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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
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107.決意を以て

 イリスとアリアは別行動を取っていた。

 すでに、アルタが姿を消している――灯台の方に向かっていることは分かっているが、クラスのことは『任された』と認識している。

 だから、それぞれがカバーできる範囲で守るために行動をしていた。

 アルタが単独で行動しているのは、自分だけが狙われていると分かっているからだろう。

 故に、イリスとアリアの方に危険が及ぶ可能性は少ない。

 周囲には王国の騎士達も潜んでいる……故に、イリスは安全な場所からアルタの帰りを待つことがきっと、正しい道だ。


(本当に、そうなの……?)


 イリスの中に生まれたのは、そんな疑問だった。

 アルタに全てを任せて、自分は何もしない――アルタはそれを望んでいるのだろう。

 アルタにとっては、イリスは護衛の対象であり、剣の弟子でもある。けれど、実際には『護衛の対象』という存在としての方が、アルタの中では大きいのかもしれない。

 イリスよりも……先にアリアには状況を話していた、という事実については、すでにイリスの知るところでもあった。

 それに嫉妬しているわけではない――状況として、アリアに話す必要があったから、アルタが狙われている状況についても、説明したのだろう。

 だが、アルタはきっと、イリスにその事実を話すつもりはなかったはずだ。


(……私は、まだ守られるだけの身だから)


 イリスには力が足りない――そう思った。けれど、違う。

 アルタがイリスに言ったのだ。

『もしも君ができると思ったのなら――僕は君に任せますよ』、と。


「……なら、私のやるべきことは決まっているわよね」


 イリスが向かったのは、崖の上に立つ灯台。山道のようになっている坂道を、イリスは進んでいた。

 視界は開けているため、灯台までの道のりははっきり見える。

 アルタと『敵』は、きっとそこにいる。

 イリスは迷うことなく、突き進んだ。腰に下げるのは《紫電》。

 紫色の刀身を持つ剣は太陽の輝きを浴びると、時折強く輝きを見せる。

 すでに臨戦態勢に入ったイリスの視界には――一人の少女の姿があった。


「にひっ、こんなところまで何しに来たの?」


 笑顔を浮かべるのは、着物姿の少女……ルイノ。両手を頭の後ろに組んで、楽しげな笑みを浮かべている。

 まるで、これからお祭りにでも行くような雰囲気だ。

 ……ルイノにとっては、お祭りで間違っていないのかもしれないが。


「あなたこそ、ここで何をしているの?」

「決まってるじゃん。あたしの『狙い』が目立つところにいるからさぁ。手っ取り早く乱入しようと思って!」

「乱入……《剣客衆》を全て倒してから、だったはずでしょう?」

「それもそうだけど……だってあいつら、隠れてばっかりなんだもん。正直、拍子抜けしちゃうよね。こっちは夜通し探して眠いってのに……。そしたら、あんな目立つ場所に一人いるんだよ? それも、アルタと一緒に! 二人の戦いが始まったらさ……にひっ、自然な形で混ざっちゃおうかなって」


 灯台の方を見据えて、ルイノが言う。やはり、彼女には一切の仲間意識など存在していない。

 明確にルイノは――アルタにとって敵にしかならない存在だ。

 イリスはそっと、腰に下げた剣に触れる。


「……それを抜くってことは、あたしと戦うつもりがあるってこと?」

「ええ、そのつもりできたわ」

「! へえ……」


 ルイノが感心するように、視線をイリスの方に向けた。

 イリスがルイノと戦う――そう答えるとは思っていなかったのだろう。


「それは、あたしを殺す覚悟ができたってこと?」

「……最初に言ったはずよ。私は、『必要があればそうする』」

「はあ……? ここにきて、拍子抜けするようなこと言わないでよ。あたしと戦うために来たんでしょ? それなのに、答えは同じなの?」


 ルイノの表情から笑顔が消える。

 初めから、イリスの気持ちも覚悟も変わらない。


「ええ、そうよ。私の目指す道は――あくまで『騎士』だもの。ルイノ・トムラ……あなたがシュヴァイツ先生を狙うと言うのなら、私はそれを止めるだけ」

「それをするなら、あたしを殺す以外にはないと思うけど?」

「いえ、方法はあるわ」

「……その方法っていうのは?」


 ルイノの表情が鋭くなる。

 イリスがどう答えるか――きっと、それによってルイノの態度は大きく変わるだろう。

 嘲笑するかもしれないし、楽しそうな笑みを浮かべるかもしれない。

 けれど、どっちだっていい……相手の態度なんて、気にする必要もないのだから。


「私は――っ!」


 ルイノに対し宣言をしようとした時、イリスは後方から感じた気配に振り返る。

 尋常ではないほどの殺意。距離があっても、すぐに理解できた。

 ルイノもまたそれに気付き、嘆息する。


「……また、いいところで邪魔が入った」


 この殺意は、イリスに対して向けられたものではない。

 何故、ルイノに対してそこまでの殺意を向けているのか分からない――それでも、明確に敵がいることは分かっている。

 そして、イリスもある事実に気が付く。


「アリアと……ロットーさん……!?」


 遠くからでも、そこにいる少女二人の姿は分かる。

 親友であるアリアと、クラスメートのミネイ・ロットー。

 その前に立つのは、赤色の剣を持つ人影。聞いている情報と合致するのは、剣客衆のゼナス・ラーデイだ。


「……っ!」


 イリスは理解し、すぐに駆け出した。

 ルイノと戦う決意をして、ここまでやってきた。けれど、それ以前に――アリアとクラスメートが危機に瀕しているのならば、そちらを優先して助けようとするのがイリスだ。


「にひっ、お先に!」

「! あなた……」


 イリスよりもさらに素早く動いたのは、ルイノの方であった。

 身を低くして駆け出し、圧倒的な速さでルイノがゼナスとの距離を詰める。

 ゼナスもまた、アリアやミネイから視線を逸らすと、呼応するのにルイノの方へと向かう。

 次の瞬間、赤色の大きな刃が坂道を覆った。

 イリスの視界に入ったのは、刃をかわしながらも、ミネイを助けるために崖から突き落とすアリアの姿。

 崖の下は海になっている――アリアの判断は正しい。このまま戦闘にミネイを巻き込むくらいならば、海に投げ出した方が安全だと考えたのだろう。

 イリスもまた、すぐに状況に応じた最適解に辿り着く。――勢いのままに、イリスは崖から飛び降りた。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[良い点] どのキャラクターも覚えやすくて(忘れずにいられるので)いいですね!
[一言] 更新お疲れ様です。 腹は決まって、愚直なまでに『理想』を追求するイリス・・・・ ルイノと一触即発の事態に至り、すわ決闘と思いきや剣客衆が(><) 入り乱れる状況の中、戦いの結果や如何に? …
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