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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
170/189

170.説得を受けて

「まずは彼女がここにいる理由から話します。先日、『騎士殺し』が発生しました」

「!」

「『騎士殺し』、だと?」


 僕の言葉を聞いて、アリアとエーナがそれぞれ一様に驚いた反応を見せる。

 驚くのも無理はない……僕自身、ヘレンから話を聞いた時には驚きを隠せなかった。


「『騎士殺し』って……この近辺で?」

「学園の付近というわけではないです。それに、この地区には限らず、各地で発生しています。だからこそ、騎士達は特別警戒態勢を敷いている状態にあります。彼女がここにいる理由は、その『騎士殺し』の対応のためですね。一等士官以上の騎士は、最低でも二名で行動することになりました」

「……ふむ、なるほどな。つまり、少なくともお前は一等士官の騎士、ということか」

「あ、はいっ。《聖鎧騎士団》に所属しておりまして……」

「事情は分かった。つまり、アルタは基本的にはヘレンと行動と共にすることになる……そういうことだな?」


 エーナが確認するように、尋ねてきた。

 僕はその問いかけに頷く。命令である以上、『僕は大丈夫』という理由で単独行動するわけにもいかなない。

 なにせ、ヘレンはレミィルの命令を受けて、ここまでやってきているのだから。

 それを拒否してしまえば、困るのは彼女の方だろう。


「犯人は分かってないってことだよね?」

「そうですね。各地で発生している点を見ると、複数犯であることには違いないでしょう。ただ、いずれも騎士の中では実力者を狙った犯行で、それも見事にこちらがやられてしまっています。敵の実力は、相当に高いと思っていいでしょうね」

「そっか。うん、それなら納得した」

「そうだな……確かに、そのような状況であれば仕方ない。お前達が共に行動している理由は分かった」

「ご理解いただけて助かります。僕から伝えられることは以上となりますね」


 少なくとも、これでアリアが聞きたかった話は終わりだろう。

 少なくとも、イリスが狙われているために騎士がここにいるわけではない――それが分かれば、彼女も安心するはずだ。

 エーナの方は、この件に限らず引き続き話したいことがあるけれど。


「……でも、それって先生も狙われる対象ってことだよね? 前みたいに」

「以前は僕を狙ったものでしたが、今回は少し違います。騎士を無差別に狙っているようですね。それも、相当な実力者ばかり」

「それならなおさらだよ。先生は……少なくとも、わたしが知る限り一番強い人。だから、先生を狙ってくる可能性だって十分にある」

「否定はできませんね。ですが、僕を狙ってくれるのならむしろ好都合とも言えます。これ以上、騎士への被害を最小限に食い止めたいですからね」

「先生は……まあ、確かに先生なら勝てる、とは思う。でも、敵が何人もいるって言うのなら、やっぱり心配だよ。わたしも――」

「アリアさん、君は学生です。確かに君の実力は理解していますが、夜中に出歩いて見回りをする……なんて危険なことはさせられません」

「っ、でも……」


 僕の言葉に、納得いかないという様子のアリア。彼女なら協力したい、と言うのは分かっていた。

 けれど、今回はまた事情が違う。狙われているのは騎士であり、今のところはイリスが狙われている可能性はないと言える。

 その状況で――生徒であるアリアを巻き込むようなことは、講師の立場としても、騎士の立場としてもできるものではない。


「これも、理解していただけると助かります」

「――理解できんな」


 僕の言葉に答えたのは、アリアではなくエーナであった。その場にいた全員が、エーナに視線を向ける。

 エーナは、真剣な表情で言葉を続ける。


「先ほどの訓練は見ていた。イリスもアリアも、私ほどではないとは言え、二人とも実力者であることには違いないだろう。ましてや、アリアはメルシェに並ぶ索敵能力の持ち主だろう? それこそ、そこらの騎士よりよほど役に立つとは思うが」

「それは……そうかもしれません。ですが――」

「彼女は学生、か? ふはっ、その理由は先ほど聞いた。なら、お前はなんのために彼女達に稽古を付けている? 強くするために、だろう。そして、十分に彼女達は強くなっている――だというのに、危険だから下がっていろ、だと? 納得しないのも当然だろう。アルタ、はっきり言うが……お前は過保護すぎるな。戦える者に下がれというのは、『侮辱』しているのと同じだと思うが」


