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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
138/189

138.共同戦線

 僕はアリアから少し遅れるようにして、屋敷の方へと向かった。

 周囲はすでにざわつき始めている――この結界はただこの周辺を覆っているだけではない。

 中心部に作り出されているのは、『召喚用のゲート』……ここは、大規模な召喚魔法が行使されている。

 それも町中に魔物を呼び出すなど、明確なテロ行為に他ならなかった。

 屋敷の前では、すでにアリアがイリスと合流している。

 他にも数名、彼女達の傍にいた。

 イリスは赤いドレス姿で、いつものイメージと違う様相に少しだけ驚く。

 けれど、今はドレスの話をしている場合ではない。


「すみません、少し遅れました」

「! 先生、この周辺を中心として、召喚魔法が行使されているみたいです」

「ええ、把握しています。このタイミングだと……ここを狙った可能性も高いでしょう」

「ボク達が顔合わせをするタイミングを狙ってくるとはね……。面倒なことになったよ」


 服装から察するに――彼がイリスに婚約話を持ち掛けた、カシェル・ラーンベルクだろう。

 付き人のメイドと共に、僕の前までやってくる。


「君がイリスの護衛の……アルタ・シュヴァイツかい」

「僕のことはご存知ですか。それならば話早いですね。狙いがここだとするのなら、イリスさん――イリス様かカシェル様のいずれか、あるいは両名が狙われている可能性があります。僕は他の騎士に指示をして動きますので、あなた達はここで待機を」

「! 魔物が町を襲おうとしているんですよっ。待機なんてしていられません!」


 ……やはり、イリスはそう言うだろう。

 当然、隣に立つアリアも反論する。


「イリスの言う通り、迎え撃つ方が早い。だから、イリスはここで待機して」

「あなただけ動こうとしないっ! 先生、私なら戦えます。私も先生と一緒に――」

「なりませんぞ、イリス様」


 イリスの言葉を遮ったのは、一人の老人であった。

 老人と言っても、しっかりと背筋を伸ばして立つその姿は、貴族の従者と呼ぶに相応しい。

 イリスの護衛で執事を務めている人だろう。


「お嬢様もカシェル様も、それにアリアもここから動かぬように。ここが狙われているというのなら尚更でございます。この老体は、お嬢様を守るためにあるのです。それなのに、自ら狙われに行くなど危険極まりない。そのような愚行を犯さぬように」

「ウェルマン……あなた、何を言っているの?」


 老人――ウェルマンの言葉に、イリスは明確な怒りの表情を見せる。

 それを見たウェルマンは、少し驚いた表情を浮かべていた。


「あなたの役目は私を守ること――確かにその通りかもしれない。けれど、私はここで守られているわけにはいかないの」

「ご自身の立場をお考えください。貴女はラインフェル家の跡取りでもあるのです」

「考えて言っているのよ。私は四大貴族……ラインフェル家の娘よ。私達が何故、貴族としていられると思っているの? ラインフェル家も含め、この国のために戦ってきたからこそ、今の地位があるのよ。それを、ただ貴族として皆から認められるようになったら、今度は守られるだけ? そんなことがあっていいと思っているの? 私は――貴族としての役目を果たすのよ。今、危険に陥っているのは私達ではなく、対抗する術のない人々よ。だから、あなたの役目は私を守ることではなく、私と共に戦うことよ」


 イリスはそうはっきりと宣言する。

 一切の迷いのない言葉に、ウェルマンは驚いた表情を浮かべたまま、一歩後ろへと下がった。

 僕も、イリスの剣幕には少し驚く。――けれど、だからこそ彼女らしいと言えるのだろう。

 ため息交じりに、少しだけ笑みがこぼれた。


「――君の気持ちは分かりました、イリスさん。なら、僕も君のことを信頼して話すことにしましょう」

「! シュヴァイツ先生……」

「先生、わたしも」

「そうですね。現状、ここが狙われている可能性はありますが、それ以上に相手が魔物である以上――周囲の人達が危険です。なので、魔物を倒しつつ結界を破壊する方法を探らなければなりません」

