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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
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17.アリアとの試合

 学園生活とはもう少しのほほんとした雰囲気で過ごしていけると思っていた。

 護衛任務で来ている以上、少なくとも戦いに発展する可能性はある。

 けれど、それはあくまで護衛が必要になった場合だ。

 今の場合、そちらのことはこの際考えないことにしよう。


「試合、ですか」

「うん、試合しよ?」


 その上で、僕はまた生徒から挑戦されることになっていた。

 アリアという少女はいつも眠そうにしている。ホームルームの時は顕著で、昼休みなどに見かけても昼寝をしていることはしばしばだ。

 そんな彼女がどうして、僕に戦いを挑んでくるのだろう。

 ――ただ、興味がないわけではない。

 何せ、僕の担当するクラスの中で、唯一アリアとはまともに戦っていないからだ。

 時間制限ギリギリであったために、イリス以上にアリアの強さは把握していない。

 ただ、少なくとも実力があるということは分かっている。

 ……まあ、放課後に本気で戦ってほしい、みたいな願いをしてくるイリスと違って今は真っ当に授業中だ。

 模擬戦という意味合いでなら、むしろアリアの力は把握しておいて損はないだろう。


(一応、学園の講師なわけだしね)

「分かりました。模擬試合を見るのも勉強になりますから、アリアさんに見本になってもらいますか」

「いえい」


 アリアの反応はテンションが低いのか高いのか分からないけど、どうやら喜んではいるようだ。


「えっ……!?」


 むしろ、驚きの声を上げたのはイリスの方。

 その声を聞いて生徒達の視線がイリスに集中する。

 イリスはこほんと咳払いをすると、


「……何でもないわ」


 そう言って繕った。

 うん、何でもないようには見えない。

 別に本気で戦うとかそういうわけでもないけれど、イリス的には僕がアリアに勝負を申し込まれて、二つ返事で了承したことが気がかりなのだろう。

 この場合、イリスとアリアでは勝負を申し込んだタイミングも理由も全く違うだろう。

 まあ、アリアが勝負を挑んだ理由については分からないけれど。


「それじゃあ、少し距離を置いてから始めましょうか」

「了解」


 アリアが僕の下から離れていく。

 華奢な身体付きではあるが、彼女の身のこなしには目を見張るものがある。

 特に、イリスとの連携はほんの一瞬だったが、彼女はほぼ完璧にイリスに合わせていた。

 ――実力だけで言えば、学園内でも突出している部類だろう。


「いつでもいいですよ」


 距離を置いて、僕は直剣を構える。

 身体のサイズに合わせて刀身はやや短めだ。模擬剣はこういう調整が楽で助かる。

 一方のアリアが構えたのは――二本の短刀。

 どちらも模擬剣によって魔力で作り出された刃だが、このクラスにおいて短刀とはいえ二刀流を使うのは彼女だけだろう。

 二本の模擬剣に均等に魔力を送る魔力コントロールのセンスも中々だ。

 両の短刀を逆手に持ち、姿勢を低くしてアリアが構える。

 それは例えるなら猫のようで、眠そうだった表情は一変する。


(殺気に近いな……)


 一生徒から――というより、イリス以外からそんな視線を受けることになるとは思わなかった。

 一瞬の静寂の後、アリアが地面を蹴る。

 素早い動きで、回り込むように僕の方へと向かってくる。

 アリアを視界から外さないように、僕は対応する。

 タッ、タッと走る音はだんだんと加速していく。

 ――そうして聞こえたのは、風を切る音だった。


「おっと」


 僕の方に向かって投げられたのは短刀。

 上体を逸らして、飛んできた短刀を回避する。視界の先には、すでにアリアはいなかった。

 僕はそのまま後ろを振り返るように剣を構える。

 投げた短刀よりも早く、アリアがそこにいたのだ。

 パシッと短刀をキャッチしたアリアが、地面を蹴って距離を置く。

 今のタイミングでは僕に攻撃を当てられないと判断したのだろう。


「す、すげえ」

「アリアさんの姿が消えたように見えたよ……」


 周囲からそんな声が聞こえる。

 攻撃をするタイミング、様子見をする判断力、何よりその素早さ。

 アリアの動きから感じられるのは戦闘経験の豊富さ。

 それは、《剣聖姫》と呼ばれるイリスの遥か上を行く。


(……イリスさんが真っ向勝負で強さを発揮するなら、アリアさんは搦め手を用意した集団戦や潜める場所の多いところで活躍できそうですね)