 エーナにそこまで言い切られ、僕は少し驚きの表情を浮かべる。――今の言葉から察するに、どうやらエーナはイリスやアリアも、協力者として迎え入れるつもりがあるらしい。

 先ほど僕達の稽古を見ていたのは、ただ見学をしに来ただけではなかったようだ。

 ――確かに、イリスとアリアの実力は、稽古を付けている僕が保障する。二人とも、敵が手練れだったとしても、決して遅れを取るような人物ではないということだ。

 それなのに、戦わせないようにするのは、『侮辱』になる……か。剣士として戦う覚悟を決めた者を、僕は止めるようなことはしなかった。

 僕の方が、考え方が少し変わってしまったのかもしれない。いや、今回の件は特に――と言うべきだろうか。


「先生、わたしなら大丈夫だよ。わたしは戦えるし、危険だと思ったら逃げる判断だってできる。少なくとも、わたしは先生の役に立つと思う」


 エーナの言葉に続けて、アリアも決意に満ちた表情で言い放った。……元々、彼女が引き下がるとは思っていなかった。どうにか納得してもらいたかったが、エーナにここまで言われてしまった以上は、仕方ないか。

 僕は小さくため息を吐いて、二人をなだめる様に手を挙げる。


「……はあ、分かりました。確かに話を聞かれてしまった以上、そのまま黙って見ていろというのは、無理な話かもしれません。アリアさん、以前にも言いましたが――」

「勝手なことはするな、でしょ。うん、それは分かってる」

「そうですか。では、君にも協力してもらうことにしましょう。それでいいですね? エーナさん」

「ああ、私としては、こいつには是非とも協力してもらいたかったからな」

「……説得してくれたお礼は言うけど、あなたの方が強いっていうのは納得いかない」

「ん? なんだ、それなら試してみるか?」

「いいよ、別にやってあげても」

「はいはい、落ち着いてください。僕達は仲間なんですから、ここで争うようなことはしないように。分かりましたね?」

「……はーい」

「ふん、仕方ない」

「……えーっと、つまり、その……そこのアリアさんと、エーナ様も? 私達に協力をする、ということでよかったんですよね? え、いいんですか、これ? 学生さんと帝国の姫君ですよ!?」

「ヘレン」

「! は、はいっ」


 動揺するヘレンの名前を、エーナが呼んだ。

 ヘレンに対して、鋭い視線をエーナは送り、口を開く。


「私はアルタやアリアについては、実力を認めている。ここにはいないが、イリスも含めてな。だが、お前の実力についてはまだ分かっていない。一等士官と言うが、実力が不足している者とは協力するつもりはない。ヘレン、お前の実力を見せてみろ」

「え、ええ、実力を見せてみろと言われましても――」


 瞬間、ヘレンの言葉が途切れる。

 エーナが立ち上がり、懐から取り出したナイフをヘレンに向けたからだ。

 だが、その刃を人差し指と親指で挟むようにして、ヘレンがしっかりと受け止めていた。


「あ、危ないじゃないですかっ」

「……ふはっ、いい反応速度だ。気に入った――お前はここにいてもいい」

「え、ありがとう、ございます? え、あれ……? そういう話でしたっけ……?」

「ヘレンさん、一先ずは落ち着いて、話を聞いておいてもらえますか? エーナさん、今の話から察するに、ここにいるメンバーを含めて昨日の話の続きをする、ということですね」

「ああ、そういうことだ。強い者は何人いても損はないからな。だが……せっかくだ。イリスもこの場に呼んでもらおうか」

「それならわたしが――」

「いえ、アリアさん、そのままでお願いします」

「! 先生……?」

「君の協力は受けることにします。ですが、イリスさんはこの場にはいませんから。知らない以上は、巻き込まないことにします。それで構いませんね?」


 僕はエーナに向かって、言い放った。

 エーナはそれを受けて、小さく嘆息をする。


「……いいだろう。問答をするようなことでもない。その判断については、お前に任せる。では、話の続きをするとしようか。我々の――『敵』についての話だ」


 こうして、エーナから話を聞くこととなった。

 アリアから僕へ向けられる視線については、この時は気にしないことにした。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は騎士だけど2人はまだ学生だからって尻込みしてるけど、この世界に義務教育の概念がないのなら即学校辞めて就職してもいいのでは?と思ってしまった。なぜ学校をやめては行けないのかが言われてない…
[一言]  エーナさん、軍属で姫で「立場の違い」をわかってるはずなのに「実力はあっても民間人」なアリアを巻き込んじゃってますね。普通は「いくら実力があろうと、権限もなにもない軍属でない民間人は巻き込め…
2020/11/24 00:58 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れ様です。 実力は認めも、双方共に教え子に正体不明の刺客を退治させるのは躊躇われ・・・・ まあいつもの通り?勢いに押され渋々(^^;; あわあわしててもやはり一等士官、いきなりの…
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