第24話
「姉が気にしていたのは、自分の猟奇の行動が周囲にバレた事だけ。亡くなっていたとはいえ、妹を刺した罪悪感を感じる言葉は一つも出てこなかったのが気になる」
「そうですね。僕も箕浦さんと同じ意見です。泣いた姉にあったのは「バレてしまった。どうしよう」という思いばかりで、妹を気の毒がる言葉が一つもなかったのが気になります」
小川は同調して頷いた。
箕浦たちは、居合わせた同僚の刑事に事情を説明して捜査の引き継ぎを済ませると、姉妹の自宅を後にした。
小川は自転車のロックをはずしながら言う。
「沼川海湖の「蓑虫戦士の大冒険」を持っていたんですね」
突然の話に、自転車のロックを外していた箕浦は、手を滑らせて自転車を倒してしまう。
小川は自転車が倒れた音にビックリして箕浦を心配する。
「箕浦さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
箕浦は息を荒くしながら自転車を起こして、自転車のロックを再び外し始めた。
「あいつの本は、好きで買ったんじゃない。ただの義理だ。義理。正解した分の推理代くらいは支払ってやらんとな。印税をよこせと恨めしい顔をしたあいつが夢に出てきそうで怖いんだ」
箕浦は自転車に跨ってペダルを踏む。
小川もペダルを踏んで箕浦の後に続きながら、ポツリと呟いた。
「義理で、暗記するほど読んでいるんだ」
箕浦は急に振り返る。
「何か言ったか?」
「いいえ」
小川は答えると、箕浦の背中を見ながら苦笑した。
終




