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人とは面白き者

 ………(グレーテル、何処ー?てあっちから話声?)


 彼女の姿を探し求めていたダニエルもクラスメートの声に気が付き、その場へと近づく。


(あっ!いた!グレーテル!見つけた!)


 何やら伺う様子の後ろ姿の彼女が彼の視界に入る。少し訝しげに思いながら声を掛けようと近づいていたが、


 一足早く彼女の姿は声のする奥へと消える。慌ててその背を追いかけ、彼が目にした光景は、


 数名の立ち尽くしているクラスメートの女子、


 本棚近くの一人にグレーテルが近づ来き、少女に言葉を駆けた即座、その少女は彼女を突飛ばす。その衝撃で本棚へと体が向かう彼女!


「危ない!グレーテル!」


 即座に体が動いた。


 ドンッ!と本棚に彼女が体を打ち付けた衝撃で、並べられてた本が彼女へと落ちてくる。


 ダニエルは取り囲むように立ち尽くしていた女子を突飛ばしながら彼女の元へ駆け寄り、抱きしめ身を呈す。


 ドサドサッ、高い位置に並べられてた分厚い本が彼の頭や体の上に落ちてきた。


(うぉーっ!いってー!本って凶器か?)


 彼女と共にその場でしゃがみ込みやり過ごした。


 …………沈黙がその場に広がる。グレーテルは恐る恐る腕の中で眼を開けた。そして視線を向ける。


 そこには、茶色の髪をくしゃくしゃにさせ、少々痛みと笑顔を混ぜ合わせた表情のダニエルが。


「大丈夫?怪我してない?アハハってけっこう本て痛いわ」


「え?ダニエル、貴女私を庇って?」


 笑顔で頷くダニエル、そして今、彼は心配する彼女が知ったら呆れるで有ろう天にも昇る心持ち………


(あああー幸せー!グレーテルが腕の中!神様、ありがとうございます)


 何処までも純朴、純粋それがダニエルの全て………


 ―――――いよいよ学園祭最終日、普段は式典に使用されるホールにて学園主宰のダンスパーティーが行われる。


「うぉぉぉー!スッゴい幸せー!」


 男子専用の控え室で盛装に身を包んだダニエルが雄叫びを上げている。


 室内の他の男子は、学園一の美人をパートナーに出来た彼に羨ましげな視線を送っているが、人が他者に向ける陰の感情に疎いダニエルは気が付いてない。


 教師が室内に時間を知らせる声を掛けた。男子一同、期待で胸の高まりを隠せない様子でホールの入口へと向かう。当然といえば当然なのだが、


 ………(ああ、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう)


 緊張のあまり、既に行動が怪しくなりつつあるダニエルだった。


 ――――色とりどりの美しいドレス姿の少女達、華やかなその中で一際艶やかなグレーテル、一目見てダニエルは五歳へと戻る。


 …………薔薇の花を散らしたドレス、艶やかな髪をふんわりと結い上げ、にっこり微笑んで彼を見ている。


 可愛くて、可愛くて、誰にも渡したくない。彼が恋する少女。


 ――――優雅な音楽が流れる中、パートナーと手を取り踊る生徒達、それぞれに幸せな時間を過ごしている。


 一番幸せ気分に浸ってるダニエルは彼女に問う。五歳のあの時と同じ言葉を………


 返される言葉もまたしても同じ、


「ムリ」


「何でー!何でダメなの?僕の事嫌いなの?」


 既に半泣きな彼は目の前の彼女に答えを求める。ムリと言われても諦める事等出来ない。


 そんな彼を笑いながら彼女は教える。


「お役目があるもの、アリソン家の娘はお嫁に行けないの、だからお婆様も、お母様も、旦那様になる御方に来て頂いたのよ。ダニエル貴女跡取りでしょう?」


 ――――昔、昔、地上に降りた天使はアリソン家の乙女と恋に落ち、子々孫々神が与えたお役を務める事で人になることを許されたという。


 その時、たまたま最初に二人の間に産まれたお子が女の子だった為、アリソン家には「蒼天の瞳」を持つ女子しか産まれない。なのでお嫁には行けない………


 彼にとって残酷な現実を突き付けられ、またもやその澄んだ茶色の瞳に涙が溢れている。


「なっ、ならば!お役目が終わったら来てくれる?それでそれは何時終るものなの?」


 必死に考え、恋する彼女に気持ちを伝える。そんな彼を目の当たりにしグレーテルも考えてみる。


 ………この前母が「見た」あのクラスメートの母親はこの先どうなるのか?


 同時にクラスメート達も………


 それは全て神の思し召し、その御心のままに………


 祖母が「見た」神に背く如何わしい行いをしていた司祭、話しに聞くと司祭が所有する小麦畑のみ病気が広がり、収穫の見込みが無いとか……


(神様には、お二つしかないもの、良いか、悪いか、それだけ)


 自分達が伝える透明な世界を共にされ決めると言われている。時が満ちたらどうするか………


 黙り込んだグレーテルを心配そうに見つめてくる、あどけない彼の為精一杯の答えを返す。


「そうね、お役目が終わったら、お嫁に行けるかもしれないわ」


「何時?僕待ってる」


 クスクスと笑いながら彼に言葉を掛ける。


「何時になるかわからないわ。そうね、人々が妬んだり、争う事の無い世界が来たらお役目も終るんじゃ無いかしら」


 グレーテルの答えを真剣に受け止めたダニエルは宣言する。


「じゃ!僕が一生懸命頑張ってそんな世界を1日も早く作ってみせる!」


 彼の言葉を、姿を目にした「蒼天の瞳」が柔らかく輝いた。


 彼女は願った。天に召します我らの神よ、願わくばこの者に幸を与えんことを、と。


 …………天高く清らかなる場にその御方は存在していた。



 ――――「ふむ、人とはまだまだ分からぬ者よの、面白いのぉ、この者、特に良い子じゃのう、まだ若い、しばらく「見て」から決めようかの」


 ―――――神は果たしてどちらを選ぶのか、優しい世界に導くか、それとも修羅の世界に導くか。


 全ては人の心にかかってる。――――




「完」
















































 






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