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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
11/189

11.元《剣聖》

「はあ……ふっ」


 イリスは息を整えて、周囲を確認する。

 いない――途中までは確かに追いかけていたのに、いつの間にか完全にアルタを見失ってしまっていた。


「くっ……」


 イリスの顔色に焦りが見える。

 時間もそこまで経過していないとはいえ、早い段階でアルタに逃げられてしまっている。

 しかも、追い付ける気もしなかった。


(正攻法でダメなら、何か作戦を考えないと……)


 ここでようやくイリスも、アルタを見失ったことで冷静になる。

 確実にアルタの方が強い――そんなアルタが追いかけっこを提案した時点で、それはイリスに勝つ自信があるということなのだろう。

 思考を巡らせ、アルタに勝つ方法を考える。捕まえるだけならば、方法は決してないわけではない。


(一先ず、戻ろ――)


 瞬間、イリスはその気配に気付く。

 同時に視界に入ったのは、銀色の刃。

 二方向から飛んでくるそれを、イリスは咄嗟に回避する。

 地面を蹴って後方へと飛ぶが、わずかに反応が遅れた。


「っ」


 一本の刃が肩をかすめる。

 だが、深い傷ではない。

 イリスは傷を気にすることはなく、


「……先生、ではないよね」

「ハッハッ、オレのことを先生って呼んでもいいんだぜェ」


 ガサリと草木が揺れ動き、現れたのは三人の人陰。ローブに仮面を着けた姿で、統一感がある。

 それだけで、彼らが暗殺者であると理解するには十分だった。

 イリスはその姿を見るや否や、構えを取る。

 右手に走るのは電撃――《魔力》を変換したことで発生したもの。《魔法》を発動するのに必要なことだ。

 魔力を帯びた右手に、さらに魔力が集中していく。だが、


「……っ!?」


 がくりと、イリスがその場に膝を付いた。

 視界が揺らぎ、力が入らない。

 右手に集めた魔力も霧散していく。


(麻痺、毒……!)

「気付くのが遅れたなァ。貴族のほとんどは魔法が使えるようになったら《解毒魔法》から覚えるそうじゃねェか。んなもんでよォ、オレらの間でも麻痺毒っつーのが主流なわけよォ。短時間で効き目バリバリなやつ。動けねェ奴を殺すのなんて、数秒もかからねェんだからなァ。《剣聖姫》様でも変わらねェんだよ」

「……!」


 イリスは全身に力を込める。

 だが、身体の自由が利かない。

 走るのはおろか、立ち上がることすらできなかった。

 麻痺毒ならば、解毒するのにも一人では難しい。暗殺者達の狙いはそこだ。

 そして、イリスにはどうして暗殺者がやってきたのかも分かる。そういう立場にあると、イリスはよく理解しているからだ。


(だからって……!)

「おっ」


 若い声の暗殺者が少し驚いた声を上げる。

 震えながらも、イリスは麻痺した身体で立ち上がったのだ。

 意識ははっきりとしている。このまま、やられるわけにはいかない。


「すげェな。大型の魔物の動きも止めるような奴だぜ。気合いで立ってんのかよ。さすが剣聖姫だな?」


 仲間の二人に語りかけているのだろうが、返事はない。

 そんなイリスの抵抗を笑うように、若い声の暗殺者が前に出て、懐から刃を取り出す。


「でも残念だなァ。そんなふらふらな状態じゃ、殺すのも楽なもんよ」

(こんなところで、私は、死ねない……)


 イリスはそれでも構えようとする。

 暗殺者達も構えた。

 仮にこのまま戦えば、イリスに勝てる見込みはない。それでも、何もせずに殺されるつもりはなかった。


「ハッハッ、無駄な抵抗だぜ」

「――やれやれ、男が寄ってたかって一人の女の子を狙うなんて、見ていて気持ちのいいものではないね」

「……え?」


 ストン、と降り立つようにやってきたのは、一人の少年。

 イリスが追いかけてきた、イリスよりも年下だというのに、ずっと強い少年だ。


「シュヴァイツ、先生……!?」

「はい、先生ですよ」


 イリスの呼び掛けに、アルタが答える。

 その表情はやってきた時と変わらずにこやかで、今の状況にはとても合わなかった。


「……ハッ、ハッハッ! お前が先生!? 随分と面白れェとこだなァ」

「学生ならまだ、見掛けで判断するのはいいですよ。けれど暗殺者ともなれば見掛けで相手を判断するのはダメでしょう」

「見掛けも何も子供だから笑ってんだろうがよォ。それにしても、こいつがもう一人森の中に入った奴だろォ。他の二人は何してん――」


 そこまで言いかけて、ピタリと動きを止める。

 何かに気付いたように、暗殺者達がアルタを見る。


「テメェ、殺ったのか」

「はい。これからあなた達もそうなりますが、その前に……」


 ちらりとアルタがイリスに視線を向ける。

 イリスから見ても、アルタは子供でしかない。

 ――だというのに、ここにアルタがやってきただけで、イリスの中に安心感が生まれていた。

 それを、イリスは認めたくないというように手を強く握る。


「イリスさん、少し学生には刺激の強いものになるかもしれません。覚悟がないなら、目を瞑っておくように」


 アルタがそう言って、視線を暗殺者に戻す。

 イリスは視線を逸らすこともなく、真っ直ぐアルタのことを見た。

 今は戦いを見ることが覚悟になるというのなら、イリスはこれを見ないわけにはいかない。


「ハッ、大層な自信じゃねェか! 二人殺ったくらいで調子に乗ってんじゃねェぜ!」

「いえ、これで三人目ですよ」

「――あァ?」


 若い暗殺者の間の抜けた声が響く。

 短刀を持っていた腕は切り落とされ、すでに首元まで斬撃が及んでいる。

 イリスにすら、その二撃を目で追うのがやっとだった。


(速い……速すぎる!? それも、武器も持ってないのに……!)

「さて、これで残りは二人……ですね」


 イリスにも理解できた。

 アルタの言う覚悟とは、イリスが戦いたいと言ったアルタの強さを目の当たりにする覚悟があるかどうかだということが――

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