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第12話

「自転車があるだろ」

「自転車はいやですよ」

「だったら誰かの車に乗せてもらえ」

 箕浦はそう言って車に乗り込んだ。

 家政婦と三樹を乗せた車は新宿駅のデパートへ向った。新宿駅に到着すると手ごろな駐車場に車を入れて家政婦と三樹は車から降りた。

 箕浦と小川は、なんとか追いついて同じ駐車場に車を止めて、二人を尾行した。

 家政婦は出掛ける直前に言った言葉どおり、三樹の手を引いてデパート内を見て回った。

 三樹も緊張が解れてきたのだろうか家政婦と目が合うと楽しそうに微笑んでいる。

 家政婦は三樹の手を引いてエスカレーターをあがり大型書店の中に入った。背の高い無数の本棚が立ち並ぶ迷路のような通路を、迷って戻る事もなく歩き、家政婦と三樹の二人は児童小説エリアにたどり着いた。

 本棚には、ハードカバーの挿絵入りの児童小説はもちろん、文庫サイズの児童小説もある。

 家政婦は児童小説の清算を済ませると三樹の手を引いて歩き出した。家政婦が向かったのは、書店内に作られた特設会場。

 箕浦は、特設会場の天井でゆっくりと揺れている大きな看板を見て顎を落とした。

 看板は、発色のよいカラーの文字でこう書かれていた。

「ファンタジー小説家☆沼川海湖サイン会」と。

 箕浦は、目眩を覚えて近くの本棚に手をついた。

 小川は箕浦を心配して声を掛ける。

「箕浦さん。大丈夫ですか?」

 箕浦は青ざめた表情で2回頷く。

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