「結界を破壊する方法なら分かるよ」

「!」


 話に入ってきたのは、カシェルであった。

 僕達の話を聞いていたようで、イリスの傍に立つと言葉を続ける。


「彼女の言う通り、ボクも四大貴族の一人。この状況を打破するために力を貸そう」

「ありがとうございます。それで、結界を破壊する方法とは?」

「この手の大規模結界は、一部を破壊した程度では崩れることはない。おそらく、数十名規模で結界を作り出しているはずだ」

「数十名ですか」


 それを聞くと、レミィルから聞いていた『魔法教団』――《ブルファウス》についての話を思い出す。

 丁度、この辺りを拠点にしているという話もあった。

 その組織が、二人を狙って動いたということだろうか。


「結界の根幹となる部分――すなわち、四方にそれぞれ魔導師が集まっているはずだよ。それをコントロールする者も。一度発動してしまえばすぐに破壊はできないけれど、結界自体を壊すには四方にいる術者を倒す必要があるね」

「なるほど」


 四方となると、結構な距離になる。

 僕なら確実に一つは破壊できるが、集団でいるとなると、相当な戦力になる可能性もある。

 ――そんな僕の考えを理解しているかのように、イリスとアリアが前に出た。


「私が一つ、担当します」

「わたしも」

「イリス様――」

「ウェルマン、あなたのことは信じているわ。だから、民衆を守るために力を振るいなさい。それが……私からの命令よ」


 イリスがそう告げると、眉を顰めてウェルマンは沈黙する。

 だが、やがて小さくため息を吐くと、


「……父上によく似ておりますな、お嬢様は」

「ええ、だって私は父様の子だから」

「その通りでございます――では、このウェルマン。お嬢様の命に従い、民衆の者達が傷つくことがないよう、力を振るいましょう」

「! ありがとう、ウェルマン」


 イリスが感謝の言葉を述べると、ウェルマンは微笑んだ。

 そうして、ウェルマンは僕の元へと近づいてくる。

 その表情からは、少しだけ敵意が感じられた。


「アルタ・シュヴァイツ――私はお前のことを認めたわけではない。しかし、ここはお嬢様のために動くとしよう。お前は騎士らしく、役目を果たすのだな」

「はい、よく理解しているつもりです」


 そう一言だけ、言葉を交わす。

 僕がイリスの単独行動を認めたことを、咎めているのかもしれない。

 イリスの成長が喜ばしい反面、彼にとっては複雑な心境なのだろう。

 本当ならイリスやアリアのような子供に――重要な戦況を任せるべきではないのかもしれない。

 けれど、僕の知る限りでも、彼女達は一般の騎士よりも頼りになる。

 すぐにこの状況を打破するためには、四か所の同時攻略が望ましい。


「そうなると、残り一か所は――」

「私の出番かね、シュヴァイツ一等士官」

「! スティレット騎士団長。団員への指示は?」

「優秀な者が多いのでね。すでに民間人を保護するために動かしている。状況を見るに、一か所攻める人間が足りたいというところかね」

「あなたが行ってくれるというのなら、助かります。これで四方向……何人か騎士に協力してもらって、少数で部隊を組みましょう」

「そうなると、ボクは手が空いてしまうね。……そうだな。なら、ボクは君と一緒に行動させてもらうよ。アルタ・シュヴァイツ君」

「! カシェル様……それは構いませんが、動くとなると危険が伴います」

「言っただろう。ボクも貴族として動く、と。君はここで待機していてくれ。僕もラーンベルクの――魔導師の家系の力を見せるとしようじゃないか」


 カシェルが控えていたメイドに指示を出す。

 ――これで、即席ではあるが作戦は決定した。

 突如出現した大規模結界攻略のため……二つの勢力が、それぞれ手を組んだ形だ。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] さすがにちょっと血の気が多いかなって思ったイリス。 矜持があるのはわかるけど公の場だし周りに実力者も多いから護衛される側でないと護衛がいる意味が無くなっちゃうかなって。
[一言] 更新お疲れ様です。 イリスの『矜持』 守られるのでなく守る為に打って出ることを選択!! 次回も楽しみにしています。
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