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第8話

 箕浦と小川は、ホワイトボードの前で判明しているだけの事件の内容を聞いた。

 引継ぎを受けた箕浦は、空になった湯飲みを胸の前で振りながら復唱した。

「害者は、河野佳奈(こうのかな)、11歳。死亡推定時刻、16時から17時。害者は、鋭利な刃物で喉の左を滅多刺しの状態。遺体解剖の結果、左頚動脈切断による出血性のショック死と判明。凶器は、害者が左手で握っていたカッターナイフと思われるが、滅多刺しのため刃の形状を合わせるのは困難で、凶器がカッターナイフかどうかは不明。事件時刻に現場にいた家政婦の前田政枝(まえだまさえ)42歳と姉の河野三樹(こうのみき)14歳は、ルミノール反応無し。今分かっているのはこれだけか」

 箕浦は復唱してから空になった湯飲みを同僚の刑事に向けて言った。

「徹夜同然で捜査をした君の努力は認めよう。だがな、休暇中の俺を呼ぶ時は、もっと状況証拠が揃ってからにして欲しかった。これだけでは、俺も捜査のやりようがない」

「すいません」

 目の赤い刑事はしょぼくれる。

 箕浦はホワイトボードに背を向けた。

「小川。朝飯ついでに、害者の家に行くぞ」

「はい」

 小川は、目の赤い刑事に「やっと箕浦さんがやるきになった。Good Job!」と小声で言ってから、箕浦の後に続いて捜査一課をあとにした。


 姉妹が住んでいる場所は新宿区左門町。周辺は神社仏閣が多い。それに加え四谷警察署がある。

 箕浦と小川は、四谷署から近いという理由で自転車に乗って姉妹の自宅へ向った。

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