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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
132/189

132.婚約話

 翌週、正式にエーナの留学に関する話が会議の話題にもなり、無事に僕のクラスで受け持つ方向になった――というか、なってしまった。

 何でも、エーナが自らイリスのいるクラスを希望したらしい。

 彼女らしいと言えば彼女らしいが、これで僕のクラスには四大貴族にして《剣聖姫》と呼ばれるイリスに加え、帝国元帥の娘であるエーナまで加わることになってしまう。……まあ、大きな問題がなければいいのだけれど、もしかして僕の護衛任務にエーナもついでに加わったりするのだろうか。

 レミィルからは特にその話は聞いていないけれど。

 そうなったらそうなったで……追加給料を要求することにしよう。

 お金に繋がることであることには違いないけれど、僕の仕事は益々ハードワークになっている気がする。……元々は、剣聖姫の護衛という、彼女が強すぎるために楽ができる可能性もあると思っていたのだけれど、まあそれはもう忘れた方がいいのかもしれない。

 どのみち、もらう給料の分はしっかり働くつもりではあるし。

 エーナの他にメルシェも入学するのでは――そう考えていたが、彼女の話は上がってこなかった。

 何を考えているのか分からないけれど、少なくとも意味もなくエーナが留学してくるはずもない。

 僕としては、一度は共に共同戦線をした身だ。良からぬことをしようとしてやってきたとは考えていない。


「……シュヴァイツ先生!」

「! イリスさん?」


 不意に後ろから声をかけられ振り返ると、こちらに駆けてくるイリスの姿があった。

 手には何やら紙を持っている。


「すみません。今週なんですけど、一日お休みをいただきたくて、申請書です」

「平日にですか? 珍しいですね。何か予定でもあるんですか?」


 ちらりと書類に目を通すが、そこには『私用』としか書いていない。

 学園を休んで用事を済ませる生徒も少なくはないが、イリスが申請してくるのは初めてだった。


「えっと、はい」


 イリスは何やら歯切れ悪く頷く。……何か僕に隠したいような雰囲気があるのは、見て取れた。

 それならば別に深くは聞かない――そう言いたいところだが、僕の役目を踏まえると、聞いておかなければならないのだ。


「イリスさん、念のため予定について簡単に聞いても?」

「……人におおっぴらに話すようなことでもないですし、それに断るつもりなので……その……」

「断るって、何の話です?」

「実は……先日、先生とお休みの日にたまたまお会いしたじゃないですか」

「ああ、イリスさんが猫――」

「それは忘れてくださいっ。こほん、とにかく、その日に実家――ラインフェル家から連絡がありまして」

「! ラインフェル家から……?」


 イリスに対しての連絡ならば、それなりに緊急を要する話ではないだろうか。そう思ったが、何やらイリスの態度を見るとそうではないらしい。

 イリスは一呼吸置いてから、ようやく予定について話を始める。


「……実は、婚約話が持ち上がっているんです」

「……へ、婚約ですか?」


 ある意味、今までで一番驚いたかもしれない。

 そんな僕に対して、イリスは少し慌てた様子で続ける。


「も、もちろん断るつもりです! 私はまだ学生ですし、それに……騎士になる夢がありますから」


 騎士になるなら婚約してはならない――そんな決まりはないが、彼女にとっては騎士になることはスタートラインであり、婚約など微塵も考えていないことなのだろう。

 突然の話で驚きではあるが、貴族間ならそういう話があってもおかしくはないか。僕にも以前、許嫁を用意する……そんな話を聞かされたこともあったし。

 もちろん、王都にやってきて騎士になったから、その話は流れたけれど。


「そうですか。では、お相手と会うのが授業のある日なんですね」

「はい。お会いしてお断りするつもりなので、すぐに終わるとは思うんですが」

「一応、そのお相手について聞いても?」

「相手、ですか? ラーンベルク家のご子息です」

「ラーンベルク――ん、ラーンベルク? それって、現四大貴族のラーンベルク家ですか?」

「え、そうですけれど」


 さらりと頷くイリス。四大貴族同士の婚約話――僕が思ったよりも、大きな話であるように思えた。


「その話……ラインフェル家とラーンベルク家しか知らないこと、ですよね?」

「え、そうだと思います。こういうのって、婚約が正式に決まったら公にするものなので」

「そうですね……では、僕もその日はお休みを取りましょう」

「分かりまし――え、先生もですか!?」


 僕の言葉に驚くイリスに、笑顔で頷く。


「僕は君の護衛ですから。そういう席こそ、護衛は必要では?」

「いえ、ですが……」

「ご心配なく。その場に立ち会うわけではありません。近くで待機しておくだけですから」


 これは僕の独断で決めたことだが、どのみちレミィルに話せば護衛しろ、と言われそうだ。

 少し前にレミィルから、貴族の情勢については聞いている。それぞれの騎士団が、王族や四大貴族を擁立しているということも。その件を踏まえれば、イリスに対して婚約の話をするのは国の今後に関わることだろう。それに――クロエが言っていたことも気になる。


「え、えっと、絶対婚約は受けないので心配しないでくださいね?」

「僕は別にそこは心配していませんが」


 何故かそこを念押ししてくるイリスに、苦笑いしながら答えるのだった。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[良い点] 護衛対象が強いほど狙ってくる刺客も強くなりやすいことに気づいてないアルタくんだ…
[一言] にやにや
[一言] 更新お疲れ様です。 貴族あるある>見合い 後継者争いのトップグループの一人であるイリスに縁付けようと画策かな? あと騎士志望の彼女の夢を諦めさせる為に篭絡の面も!? しつこい周りに憤って…
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