第13話
小川はすぐに悟り、嬉しそうにサインをしている沼川海湖を見て苦笑した。
小説家、沼川海湖。本名、野本美智子。25歳。ファンタジーをこよなく愛し、ファンタジー小説を専門に書き下ろしているプロの小説家である。
美智子の特徴は、両肩に載っている2つのお下げと横細の眼鏡。動きやすいカジュアルな服装で、必ず持ち歩くショルダーバッグには命の次に大切なノートパソコンが入っている。ノートパソコンは小説を書き下ろすための仕事道具である。
幼い頃からいろいろなものを見聞きして小説を書いてきた美智子には、鍛えぬかれた洞察力と状況判断能力があり、また小説を書くために必要な資料や他の小説を読みあさっているため、過去から現代に至るまでの知識も豊富である。それらから練り出される美智子の推理力は、箕浦も舌を巻くほどだが、美智子自身に推理をしている自覚がなく、小説を書いているつもりで事件関係者の個人情報までも口にしてしまうため、守秘義務を第一に考えなければならない刑事の箕浦は美智子の存在に強いストレスを感じ、美智子が嫌われる原因になっていた。
家政婦は、美智子が座るテーブルに児童小説を持って行く。
美智子は笑顔でサインをして家政婦と握手をしてから、リップサービスで三樹のかわいらしさを誉めた。
三樹は満更ではない様子で照れて頬を赤くして笑顔になる。
家政婦と三樹は美智子と握手をすると激励の言葉を残して去って行った。




