173.レミィルの作戦
夜になり、僕はヘレンと共に学園を出た。
アリアには学園内に待機してもらっているが、僕がいない間は警戒してもらうことになっている。
エーナは別行動だが、彼女も学園の外に出て行動を開始した。
「……なんだか、大事になってきてますね。うぅ、私、少し緊張してきました……」
ヘレンは少し落ち込んだ様子で言う。一見すると頼りなく見える彼女だが、先ほど本気ではなかったとはいえ、エーナの一撃を受け止めている。
実力については、間違いないだろう。
「大丈夫ですよ。一等士官が二人で行動するんですから。それに、僕は一応騎士の中でも一番強いという自負がありますので」
「お、おお……頼もしいですっ。そこまで言い切るタイプだとは……」
以前の僕なら、こんな風に言い切るようなことはしないだろう。
『最強の騎士』を名乗るのは――イリスとの約束があるからだ。
僕が負けるような相手がいれば、それはきっと、この王国に勝てる相手はいないということになる。
ある意味では、これから起こる戦いは相当に重要だとも言えた。
「どういうルートで回ります? 学園周辺から、少し離れて裏通りまで行きますか?」
「そうですね。敵の狙いがあくまで騎士であるのなら、どこを歩いていても襲ってくるでしょうし……できる限り、人通りの少ない場所に行きましょうか」
「了解ですっ!」
僕とヘレンは歩き出し、見回りを開始した。
学園外の見回りをするのは久々だ。夜の町――と言っても、すでに月は空高く昇っていて、灯りもまばらだ。
敵が姿を現したのは、相当に遅い時間だと聞いている。丁度、今の時間帯ならば姿を現してもおかしくはないだろう。
「そう言えば、団長は作戦があるって言っていたんですよね?」
「はいっ。どういう作戦かは聞いていないんですが……」
「まあ、あの人の考える作戦となると……今の状況ならおおよそ予想はつきます」
「え、そうなんですか? どんな作戦なんです?」
ヘレンに問われて、アルタは頷いて答える。
「団長はこういう時、自分を囮に使うタイプですからね。だから、あまり無理をしてほしくはないですが」
「……へ?」
ヘレンの間の抜けた声が、夜道に響く。僕の予想が正しければ――きっと彼女は一人で動いているはずだ。
***
「へっくしょん! くそ、夜は冷えるな……そう思わないか――って、誰もいないの寂しすぎる……」
レミィルは一人、夜道を歩きながらそんなノリツッコミをこなしていた。
騎士団長という立場でありながら、連れている部下は一人もおらず――先ほど、飲み屋から出てきたばかりだ。
酒は少しだけ飲んできた。いつもなら、しっかりと飲んで迎えが必要になることもあるが、今日はこれくらいがちょうどいい。
腰に下げた剣の柄に触れながら、レミィルは夜道を歩き続ける。――敵の狙いがどうであれ、騎士団長であるレミィルが一人で行動しているのだ。
かつてイリス・ラインフェルがやったように、レミィルは自らを囮として使っていた。
あの時と違うのは、周囲には誰も連れず、一人で行動しているという点だ。
(これほど分かりやすい状況を『罠』と捉えるだろうが……一等士官を倒せるほどの実力を持つ者達だ。狙うのならば当然、私のことも狙うだろう)
レミィルの表情は、いつになく真剣であった。被害にあった騎士の中には――旧知の仲の者もいた。
騎士になれば、当然顔を知る者を失うことだって多くある。
それを乗り越えて、レミィルは今まで団長という立場になったのだから。
(ただ、イリス嬢のように全てを守りたい――なんて、夢物語を言うつもりはない。そんなこと、どれだけ強くなろうと不可能だ。だが、それでもできることをするのは……私の役目だからな)
そう考えているとレミィルの前に、人影が姿を現した。足を止めて、レミィルはその人物に声を掛ける。
「まさか本当に姿を現すとはな。お前が――昨日、騎士を襲った襲撃犯の一人だな?」
「……」
月明かりに照らし出されたのは、漆黒の鎧に身を包んだ剣士だ。
すでに剣を抜き去って、臨戦態勢に入っているのが分かる。
それに呼応するように、レミィルも腰に下げた剣を抜き去った。
レミィルが得意とするのは炎の魔法――剣に炎を纏わせて、構えを取る。
「古風だとは思うが……名乗らせてもらおう。《黒狼騎士団》団長――レミィル・エインだ。お前を捕らえて、話を聞かせてもらう」
その言葉と共に、戦いは始まった。
もしかしてレミィルがまともに戦うの、この作品が始まってから初なのでは?とちょっと思ってしまいました。
次回はしっかりレミィルが戦います!






