第4話
「今夜は遅くなるんだ」
三樹は、両親が不在の夕食に慣れているようで淋しがる様子もなく返事をする。
家政婦も特に顔色を変える様子もなく台所へ行き夕食の準備を始めた。家政婦の歳は40歳前後。ショートヘアーの薄化粧で、エプロン無しの綿ズボン姿。小太りだが足取りを見ると身のこなしが軽そうだ。まな板の上で包丁を動かして軽快な音を立て始める。
リビングのテーブルに座ってゼリーを食べている三樹は、カウンターの覗き窓から見える家政婦に言った。
「妹はおやつ食べたの?」
「はい。食べ終わっています」
「妹はどこ? 友達の家?」
家政婦は首を傾げて覗き窓からリビング内を見たり、台所から見える廊下を見たりしながら言う。
「さあ。さっきまでリビングでテレビを見ていたんですが」
「そう」
三樹はスプンを裏返しにしてくわえキッチンで動く家政婦を見ている。
家政婦は台所で野菜を洗っていたが、蛇口をひねって水道の水を止めると手を拭いた。
「佳奈さんが心配なので探してきますね」
「うん」
家政婦は台所を出て行った。部屋を一つ一つ覗いて回る。
「佳奈さん。佳奈さーん」
家政婦が佳奈の名前を呼んでいるのが三樹にも聞こえる。
暫くして家政婦は台所に戻って来た。
「いた?」
「いないですね。どこへ遊びに行ったのかしら? 言ってくれないと私がお叱りを受けてしまうわ」
家政婦は三樹の問いに首を横に振って困った表情をした。