 ただ、それは――まさに暗殺者の戦い方であった。

 あまりにタイムリーすぎる動きに、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 そんな中でもアリアの動きは変わらない。

 徹底して僕の隙を窺うように動く。

 視界を遮るものさえあれば、アリアももっと攻めてくるところだろう。

 一度近づいてきたかと思えば、僕が剣を振るうのに合わせて後方へと下がる。

 同じ手は通用しないということが分かっているのか、再び短刀を投げるような攻撃はしてこない。

 ただひたすらに、僕へ一撃を与えるために試行錯誤しているようだった。


(やはり、アリアさんも中々見どころが――ん?)


 それは突然だった。

 ピタリと、アリアが動きを止める。

 最初と同じく、姿勢を低くして僕の方を見据える。


「どうしました? もう打つ手はありませんか?」

「ううん、少なくとも先生が強いことは分かってるから、色々試してみた。けど、やっぱり普通にやった方がいい気がする」

「普通に……?」

「いくよ――」


 アリアが動いた。

 地面を蹴ると、まるでその場から姿を消したように加速する。

 アリアの短刀が、眼前に迫った。

 僕はそれを切り払う。

 次々とアリアの短刀が迫ってくる。連撃――一撃一撃の威力はないが、とにかく素早く、僕に一撃を届かせようとする。

 一度距離を取ろうと後方へ下がるが、アリアがそれを許さない。

 下がれば一歩踏み込み、再度連撃を繰り出してくる。

 防ぐだけならば問題はないが――


(……驚いた。アリアさん、やっぱり相当な実力者だね)


 少なくとも、以前襲ってきた暗殺者の実力は超えているだろう。

 僕の剣に合わせてカウンターも狙っている――下手に剣を振るえば、僕の方が不利になるだろう。

 はっきり言ってしまうと、完全に授業のレベルを超えていた。

 ……実力を確認する、という意味ではもう十分だろう。


「アリアさん、そろそろやめにしましょうか」


 僕はアリアの短刀を受け止めて提案する。

 だが、アリアの動きは止まりそうにない。

 もう片方の短刀で、僕へ一撃を加えようとする――


「ストップですよ」

「!」


 ガッ、とアリアの腕を掴んでそれを止める。

 アリアが少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつも見せる気だるげな表情に戻る。


「先生、ありがとう。やっぱり強いね」

「はい、ありがとうございました。アリアさんもとても強かったですよ」

「でしょ?」


 したり顔で答えるアリア。

 自然と拍手が巻き起こる――アリアは十分に強い。


(うん、これなら普通に相手としても問題なさそうだけど)


 僕がそんなことを考えていると、アリアがイリスの下へと向かう。

 試合を見ている間、ずっとイリスがそわそわとしていたことには気付いていた。

 彼女も戦いたくて仕方ない、という感じなのだろう。

 さすがに、今からイリスの相手をすればまた同じような展開になることが予想できるのでしないが。


「イリス、今の試合見た?」

「見てたわよ。さすがアリアね」

「でしょでしょ」

「でも、どうしたの? 突然シュヴァイツ先生と戦いたいなんて……」

「んー、何となく?」

「何よ、それ」


 首をかしげながらそう答えるアリアに、イリスが困惑した表情を浮かべる。

 ……なるほど、どうやらアリアはイリスの気を引きたかったらしい。

 イリスが最近、僕の方ばかり見ていることが気になったのだろうか。

 いわゆる嫉妬、みたいなものだろう。


(かわいいもんだね――の一言で片づけたいとこだけど、それであんな風に戦わされた方は堪ったもんじゃないな)


 小さくため息をつく。

 今後もイリスがそわそわとしながら僕を見るたびにアリアが戦いを挑んでくる――なんてことがないように、イリスにも注意するようにしよう。そう、僕は心に誓った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アリアがもしかして? なーんて まさかね・・・。
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