第10話
同僚の刑事は、もうメモを見る必要がないようで、両手を下げてぶらつかせながら答えた。
「両親は、事件時刻にそれぞれの会社で仕事をしていたと証言しているんですが、目撃者がいないんです。目撃者がいない事を両親にも伝えたんですが、そんな事を言われても困る。名誉毀損で訴える! の一点張りで」
同僚の刑事は疲れた表情を見せて更に話を続ける。
「ほかにも不審な点がありまして、16時半頃に家政婦が被害者を探して5つの部屋を見て回っているんです。その時に被害者の姿はなく、次に家政婦が姉妹の部屋に入った時、手前の机では姉が本を読んでいて、本棚を挟んだ奥の机には、うつ伏せの状態で被害者の遺体があったらしいのです」
「姉はなんと言っているんだ?」
箕浦が聞くと、同僚の刑事はため息混じりに答えた。
「全く気づかなかった。と」
「犯人は、家政婦か、姉か」
箕浦が言いながら小川と視線を合わせていると、鑑識担当者が玄関から出て来た。箕浦に報告する。
「被害者が発見された机側の壁に、庭へ通じる窓があるんですが、出てすぐの所に、男と思われる足跡と、ヒールと思われる足跡を発見しました。どちらもまだ日が経っていない新しいものです」
箕浦は目を閉じた。
「男と思われる足跡が父親で、ヒールの足跡が母親だとすると、容疑者は、家政婦を含めた家族全員という事になる……。しかも弁護士付き。こりゃあ、下手な事が言えんな」
箕浦は目を閉じたまま上を向いて、拳で額の中心を軽くこついた。これは捜査が行き詰まった時に行う、勘を働かせるための箕浦の儀式である。




