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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
175/189

175.死人

 ルイノは刀を構えたまま、レミィルの前に立つ。彼女とは再び契約を交わしたのだ。

 騎士団の管理下に置かれたまま静かに生活するか、騎士団に協力する『特別士官』として生活をするか。

 戦いこそが生き甲斐であるルイノにとって、選択などする必要はなかった。

 今は首に付けているチョーカーには魔法が仕組まれていて、ルイノの自由な行動は制限されている――だが、それで構わない。

 今回が、ルイノにとっては初任務であった。


「すまない、ルイノ。助かった」

「お礼を言うにはまだ早いんじゃない」

「! そうだな……! おい、そこのお前! 今度こそ決着だ!」

「それもまだ早いんじゃないかなぁ」

「なに……?」


 ルイノの言葉に、レミィルは怪訝そうな表情を浮かべた。

 漆黒の騎士は、ルイノによって剣を持つ腕を切断された――片腕だけでは、さすがにレミィルにすら勝つことは難しいだろう。

 だが、漆黒の騎士はもう片方の腕で剣を握り締める。


「! まだやるのか……!?」

「そっちじゃないよ、警戒すべきなのは」

「なんだって――っ!」


 レミィルも、ようやく気付いたようだ。

 ルイノは切断した瞬間から気が付いていた。

 すでに地面に転がった漆黒の騎士の腕からは、ほとんど出血が見られない。

 それだけではなく、漆黒の騎士の腕の切断面からも、出血が確認できないのだ。

 ルイノは自らの刀を確認する。こちらもほとんど汚れていない――漆黒の騎士の体内には、血がめぐっていないのだ。


「最近『死体』みたいな相手が多いなぁ……。あたし的には、死人と戦うのは好きじゃないんだけど」

「死人、だと? まさか、あいつはすでに死んでいるというのか……!?」

「さあ? それは分からんないけどさぁ……。それより団長さん、『あれ』と話すのはもう諦めたら? 動かなくするだけなら、すぐにしてあげるけど」

「……っ。止むを得ない、か。ルイノ、頼めるか?」

「にひっ、了解」


 ルイノはにやりと笑みを浮かべて、漆黒の騎士と再び向かい合う。

 漆黒の騎士は剣を構えて、ルイノに向かって駆け出した。

 腕がなくなったばかりとは思わせない動き――やはり、痛みなどまるで感じていないのだろ。

 ルイノは地面を蹴って、駆ける。

 ルイノの持つ刀の名は《赤羅せきら》。これは、以前にルイノが持っていた刀ではない。東方で有名な赤色の川で取れる《真紅鋼》を使用している――かつて、アルタが倒した東方の剣士、アズマ・クライが愛用していた刀である。

 戦場で何人斬り殺そうと折れることのない頑強な刃は、再びルイノという剣士の手によって握られ、振るわれることになったのだ。

 ルイノと漆黒の騎士の刃が交わる。――だが、勝負は一瞬だった。


「! 早い……!」


 レミィルが驚きの声を上げた。

 漆黒の騎士よりも圧倒的に早い剣速で、迷うことなく左腕も斬り飛ばす。そしてさらなる追撃により片足の膝から下を斬り飛ばす。

 あまりに素早い動きで、二人の勝負は呆気なく決着した。

 ルイノが漆黒の騎士の首元に刃をあてがう。


「にひひっ、できないと思うけど……抵抗はしないでよね? 動けばその首、撥ねるよ?」

「待て! ルイノ! もう決着――」

「……」


 漆黒の騎士は、両腕を失い、歩けなくなってもなお動くことを止めなかった。

 それをルイノはすぐに理解し――すぐさまに漆黒の騎士の首を撥ね飛ばす。

 ゴロゴロと、その首が地面を転がっていった。

 その瞬間、漆黒の騎士はだらりと脱力して、その場に倒れ伏す。


「やっぱり、血が出ないなぁ……。こういうのと戦って面白くないってね」

「……騎士の仕事を面白さで判断するな。それに、殺すなと言っただろうに」

「抵抗するなら斬ってもいいんじゃないの? ま、さっきも言ったけどさぁ……この人から話を聞くのは無理だよ。だって、やっぱり死んでるっぽいもん」

「……『動く死体』か。そんなことがあるとは信じがたいが……」


 そう言いながら、レミィルが撥ね飛ばされた漆黒の騎士の首を確認する。

 それを見て――レミィルは驚きに目を見開いた。


「こいつは……!」

「なに? 知ってる人?」

「……シアン・ベイロード。十年以上前に、傭兵として名を馳せた男だ。過去に見た顔だから、確かに覚えている。この男の死亡は、すでに確認されているな……」


 先ほどまで戦っていたのが紛れもなく死体であった――その確証を得た瞬間であった。

予想はされていたかと思いますが、今回の敵は死人です。

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書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 人件費がタダ!
[一言] やっぱり、ネクロマンサーが動いてる感じですか。 剣聖も、どっかで死体掘り起こされたんですね。 ……ネクロマンサーが、ひたすらシャベルで死体掘り起こして、いい汗かいてる姿を想像したら、なんか違…
2020/12/19 03:31 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れ様です。 なかなか使い処難問も、頼もしい臨時士官ルイノ^^ 某格ゲーの『私(俺)より強いやつに会いに行く』ばりに今の不穏な状況ではこの上ない助っ人ですね。 異常事態の一旦が明ら…
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