第19話
三樹の閉じた口を見て、箕浦は三樹の心理状態を把握する。唐突に10代の少女に真実を求めるのは酷かもしれないと思った箕浦は三樹が持っていた児童小説を指さした。
「沼川海湖の「蓑虫戦士の大冒険」が好きなの?」
「はい。大好きです」
三樹は急に笑顔になる。
「読んだ?」
「はい。友達が持っていて、借りて読みました。今日、家政婦さんが買ってくれて、沼川海湖にサインもしてもらえて、超嬉しい」
箕浦も、笑顔になって言った。
「大学生の大川が、悪い魔女に魔法をかけられてミノムシになって魔法の世界を旅する話だよね」
「そうです」
「大川は蓑を背負いながら宿敵の魔女を探して旅をして、旅先でいろんな事を経験して学んで、皮膚もだんだん硬くなって強いミノムシ戦士になって魔女が住む城を目指す。城の中で戦って勝ち進み魔女の前に来た時、脱皮して蛾の羽が生えた戦士となって空を飛びながら魔女と戦って勝つ。最後はどうなるか知ってるかな?」
「はい。知ってます。大川は、悪い魔女の行いを許すんですよね。許したあと魔女によって城の壁画に封印されていた女神が神秘の力を取り戻して、大川の蛾の羽を虹色の蝶の羽に変えるんです。大川は、虹の羽で飛んで大学に帰った時、苦労して身につけた戦士の能力は消えてしまって、ただの人間に戻るんだけど、満足して暮らしていくんです」
箕浦は、深く頷いた。
「そうだね」
「おじさんも最後まで読んだの?」




