第18話
「そうですね」
箕浦たちが暫く尾行を続けていると、小川が感じたとおり家政婦は駐車場に向かい、車に乗って自宅に戻った。
箕浦たちは自宅に戻ってからも、家政婦と三樹の監視を続けた。
箕浦が外の塀にもたれて同僚の刑事から渡された握り飯を頬張りながら監視を続けていると、昼食が終わったのだろうか、三樹が一人で庭に出て来た。先ほど買った児童小説を抱えているが、読む様子はなく、ベンチに腰掛けてボーっとした表情で外の景色を眺め始めた。その瞳は全く動いておらず、遠くの何かをずっと見続けていた。
箕浦は食べかけの握り飯を小川に渡した。
「箕浦さん? これを僕に?」
箕浦は返事をせず庭にいる三樹を目指して歩いて行く。
「箕浦さん?」
小川は握り飯を近くにいた同僚の刑事に手渡すと急いで箕浦を追いかけた。
箕浦は三樹の前で腰を下ろして芝生に座り込んだ。箕浦の目の位置が少しだけ三樹の顔より下になる。
「聞きたい事があるんだが、今いいかな?」
「なんですか?」
箕浦の問いかけに、遠くを眺めていた三樹は箕浦に視線を移した。その瞳は、空き家の窓のように虚空の闇が広がっていた。
この少女に一体何が起きたというのか?
ベテラン刑事箕浦の長年培われてきた勘が働き、箕浦は勘が導き出した推理の結末を否定したい思いで質問した。
「妹の佳奈さんに何をしたのか、教えてくれないかな?」
三樹の口が少しだけ開いた。言いたい。でも言えない。




