第17話
「また、小説の話か」
箕浦は小川の横で美智子の話を聞いてため息を吐いた。
美智子は観察するために少女に集中しているようで、箕浦の嫌味を意ともせず、少女が手に持っている購入した児童小説を見ながら言う。
「それに」
言葉を止めた美智子に、小川は聞き返す。
「それに?」
「それに殺人犯は、私の小説を読まないと思うから……」
途中で途切れた美智子の言葉は、小川にも理解ができなかった。小川は具合が悪そうな箕浦に同情して、途中で途切れた言葉の詳しい意味を敢えて聞こうとはしなかった。
家政婦は書店を出て行く。
箕浦たちも書店を出るが、美智子は書店の出入り口で足を止めた。
箕浦が無言で振り返り美智子を気にするので、気を利かせた小川が代わりに聞いた。
「あれ? 沼川先生。一緒に来ないんですか?」
「可憐な妖精の私は、本の世界無しでは生きられないから、ここでお別れですわ」
いつの間にか妖精気分になっている美智子は、淋しそうな表情をして書店の中を指さした。サイン会の終了時刻はまだ先のようだ。
小川は美智子に会釈をする。
「そうですか。では、ここでさよならですね」
「小川さん。またね」
美智子は手を振った。
箕浦は、美智子の顔を見ずに書店を出た。三樹と手を繋ぎ笑顔で歩く家政婦を観察しながら尾行する。
小川は美智子が見えなくなると、箕浦の横に並んだ。
「帰るような雰囲気ですね」
「もう昼だからな。買えって昼飯でも食うんじゃないか。俺たちも自宅まで見送ったら昼飯を食うか」




