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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
176/189

176.アルタとヘレン

「……ものすごく静かな夜ですね」


 隣を歩くヘレンは、先ほどまでの緊張した面持ちとは打って変わって、拍子抜けしたような声を漏らした。

 僕はその言葉に頷く。


「そうですね。いつもと変わらない感じがします」


 すでに、町中を歩く人の姿も疎らだ。

 当たり前だが、僕とヘレンが巡回をしたところで、敵が襲ってくるとも限らない――だが、敵の動きを察するに、実力のある騎士を狙って犯行に及んでいることは間違いない。

 僕とヘレンの動向まで確認しているか分からないが。


「あ、でもこういう時に油断したりしたらいけませんよね!? 集中しないと、集中……!」


 ヘレンは自らの両頬を叩いて、真剣な表情をして前を向く。

 僕はその姿を見て、思わずふっと笑みをこぼす。彼女には他人を明るくする素質があるのかもしれない。

 騎士には、ヘレンのようなタイプは比較的珍しいと言えるだろう。


「敵はいつ仕掛けてくるか分かりませんからね。話を聞く限りでは、奇襲を仕掛けてくるわけではなかったようですが」

「はい。報告によると、敵は『正面から真っ直ぐやってきた』というパターンが基本のようです。闇討ちが目的にしては、やり方がおかしな気もしますね……」

「敵の目的がなんであれ、狙いが一等士官以上の騎士であるのなら、僕らが見回るだけでも意味があるはずですからね」

「確かに! 他にも一等士官が見回りしているはずですし」


 ヘレンの言う通り、各地で一等士官が行動を開始しているようだ。相当な厳戒態勢と言えるだろう。

 もちろん、全ての一等士官が王都に召集されているわけではなく、その数は限られている。

 逆に言えば――敵が仕掛けてくるのであれば、僕らの元へやってくる可能性も十分にあり得るのだ。

 レミィルも何かしらの作戦を実行しているという――上手くいけば、敵の戦力を大きく削ることだってできるかもしれない。

 それに、エーナも連れてきた部下と共に行動を開始しているはずだ。

 彼女達は、僕らとはまた別のルートで敵の動きを監視するために動いている。『優秀な部下』を連れていると言っていたし、エーナの実力も踏まえれば信頼できるだろう。

 だから、僕のすることは変わらない――まずは、襲われた騎士達の状況を再現することだ。

 学園の方は、アリアに任せてある。……イリスに今回の件を話さないことについては、一先ず納得してくれたようだが、アリアの表情は不満を訴えていたのは分かる。

 仮に狙いがイリスであったのなら――僕も、彼女に話さないという選択はしなかったかもしれない。


「……」

「どうかしましたか?」

「! いえ、すみません。少し考え事をしていまして」

「考え事……もしかして、先ほどの生徒さんのことですか?」

「まあ、そんなところです」

「騎士の仕事以外に、講師に護衛の任務もしているって、アルタさんはすごいですよね」

「講師の仕事は潜入のついでですよ」

「人に教えるお仕事って大変そうですよね。私も、昔は先生とかやってみたいって思ったことがありまして」

「そうなんですか?」

「はい! 兄にはそっちの方が向いているって言われたりもしたんですけど……私は騎士の道を選んでよかったと思っています。兄の遺志を継ぐことができましたから」


 ヘレンの表情は、どこか儚げに見えた。

 ヘレンの兄、ベルのことについては、彼女自身は『気にしないで』とは言っていた。

 けれど、彼が亡くなってから、経過した月日はまだ浅いと言える。兄の話をすると、思い出すこともあるのだろう。

 ヘレンは言葉を続ける。


「騎士として、戦って死ぬことは名誉であると言われます。父も母も、兄の死を悲しんでいましたが、兄のことは『誇りに思う』と言っていましたから。私も同じです。そう言われるような、騎士になりたいって思っています」


 ヘレンの表情は、決意に満ちたものへと変わる。それは、騎士として戦う決意を固めたものであると同時に、どこか不安定なものでもあった。


「ヘレンさん、君は――!」


 彼女に言葉を掛けようとしたところで、僕は正面から近づいてくる気配に気付いた。

 ヘレンも同様に気付いたようで、すでに腰に下げた剣の柄に触れ、構えを取っている。

 正面からやってきたのは、漆黒の鎧に身を包んだ騎士であった。


「まさか、本当に姿を現すとは」

「ですが、これはチャンスです……! 敵を捕らえましょうっ!」


 ヘレンの言葉に、僕も頷いて剣を抜き去った。《碧甲剣》は未だ修復中であり、僕が使っているのは全ての騎士に普及される無銘の剣だ。――場合によっては、《銀霊剣》を取り出すことにもなるだろう。

 そう考えながら、漆黒の騎士と対峙した。

漆黒の騎士大量発生だ!

今年はこれで最後の更新になるかと思います!

みなさま、よいお年をお過ごしくださいませ。

来年もよろしくお願い致します!

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 「私、イリス。いま、アルタ先生の後ろにいるの……」  あれって、デート? デートよね……。彼女かしら? けど、年齢差が……ううん、アルタ先生の性格や実力なら、年齢差を超えて迫ってくる女性は多…
2020/12/31 22:04 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れ様です。 遂に相対の『黒の騎士』 果たして自称『剣聖』なのか? 次回も楽しみにしています。
[気になる点] うわぁー気になるところで今年終わるー!! [一言] 今年も1年凄く楽しませてもらいました。 来年も頑張って下さい!
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