえる鎖が緩んだ。


「エーナ様!」

「馬鹿者……! 鎖を離すな……!」


 互いに一撃。エーナはラウルの首元に。ラウルはエーナの肩から腹部に向かって。

 動きをこれだけ抑止してもなお、ラウルを完全に止めきることはできなかった。

 結果的に、受けた傷はエーナの方が深いほどに、だ。


「くっ、もう止められない!」


 ルリネが叫ぶと、ラウルが思い切り鎖を引いた。

 一瞬の隙を突いて、ラウルが自由になる。

 すぐに三人は武器を構えるが、ラウルは振り返ることなく――真っ直ぐ駆け出して行った。


「逃げた……!?」

「違う! 奴の狙いはカシェルだ。逃げているのではなく、追っている! 我々を見逃したのは、単調な命令しか聞けないからだろう……!」

「エーナ様、今動かれては……!」

「奴を止めるのは、私の役目だ! そのために、アルタには学園の方に向かわせた……! ここで、私が止まるわけ、には……!」


 だが、エーナの受けた傷は深い。仮に走って追いついたとして、三人でも満足に足止めができなかった相手だ――勝てる見込みは、かなり低いと言わざるを得ない。


(それでも、この私が言ったのだから……!)


 エーナは伝令を向かわせて、アルタにこちらには来ないように伝えた。それなのに、このような不甲斐ない結果で終わるわけにはいかない。

 エーナは立ち上がると、二人に命令を出す。


「私のことは構うな。次は、三人で奴を討つ」

「私は命令には従うわ」

「エーナ様、私は――」

「メルシェ、頼む」

「……分かり、ました。エーナ様の命令に従います」

「すまないな。では、行くぞ」


 三人はラウルを追いかけて走り出す。

 すでに何人もの騎士がラウルに挑み、敗れ去ったのだろう。廊下は血で染まり、まともに彼と戦って生き残った者はほとんどいない。

 それでも迷わず進めるのは、エーナには強い意志があるからだ。


(アルタ……お前はお前の仕事をしろ。イリスを守るのがお前の仕事なら、私がこの役を引き受ける)


 それは帝国の軍人として、帝国の敵を討つと同時に、明確に王国に協力すると宣言しているようなものだ。

 元々、エーナは王国と友好的な関係を築くために、わざわざ留学までしたのだ。

 だから、彼女はここで止まるわけにはいかなかった。

 廊下を抜けて、再び地上へと抜け出す。

 ラウルはカシェルをどこまでも追いかけて、始末するつもりだ。

 止められるのは、エーナしかいない――はずだった。


「なんで、お前がここに……?」


 エーナは驚きに目を見開く。地上に出て、多くの騎士が倒れ伏す中――一人の少年が、ラウルと対峙していた。

 エーナは少年――アルタに向かって叫ぶ。


「何故、お前がここにいる! お前の役目は、イリスを守ることだろう……!?」


 イリスを守れと、アルタには伝令を出したはずだった。それなのに、彼は何故かここにいる。

 後ろには、ヘレンが膝を突くようにして、アルタのことを見ていた。

 エーナの言葉に、アルタは静かに答える。


「少し違いますね。僕は確かに彼女の護衛ですが――それ以前に、僕はこの国の騎士でして、何よりイリスさんに宣言してしまいましたから。『最強の騎士』である、と。だから、この男を止めることが、僕の役目なんです」


 そして、アルタとラウルは剣を交えた。

更新遅くなり申し訳ないです。


7/25にコミックスの完結巻が発売致します!

また、書籍版については基本三巻で終わりになっておりますため、web版についても今後は私のタイミングで更新させていただく……という形になることご容赦ください。

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書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 最後のセリフ、イリスが聞いたら満面の笑みで「そうでなくっちゃ」と言いながら、めちゃくちゃキュンキュンしそうですね。アリアはアリアで、そんなアルタに指導を受けてるんだからと、メッチャ気合いれそ…
2021/07/05 15:47 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れ様です。 エーナ負傷(><) 追撃に移れるあたり、瀕死に至る負傷ではないでしょうが、万全の自信と、部下たちの支援があってこそ肉薄出来たい相手に果たして? アルタ接敵!! 嘗ての自…
[良い点] 待ってましたアルタくん。 アルタvsラウルの闘いがやっと見れるぅー!! [気になる点] コミック完結…?書籍版は基本3巻で終わり…? え、え、え…。
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