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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
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178.学園の見回り

 学園を囲う外壁の上を歩きながら、アリアは町の方に視線を送っていた。少し外側に歩けば、そこはすぐに学園周辺を覆う結界となっている。

 これに反応があったとしても、生徒であるアリアは気付くことができない――故に、アリアは自ら外壁を含めて結界を張った。

 魔力を込めた糸を張り巡らせ、これに何者かが触れたらすぐにアリアは気付くことができる。

 万全の態勢であるが、アルタの話を聞く限りでは、敵はこの学園を狙ってくるような動きをしていない。

 つまり、アルタが外にいる以上――アリアが見回ったところで、ここでは何も起こらないということだ。


「……」


 それでも、アリアは学園の警備を任されたのだ。

 だから、仮に敵が来ない可能性が高いとしても警戒は怠らない。

 ちらりと視線を下に向ければ、この近辺だけでも数名の騎士が見回っているのが確認できる――アルタがこの場を離れているために、ここは別の騎士が多く警戒している、ということだろう。

 アリアは女子寮の方へと視線を向ける――先ほど、イリスとは軽く稽古をして、いつものように一緒に夕食を摂り、お風呂に入って別れた。

 彼女が何かに気付いたという様子はなく、普段通りに生活していると言える。

 気取られないようにしているのだから当たり前だが、このままアルタが事件を解決してくれれば、確かにイリスを巻き込むことなく終わらせることができる。

 時間は少し掛かったが、アリアもようやくその方向で納得することができた。

 イリスが知れば、きっと自身も夜の町を巡回する――とでも言い始めるだろう。あるいは、授業のない日に調査に乗り出すかもしれない。

 どちらにせよ、イリスならば、間違いなく何かしらの行動に出る。そうなった時、アリアはイリスを守るための行動を最優先にしてきた。

 それがアリアにとって当たり前の行動であり、むしろアルタがイリスを関わらせないというのであれば、本来は『同意』すべきことだったはずなのだ。


(先生は、イリスのことを考えてくれてる。うん、だから、これでいい)


 アルタならば、どれほど敵が強かったとしても負けることはない――少なくとも、アリアはそう信じていた。

 彼ほど優秀で、強い剣士は見たことがない。

 アリア自身、アルタと稽古を重ねてきたが、未だに『勝つ風景』が思い浮かばないのだ。

 一方、イリスの成長は著しく、今のアリアが本気で戦ったとしても、おそらく勝率は低いだろう。

 それくらい、イリスはどんどんアルタの強さに近づいていっている。アリアとしては、それは少し悔しいところでもあった。


(……わたしも、先生にもっと強くなる方法を相談してみようかな――)


 そんなことを考えていた時、アリアの視線の先に、二人の少女が歩いているのが見えた。

 そこは学園の敷地内で、まだ彼女達は学生服を着ている。すでにほとんどの生徒は寮に帰っているはずだが、今の時期になると『学園祭』のこともあり、帰宅が遅くなる生徒もいる。

 二人とも、アリアのクラスメートであり、一人は実行委員でもあった。

 学園祭について話していて、この時間になったのだろう。特に気にすることなく、アリアは視線を外す――瞬間、視界の端に、奇妙な存在を捉えた。


「……?」


 アリアは再び視線を戻す。女子寮の方へと向かう人影――その全身は鎧に包まれている。

 王国の騎士の正装とは異なり、漆黒の鎧は暗闇の中では目立たない。

 だが、アリアの目は確実に漆黒の騎士の動きを見逃さなかった。


(騎士……じゃない。でも、結界には一切反応はなかった。入口だって……)


 結界が壊されているわけではない――つまり、学園内に姿を現した漆黒の騎士は、結界に反応することなく入ってきた、ということになる。

 部外者が結界を破壊せずに入ってくるなど、普通では不可能なはずだった。

 アリアは懐から短刀を取り出して、構えを取る。

 離れた距離から様子を探りながら、侵入者の正体を見極めるつもりであった――が、女子寮へと戻っていくクラスメート達が、漆黒の騎士に近づいていくのが見えた。


「あれ、誰かいるみだいだけど」

「先生……ではないようですね。暗くてよく見えませんが……」


 女子生徒二人と漆黒の騎士の距離は、まだそれほど近くはない。

 だが、漆黒の騎士も――二人の存在に気付いたようであった。

 女子寮の方に向かっていたはずなのに、漆黒の騎士は方向を変えて生徒二人に向かって行く。


「え、ちょ、なになに……!? こっち向かってきてない!?」

「と、止まりなさい――ひっ!」


 腰の下げた剣を抜き去って、漆黒の騎士は迷うことなく女子生徒二人に斬りかかった。――だが、その刃が二人に届くことはない。


「……?」


 漆黒の騎士の振り上げた腕は、女子生徒に届く前にピタリ、と止まっている。

 それを止めたのは、まだ離れたところにいるアリアであった。

 木の上の飛び移り、アリアは糸の付いた小さな錘を投げて、漆黒の騎士の腕に巻き付けた。

 自らの力で、騎士の動きを止めているのだ。


「早く、逃げてっ!」

「! ア、アリアさん……!? これは、一体――」

「いいからっ! 早くっ!」


 突然の出来事で混乱している生徒達に向かって、アリアは叫ぶ。

 漆黒の騎士はアリアの存在に気付き、振り向いた。その『殺気』がアリアに向けられたことは、すぐに分かる。

 糸を引く力に思い切り力を込めるが、騎士が剣を握る手をわずかに脱力させると――あっとう間に腕を捕らえていた糸を切断する。


「っ!」


 ぐらり、とアリアはバランスを崩すが、そのまま身体を回転させて、地面へと着地する。

 すぐにアリアは漆黒の騎士の下へと駆け出した――そして、漆黒の騎士もまた、アリアの方へと向かってきていた。

 アリアは素早い動きで短刀を振り、漆黒の騎士もそれに応じる。お互いに交差するように動き、振り返って再び向かい合った。


(……っ! かわしきれなかった)


 アリアは脇腹に感じる痛みに気付く。

 視線を向けると、服が破れて出血している。一方、アリアの刃は漆黒の騎士には届いていなかった。

 強い――相対する漆黒の騎士の実力が高いことは、すぐに理解できた。

 そして、自身に向けられる殺気に、アリアは息を飲む。

 だが、すぐに大きく息を吸い込んで、呼吸を整える。


「どうやって忍び込んだのか分からないけど……何が狙いでここにきたの?」

「……」


 漆黒の騎士は無言のまま、答えない。

 アリアは短刀を構えて、姿勢を低くした。


「いいよ、答えないなら――あなたを倒して聞き出すだけだから」


 直後、アリアと漆黒の騎士は同時に動き出した。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 騎士『狩り』の様相の謎の襲撃者と思われたが、まさかの学園襲撃!? 『強者レーダー』に(イリス&アリアが)びびっと来たのか? 手傷を負ったアリア、やはりイリスが駆けつけ…
[一言] 挿絵の制服からして、アリアが壁の上を歩いていると、下にいて見上げれば絶景が……!
2021/01/18 15:36 退会済み
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