第2話
姉がカッターナイフを使って宿題の工作をしている時に指を切った事がある。
家政婦は泣き出した姉を見て、急いで応急処置をした。
夜になり帰って来た両親は、姉を抱き締めて刃物の扱いには気をつけるようにと諭した。
妹は、家政婦と両親の両方から心配される姉がとても羨ましく思えた。
もし自分も指を切ったら、みんなは心配してくれるのだろうか?
いつもなら刃を1センチくらい押し出せば充分なのだが、妹は更に押して長く飛び出た刃を眺めた。
刃は気味の悪い鉛色の光沢があるが、両親が姉に言うほど怖くない。
自分に刃を向けたらどうなるのか?
妹はカッターナイフの刃先を自分に向けてみた。
どうって事ない。怖いとも思わない。
刃に触れてみる。刃を軽く押さえるくらいでは切れやしない。力を加減すれば刃先で指紋の襞を弾いて遊ぶ事もできる。
親が口うるさく言うほど刃物は怖いものではないのだ。
妹はそう思った。危険を感じる感覚が麻痺し、刃物は怖くないと錯覚してしまったのだ。
それから妹の行動はエスカレートする。
妹は刃の広い部分を頬に当てた。冷やりとして気持ちがいい。今度は刃を頬に当ててみる。動かさなければ切れる事はない。
次に顎の下に刃を当てた時、家の電話が鳴った。
妹は条件反射で首を動かして電話が鳴った方角を見る。
その瞬間、妹の目の前に赤いものが飛び散った。
妹にとって、それは予期しなかった突発的な出来事で、妹は赤いものが何か認識する前に、意識を失った。




