126.団長会議
「エーナ・ボードル様からご連絡あった通り、帝国軍の小隊が《フェンコール区画》に先日到着された。《黒狼騎士団》で監視を続けている」
レミィル・エインは手元の資料に目を通しながら、現状について報告した。
ここは、《王国騎士団本部》の会議室。集まっているのは、王国に存在する五つの騎士団の団長達だ。
……だが、今日は欠席者が二人もいる。代理で報告のみにやってきた騎士がいる状況であった。
それでも、二人以上いれば騎士団会議は実施される。
「承知した。他に報告のある者は?」
レミィルの次に声を発したのは、王国の中心部を管理する《守護騎士団》の団長――テウロス・グレヴァー。
常に鎧に身を包んだ大男で、《最硬の騎士》と王国では喚ばれている。
彼が使用する《結界魔法》は、大型の魔物でも簡単に破壊することはできない。
故に、王宮近辺の守護を任されているのだ。
長年、騎士団長を務めているテウロスは、《現王》であるウィリアム・ティロークからの信頼も厚い。
守護騎士団がその息子であるゼイル・ティロークを擁立していたのも、その繋がりがあったからだろう。
だが、ゼイルは『イリス・ラインフェルの暗殺未遂』で投獄されている。
《次期王》の候補者としては二番手に位置していたにも拘わらず、くだらない感情で凶行に走った。
あのような男だったと分かったことが、不幸中の幸いとでも言うべきか。
ウィリアムも、息子の罪に関して寛容になるつもりはないようだ。……現王家であるためにまだ権威を保っているティローク家だが、次代の王に選ばれることはないだろう。
それでもこのテウロスという男は、ティローク家を擁立するようだ。
ウィリアムの信頼に応えた形となるだろう。
「報告というわけではないが、質問がある」
スッと手を挙げたのは、長髪で細身の眼鏡をかけた男。一見すると頼りないように見えるが、彼もまた騎士団長の一人。《聖鎧騎士団》を束ねるヘイロン・スティレットだ。丁度、帝国の視察団がやって来たときも、レミィルは彼と何度か打ち合わせをしている。
ヘイロンの傍らには、彼が愛用している長刀が見える。
先日、ルイノが殺害した《剣客衆》の一人が所持していた剣を見て、『使ってみたい』というくらい長い得物に興味があるらしい。
さすがに、あれほどの長さのものをこの男が使えるともレミィルは考えていない。
「なんだ、ヘイロン」
「守護騎士団内での『反乱分子』については全員見つかったのかね。もう随分と経つように思えるがね」
「現状も調査中……が回答となる」
「なるほど。なら、私の騎士団からも調査員を数名派遣しようかね。あまり時間がかかっては、それこそ『今後』のことに差し支えると思うのだよ」
「それは――」
「必要ないだろう。その件については、王がテウロスに一任している。我々が口を挟むことではないよ」
レミィルが二人の会話に割って入る。同じ騎士団でありながらも、こうして互いに『牽制』し合うような状況が続いている。
それは『権力』に関わってくることだからだ。
レミィルは権力に興味があるわけではない――だが、いつまでもこうして同じ国の人間でありながら、上辺だけは協力関係を敷こうとする者を毛嫌いしていた。
そういう意味では、レミィルはテウロスのことを評価している。
ゼイルのことがあっても――テウロスはティローク家を捨てなかった。それが、彼の忠臣としての姿なのだろう。
それは今のレミィルとも、似た状況にあると言える。
騎士団はそれぞれ、次代の王となる者を擁立する習わしがある。
黒狼騎士団が擁立するのは、イリス・ラインフェル。現行で第一候補に挙げられる《剣聖姫》だが、彼女が王という立場を目指していないことと、そもそも興味もないことを――知っている者は少ない。
イリスが次期王になると名言すれば、今の段階であればほぼ確実に彼女が王となることになるだろう。
だが、イリスが目指すのは騎士なのだ。
王もまた国を守る立場にあるが、自ら前線に立って戦うことは許されない。
イリスの生き方には、初めからその選択肢は存在しないのだ。
レミィルはまだ、その件についてイリスと深く話し合ったことはない。騎士団長であったガルロの娘である彼女が選ぶ道を尊重したいとは思う。しかし、国のことを考えるのであれば、イリスを説得するという考えもあった。応じてくれるかは分からないが。
「……確かに、王が彼に任せたのは事実だね。今の質問はなかったことにしてくれて構わないよ」
「では、各々の騎士団は報告した件についての対応を願う。王への報告は俺がしておこう」
「ああ、任せる」
「理解したよ。ところで、最近のウィリアム王の体調はどうなのかね?」
「……比較的良好だと言える」
「そうかね。それは僥倖なことだよ」
「他に質問は?」
「ないよ、煩わせたね」
「では、解散とする」
こうして、騎士団長会議が終わる。
ヘイロンのテウロスに対する最後の質問は……レミィルも気になっているところではあった。
数年前から体調を崩しがちであったウィリアムが、公の場に姿を現すことは少なくなっている。
ゼイルの件があって以降、さらに露出の機会は減ってしまっていた。
レミィルが会議室を出ると、
「少し待たないか、レミィル」
声をかけてきたのは、ヘイロンだった。
「……ヘイロンか。何か?」
「先ほど私が議題に出した件だよ」
「ああ、近頃噂の《魔法教団》か」
ヘイロンが報告したのは――王国内に存在する組織の動きが活発化しているということ。
魔法教団――組織名は《ブルファウス》。かつて、《賢者》と呼ばれた男の名を冠する組織であった。彼らは《魔優主義》という、《魔導師》の権利や立場を主張する団体だ。
「魔法に関しては、《ガルデア王国》は先進国ではないからな。いくら権利を主張しようとも、話は聞けるが優位にすることはできないだろう」
「魔法の効かない魔物もいる――それは私も理解していることだよ。だが、彼らの中には過激派もいるよ。自らの力を使うことで示すような輩がね。丁度、フェンコール区画の近くでも彼らの構成員を見た。気を付けたまえ、という警告だよ」
「……意外だな。君が私に警告とは」
「そうかね? 私は君とは『仲良く』やれると思っているよ」
薄ら笑いを浮かべて言うと、ヘイロンがその場を後にした。
長い得物をカラカラと引き摺りながら、小さくなっていく背中をレミィルは見送る。
……わざわざ警告してきたということは、確かにヘイロンは協力するつもりはあるのだろう。
(……だが)
何か、別の意味合いもある気がした。
レミィルの勘でしかないが、ヘイロンは何か企んでいる。その企みが何か分からないが……ヘイロンの言葉通り、黒狼騎士団としても警戒すべきことには警戒しなければならない。
そう考えていると、レミィルの下へ一人の騎士が駆けてくる。
「レミィル・エイン騎士団長っ」
「なんだ、次から次へと……」
「……はい?」
「いや、何でもない。どうかしたのか?」
「実は、騎士団長にお会いしたいという人物がいらっしゃっておりまして」
「……私に客? エーナ様か」
「いえ、マリエル・シュヴァイツと名乗る女性でして」
「……何だって?」
それは、レミィルもよく知る女性の名だ。何せ、レミィルが最も信頼している部下――アルタ・シュヴァイツの姉の名だからだ。
話を進めるごとにキャラが増える不具合が……!






