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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
174/189

174.彼方より

 レミィルは漆黒の騎士と向かい合い、剣を構えた。刃は燃え盛り、周囲を明るく照らし出す。

 レミィルの持つ剣の名は――《焔蓮》。熱に対する耐性の高い鉱石を使用することで、刀身が炎を纏っても耐えることが可能となる。

 炎を消した後でも、しばらく刀身が熱を帯びることで、その切れ味を増す代物だ。

 半面、扱いは難しく、この国においてはレミィルを除き、この剣を上手く扱える者はいないとさえ言われる。

 赤く燃え盛る刀身を見ても、漆黒の騎士は怯む様子を見せなかった。


(……《剣客衆》と対峙した時を思い出すな。全く怯む様子などない……もしもこいつが、それ以上の実力者なら、私では勝てるか怪しいところだが――っ!)


 レミィルが思考を巡らせていると、漆黒の騎士は早々に動き出した。

 様子見などという考えは一切なく、真正面からレミィルに向かって斬りかかる。


「考える暇は与えてくれないか……! まあ、当然だなっ!」


 レミィルはその剣を受ける。互いの力は拮抗し、鍔迫り合いの形となった。

 初撃の剣速は、目を見張る程のものではなかった。

 だが、この漆黒の騎士もまた、一等士官を仕留めている実力者である可能性は高い。


「はあっ!」


 勢いと共に、レミィルは漆黒の騎士の剣を弾く。

 さらに踏み込んで追撃――漆黒の騎士もまた、レミィルの剣撃に応じた。

 お互いに全く譲らない剣撃の応酬。レミィルの炎を纏った剣撃は、少なからずその熱量によって相手を怯ませるはずだった。

 だが、炎をその身に受けて、鎧が熱によって音を立てても、漆黒の騎士は全く怯む様子を見せない。

 どころか、レミィルの勢いを殺そうとするかのように、前に出て圧を掛けてくる。


(ちっ、特別何か仕掛けてくるわけでもない……! 純粋に剣術に優れるタイプか……!)


 互いに繰り出す剣撃によって、レミィルはすでに相手の実力を把握しつつあった。

 特殊な剣の形状はなく、そこに魔法の効果があるわけでもない。

 目の前にいる漆黒の騎士は、単純に剣術に優れている、真っ当な剣士のようだ。

 問題は、単純にレミィルと実力が拮抗しているということ。

 レミィルはすでに、炎の魔法を使うことで剣を強化している――それに対し、漆黒の剣士は純粋な剣術のみで拮抗している。

 もしも、この剣士にこれより『先』があるとすれば、レミィルの方が不利な状況に置かれかねない。

 ならば、今の段階で決めるしかない。


「ふっ――」


 大きく息を吐き出し、レミィルは薙ぎ払う様に剣を振るう。

 漆黒の騎士の剣を強く弾き、そこに一瞬の隙を作り出した。

 狙うは漆黒の騎士の右腕、剣を握る方の腕を斬れば、レミィルが一気に優勢になる。

 狙い通りに、レミィルは漆黒の剣士の腕を、剣で斬る。

 斬り飛ばすというほど深い傷ではないが、骨に近いレベルの傷だ。

 そして、熱を帯びた剣によって、その傷口は焼かれ、痛みを増大させていく。

 レミィルは一度、漆黒の騎士と距離を置き、口を開いた。


「決着だ! その腕ではもう戦えないだろう! 大人しく投降するんだっ!」


 あくまで目的は、彼らを捕らえることだ。

 一人でも捕らえることができれば、目的を聞き出すことも可能となる。

 今、レミィルを含めた騎士団が欲しているのは、『何故、騎士団を狙っているのか』ということだ。

 他国からの刺客なのか、あるいは他に目的があるのか――それを知るために、レミィルはこの作戦を決行したのだから。


「……」


 漆黒の騎士は、レミィルの言葉に答えない。無言のまま、深く傷を負った右腕で、剣を強く握りしめた。


「な……っ」


 レミィルが驚きに目を見開く。

 決して浅い傷ではないはずだ――強く握れば、それだけ激痛が走る。

 剣を握るなど、そもそもできるはずがない。

 それなのに、漆黒の騎士は痛みを感じるどころか、まるで何事もなかったかのように剣を構えて、再びレミィルへと向かってきた。


「ちぃ……!」


 レミィルは再び応戦する。剣撃の応酬――実力は拮抗していたが、今度はレミィルの方が押され始めた。

 漆黒の騎士の異常性に、レミィルの方が無意識に怯んでしまったのだ。


(まずい……! 押し切られ――)


 キィン、と金属を弾く音が周囲に響き渡る。

 レミィルが大きくバランスを崩し、漆黒の騎士が懐へと踏み込んだ。

 避けられない――だが、致命の一撃を避けるために、レミィルは左腕で身体を庇おうとする。

 漆黒の騎士が、剣を振り下ろそうとした瞬間だった。


「にひっ、負けそうになってるんじゃ、どうしようもないよねぇ」


 漆黒の騎士の右腕が宙を舞う。

 二人の戦いに割って入ったのは、刀を握る少女であった。《黒狼騎士団》の正装に身を包み、サイドテールを揺らしながら、地面を滑るようにして着地する。


「――ルイノ!」

「だから言ったでしょ? 敵が強いならさぁ……初めからあたしに任せておけって。にひひっ、弱い団長さんが出しゃばるような話じゃないのっ!」


 挑発するような笑み浮かべて、《剣客少女》はそう言い放った。

なんと1年ぶりの登場っぽいルイノです。

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