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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
153/189

153.これからすべきこと

「ふぅ、何とか……全員生き残れたか」


 ――エーナはポツリと呟くように言う。

 相手にしたのは、《剣聖》ラウル・イザルフを名乗る人物。それが本物であるかどうか分からないが、向こうは仲間を一人庇いながら戦っていたというのに、こちらが全滅させられる勢いだった。

 エーナが連れてきたのはメルシェも含めた部下五人――いずれも、エーナが認めた実力のある帝国軍の兵士であり、実際に生き残ったのだから。

 だが、明らかに疲弊している。直撃を受けたわけではないが、先ほど現れたラウルの放った《インビジブル》。あれを受けるだけでも精一杯だったのだろう。

 エーナ自身、向こうが『退く』つもりでなかったのなら、全滅していたかもしれない。……そう思える程の強敵であった。

『戦いの痕跡』があちこちに残っている。いずれも、深く抉るような一撃ばかりだ。


「メルシェ、どう思う? お前は奴の一撃をまともに受けただろう」


 エーナは、すぐ隣に立つメルシェへと問いかける。

 まだ回復し切れていないために、メルシェは地面に座ったまま答える。


「……そう、ですね。一撃を防げたのは、彼の目的が『ルーサ・プロミネート』の回収だったから。そこに尽きると思います。本気で私達と戦うつもりであったのなら、全滅していたかと」

「私も同意見だ。まさか、私より『強い』と思わされる相手に、こうも早く出会うことになるとはな……だが、あれは本当にラウル・イザルフなのか?」

「……? どういうことですか?」

「ラウル・イザルフはもう何年も姿を見せていない。引退したか、あるいは死亡したものだと思っていた。仮にまだ現役だとすれば、姿を見せなかったことが不自然だ」

「確かにその通りですが……『敵』の強さは本物です」

「そうだな。だが、やはり一度、話はしておくべきか……」


 エーナがラウルと対峙した時に思い浮かべた相手――それはこの国の騎士であり、エーナが知る限りでは最強の人物。少年、アルタ・シュヴァイツだ。

 彼の素性については、エーナもまだ知るところは少ない。

 本当の実力についてもまだ全てを見たわけではないが、かつて視察に訪れた際に、《影の使徒》のクフィリオ・ノートリアと斬り合ったところを見ている。

 それに、つい先日もイリスと模擬試合をした際、エーナの剣を軽々と止めていた。

 あの時は特に触れなかったが……イリスとエーナの実力は拮抗していて、お互いに本気で剣を振るっていたのだ。

 それを簡単に止めることができた時点で、アルタの実力はエーナを軽々と上回っている。

 だからこそ、気がかりなのだ。

 エーナよりも実力が上の二人が、いずれも同じ技を使うということが。

 何も関わりがないというのならばそれでいい――だが、エーナの感覚では、アルタとラウルが無関係とは思えなかった。

 アルタは少なくとも《剣聖》に関わりのある人物であり、彼ならばあのラウルについても何か分かるのではないか、と。

 本物にしろ偽物にしろ――少なくとも、あの男は明確にエーナたちの敵であり、《ガルデア王国》にとっても敵になる人物だ。


「これからどうしますか? 少なくとも、追いかけることは難しいでしょうが……」

「追えばこちらがやられる可能性がある。むしろ、こちらは守りを固めるべきだな。他に『配備した兵』から連絡は?」

「先ほど、連絡があったようです。そちらについては、『ギリギリ間に合った』と。ヘイロン・スティレット騎士団長は存命しています」

「! そうか。首の皮一枚、ということだな」


 エーナは安堵するようにため息を吐く。

 彼女が連れてきた兵士は他にもいる。彼らには別の任務を与えており、そちらについては成功したようだ。

 すでに帝国側が協力関係にあった《聖鎧騎士団》については、先ほどルーサが言った通りだろう。ヘイロンが目覚めるまでは――王国側と帝国側の繋がりは薄れてしまっている状態だ。

 だからこそ、ここにエーナはいる。


「これからすることは決まっている。帝国のために戦う……ただ、それだけだ」


 エーナは決意に満ちた表情で宣言する。

 圧倒的な敵を前にしても、彼女の心が折れることはなかった。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 エーナの鋭い読み・・・・ あちらが撤退優先で行動したとはいえ、まずは兎も角人員に犠牲が出なかっただけでも僥倖でしょうね。 『剣聖』現るの報を知ったアルタはどんな顔をする…
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