第3話
家政婦は台所を出て、リビング内のカウンターにある電話の子機を取った。
「はい。河野です」
カウンターは台所のキッチンと繋がっていて、キッチンとカウンターを隔てている壁には、互いの上半身が見えるくらいの窓がついている。
会話をしているうちに三樹が中学校から帰って来た。
「ただいま」
家政婦は通話中だったため廊下に顔を出して三樹に会釈をする。
三樹は玄関から入ってすぐ右にある部屋に入り、学生カバンを勉強机の上に置いた。
机の上には棚があり、棚には鏡や化粧水など女性特有の生活用品が載っている。棚の左にある横板には父親が取り付けたフックがあり、フックにはハンガーにかかった室内着があった。三樹は室内着に着替えると、すぐ廊下に出て聞いた。
「おやつは?」
家政婦は子機を握ったまま台所を指さす。
三樹は台所へ行く。流し台の上を見てもおやつが無いため冷蔵庫を開けて中を覗いた。
冷えておいしそうなゼリーがある。
「これ?」
三樹が聞くと、家政婦はカウンターに手を置いて、カウンターとキッチンを繋いでいる覗き窓から三樹が手にしたゼリーを見て頷いた。
16時20分。11月の今は夕暮れになっている。
四谷中学校から帰って来た三樹は宿題をする前にリビングのテーブルで遅めのおやつを食べる。
家政婦は通話が終わり受話器を置くと、ゼリーを食べている三樹に言った。
「旦那様と奥様は、お仕事が遅くなるので、先に夕食を済ませるように。との事です」




