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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
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14.今後のこと

 夜――学園から少し離れたところにあるバーに僕はいた。

 呼び出したのは当然、騎士団長のレミィルだ。

 向き合うような形で、小さな個室に二人で座る。


「団長、一応確認しておきますが僕は未成年ですよ?」

「あはは、分かっているさ。何も君に飲ませるつもりなんてないよ」

「自分が飲みたいだけじゃないですか」

「それもあるけれど、ここは元騎士団所属の男が経営していてね。個室を借りるのに都合がいいんだよ」

「元騎士……まだ若いんですか? その話詳しく聞かせてもらっても――」

「君の将来設計の話をするために呼んだんじゃないぞ。今は彼女のことだ」


 そう言いながら、レミィルはグラスに入ったワインを口に運ぶ。

 仕事の話をするなら飲むな、と言いたいところだが――元々そういう人なので一々突っ込みはいれない。


「一先ずはお近づきになることには成功しましたよ」

「それは聞いてるよ。君は護衛のために学園に行ったというのに、イリス嬢の師匠になるとはどういうことなんだい?」

「だから、そうするのが一番簡単だったんですよ。実は騎士団に派遣されてきた護衛です、って言って拒否されたらどうするんですか?」

「話を聞く限りでは彼女は君の強さに惹かれているそうじゃないか。それくらいのことで嫌がるとも思えないが……まさか」


 そこで、何かに気付いたようにレミィルが目を細めて僕を見る。


「イリス嬢をさらに鍛えて強くして、君は戦わなくてもいいようにするつもりじゃないだろうな?」

「あははー、まさかそんな。僕だって騎士ですよ?」


 ――本音を言うと間違ってはいない。

 イリスが強くなれば、それだけ僕の負担が減ると思っている。

 もちろん、イリス自身が強いからこそ、さらに強くすることで身を守れるようにするという意味合いもあるけれど。


「それより団長。昨日の今日で暗殺者がやってくるのはどうなっているんですか」

「こちらが後手に回ったことに関しては申し訳ないと思っているよ。まあ、こういう事態に備えて君を派遣したわけだが。今の守りはどうなっている?」

「今日のうちに学園周辺には《結界》を仕掛けました。僕ならある程度離れていても十分に間に合います。それと、イリスさんには剣を教える代わりに、その証としてお守りを渡しておきましたよ」

「お守り?」

「現在いる場所が分かるお守りですよ。こういうのは一番嫌がられるタイプなんですけど、本人を見失うわけにもいかないので」

「ああ、探知の魔法か。それなら本人に直接魔法をかけた方が楽だろうに」

「さすがにイリスさんにはばれるでしょうからね」


 常にイリスがどこにいるか把握しておく必要がある。

 通常の護衛ならば傍にいれば問題ないのだが、今回は僕の正体を伏せている。

 だから、傍にはいつつも常にイリスがどこにいるか把握しておく必要があった。

 今は、彼女が女子寮にいることは分かっている。


「まあ、今後は連絡するときは直接僕のところに来てもらうことが多くなるとは思いますが、代理でもいいんですよ?」

「重要案件だぞ。私が直接出向くに決まっている」


 そう言いながらレミィルは再び酒をあおる。

 やはりサボりに来たようにしか見えないのがたまにキズだ。


「その点については団長に任せます。それより、暗殺者の方は?」

「ああ、君が始末した四人の暗殺者な。三人は同じ組織のものだった。結構有名なところで、どいつも手配されている奴らだったよ。そんな奴らを軽く制圧するとは、さすが私の見込んだ男だ」

「お世辞はいいですから、問題は四人目ですよ」

「世辞ではないのだが……まあいい。《剣客衆》アズマ・クライ――東方では負けなしと言われた剣豪だそうだ。戦場で斬り殺した人間は数知れず。暗殺者というよりも、真っ当な殺し屋だな。懸賞金もかけられている」

「懸賞金……!?」

「この国ではないがな。金に反応するな、金に」

「……そうですか」


 懸賞金ももらえたら、なんて考えるのは騎士としてあるまじきことだ。僕は考えてしまうのだけれど。

 真っ当な殺し屋――何とも妙だがまともな表現だ。

 強い相手と戦うために殺しをする、アズマはそういう男だったのだろう。

 以前の僕なら、少しはその気持ちも理解できるかもしれない。


(まあ、殺し屋の気持ちなんて理解する必要もないか。重要なのはそっちじゃない)

「アズマは僕が始末しましたけど、その剣客衆が他にもこの国に来ている可能性は?」

「そこだな。まだ可能性の段階だから言っていなかったが……こうなってくると伝えるべきだった。剣客衆と思われる者がこの王都にやってきた、という情報はある」

「それを早く教えてくださいよ……」

「可能性だけで言えばもっと敵は多かったんだ――情報をこれから絞ろうというときに襲撃があったんだよ。相手が剣客衆だと分かっただけでも大分動きやすくなる」

「それはそうでしょうが、人海戦術で探すつもりで?」

「そうしたいのは山々だがね。いかんせん、相手が相手だ。騎士は命を賭けることも多いが、私が部下を無駄に死なせるようなこともさせられないのでね。そこで少数精鋭というわけだ」

「少数精鋭……?」


 レミィルの言葉に僕は首をかしげる。

 さすがに僕一人のことを指して少数精鋭と言っているわけではないだろう。


「ああ、すでに捜索を開始している。今度は後手に回るようなことはしないさ」


 レミィルはそう言って再び酒を口に運ぶ。

 勝てる見込みのない戦いはしない人だ。

 僕がイリスを守り、その間にイリスを狙う人物を特定し、剣客衆も相手取るということだろう。


(それができるのならいいけれど……)

「ふっ、心配するな。私の選りすぐった騎士だぞ? 特に、まだ若いながらも実力のある《蒼剣》なんかも今回の任務には参加しているからな」

「蒼剣……以前は最年少騎士として有名だったとか」

「あっはっは、君に立場を取られてしまったがな。十分に実力のある男だよ。君は引き続き、イリス嬢の護衛を続けてくれ」

「了解です。程々に頑張りますよ」

「しっかり、頑張ってくれ」


 改めてレミィルから念を押される。

 僕のするべきことはイリスを守ること――そこに変わりはない。


「さ、話も終わったところで……今日は飲み明かそうじゃないか!」

「やっぱり飲みたいだけじゃないですか。僕、明日も仕事なんですよ」

「私も仕事だぞ」

「……なら、帰って休んでくださいよ」

「あっはっは、そういうわけにもいかないんだなぁ!」


 どうみても仕事が溜まっている、というのが丸分かりだった。


「そういうわけで、今からは君の将来の話をしてもいいぞ」

「はあ、まあ夜中まではダメですけどしばらくならいいですよ」

「さすが私の見込んだ騎士だ。いい仕事をする」

「仕事ではないですが」


 僕は小さくため息をつきつつも、レミィルの飲みにホットミルクで付き合うことになるのだった。

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