94 《劔を鍛えよ》 (27)
「あのね、私ね、ライさんにはまだ言っていなかったことがあるの」
と、夏美はラインハルトにぺこんと頭を下げた。
「ああ、そんなことか。全然いいよ。カード理論の時も言ったよね、保留だって良いって。
それに、夏美は、それくらい慎重であるべきだと僕は思うよ。
共闘したい、とか協力したいと思っていても、僕たちは、やはりまずは独立した個人なんだ。利益が対立することだってあるんだし」
「ありがとう、ライさん。
何となく、考えていたよりももっと、私は龍に近いのかもなぁって思って。それを認めたくなかったの」
「ええ?、龍はとても素晴らしい生き物なんだけどな、」
「ライさんはそう言ってくれるとは思ったけれども、なんとなく普通じゃないみたいな人より、普通の人でいたいなって私は思っているから、ライさんが逆の方向に褒めてくれると困ってしまうなぁって」
「ああ、僕はめちゃめちゃ龍に興味があるからね(笑)。だからと言ってそんな、夏美の意思を無視して無理に龍になって欲しいって言わないよ、あ、言わないようにするよ(笑)。普通に夏美のままが好きだよ」
「ええ、お願いよ。私、なんだか龍が、...騎士をはたき落としてしまう夢を見たこともあるし」
と言うだけにとどめた。
騎士が死にかけたとか、龍が代わりに死んでしまいそうだったとか、不吉なことは言わない方がいいのだろうか、そう思ったのだ。
あ、でも、言ってしまってから気がついた。これはさっきの、ライさんがお札をもらった時のお話に似ているから、大丈夫なのかな?
ラインハルトは、気にする風でもなかった。
「ふ~ん、なるほどね。龍神さまのお札が夏美に情報をイメージで伝えているのかもね」
「そうかもしれないわね、だんだん夢を見ている自分が本当に、体験しているような気もしてしまったし。自分が龍になってしまっていきそうな気がして、言えなかったのよ。
ええと、そう思ってしまった根拠はね。
私、お婆さまから教わったさっきの言葉じゃない方の、別の言葉を知っているの」
やはり、ラインハルトは驚かないようだ。淡々と落ち着いているのが、夏美には頼もしくも思える。
「そうか、それはすごいね。
僕は、今、その話を聞かせてもらっていいのかい?
秘密なんじゃないの?」
「ええ、そうね、そうなんだけど。ええと、言葉そのものはまだ言えない、言わない方がいいのかも。口に出すのはちょっと。
なぜかというと、それはね、私には少し好戦的に思える言葉なの。
今、本当にその言葉を言うのは、何かの引き金みたいで、だからまだ怖いのでやめておくけど、あのね、説明だけさせて欲しくて。ライさんのヒントになるかもしれないし」
ラインハルトが嬉しそうな顔をした。
「うん、ありがとう。じゃ、差し障りのないところだけ聞かせて」
夏美は、うなづいた。
「ええ、こちらこそありがとう。本当は聞いてもらいたかったし、相談にのってもらいたかったのよ。
あのね、龍か龍神様かの声だと思うんだけど。私の中でね。たまに声が聞こえてきたの。夢の中で。
なにかに怒っているみたいに、正義とか正当性の主張をしているの。ほとんど唸っているような声で。
つまり、敵を見つけたら、それが悪に違いないと言っていて、正義である自分の側がやっつける、みたいな話。だから、ちょっと怖いのよ、ためらうことなく飛びかかっていきそうな迫力というか、」
ラインハルトはうなづいた。
「つまり、宣戦布告っぽい言葉ってこと?
正義の側に立っているのなら、勧善懲悪ってことだよね?
ただ、そうか。夏美はもしかしたら、判断違いと言うか、そうでなくても早飲み込みなのかもって心配しているんだね?
夏美が善と悪をどうやって見抜けばいいのかって言っていたのに、それが関係があるんだね?」
「そう、その通りなの。だって、本当に強そうな確信に満ちた声なんだけど、、心配なの」
「そうなんだね、それはよくわかるよ。
僕たちがずっとこだわっていた話だよね。
僕が聞いた昔話だと、確かにあの龍はね、正義の劔を司っているし、もともと正義をつかさどる女神様の祈りのために、この世界にとどまっているというわけだしね。
それこそ、敵を倒すために誓いを立てて地上に残ったのだとしても不思議じゃないからね。闇雲に倒すべき敵を探し回っていると考えると、怖い話だね。
だけど、夏美が聞いたその話、つまりその龍が、正義とか正当性とか善悪の区別とかにこだわっているだろうことは、確かにそうだと思うし、それなら僕たちが考えるよりちょっと、状況は良い気がするな。
だって、龍の方も自分できちんと判断しようとかしているみたいだよ、正当性をあえて問題にしている気持ちがあるんだから。そうだとしたら、むしろ問答無用に最強の龍というよりも素晴らしいことだよね。
全然、怖いだけの龍じゃないね、尊敬に値するよ。正当性なんて考えたことのない人間、けものだってたくさん存在するんだから」
「そうかもしれないわね、わからないなりに考えている、まるで私たちみたいな存在だとしたら、ちょっと嬉しいわね」
「うん、まぁ、あまり楽観説に飛びつくのもいけないかもしれないけれど、ね。意思疎通がきちんと出来ればなって思うよ、本当に」
「ライさんの家には、そんな本がたくさんあるのね、羨ましいわ」
「うん、今度一緒に行く時、本の宝庫に案内するよ。
浸れるよ~♪
龍やユニコーン、河童やニンフ、巨人や小人、たくさんの天使や神さまたち、本を開ければ僕たちは挨拶できるんだから。
さっき話に出てきた正義を司る女神だって。まぁ、女神さまも転生して『光乙女(観音)さま』になったとか書いている本もあったよ」
夏美は、思わず手をたたいて、目を輝かせた。
「ああ、そうね、私、光乙女さまのお話は好きよ。
そういえば私、以前そういう夢を見せてもらったことがある気がするわ。
確かに女神さまにお仕えしている夢を見たわ、あ、もちろん私じゃなくて、ごめんなさい、紛らわしいわね。だれか龍さんか、勇者さんかだと思うけれど(笑)。
とにかく、その龍の怖い怒ったような声は、今日は全然、聞こえてこなかったわ。とても、穏やかな雰囲気だった。ライさんのことを『敵』とは思っていない感じよ。あのね、正直にお伝えすると、『仲間』という感じでもないみたいだけど、親近感はとてもある感じで。
それに一つ付け加えて言うと、ライさんが悲しそうにしているのを慰めようとしてくれていたみたいだった」
「本当かい?
それは、嬉しいな。でも、僕には、、、う~ん、残念ながら。
本当に何も伝わらなかった、、、きらりとしたキツイ眼差しだけ感じていたんだ。表情は読めないし。意思疎通って大切だね。
もしも僕を認めてくれるのなら、劔をくれるか、ヒントをくれるかと少しは期待していたんだけど。ただ、僕の調べてきた言葉に反応してくれるだけでね」
と、ラインハルトが言った。
「善蔵さんがお休みになっている今のうちに、もう一度水晶玉を見てみましょうよ、何かヒントをくれたか、さっきより状況が変わったかもよ?
ライさんは、本当に視えなかったの?」
「うん、残念ながら」
2人は、再度水晶玉を見改めてみた。
ラインハルトは、深くため息をついた。
「うん、...やはりだめみたいだね、僕には、これは幻影水晶でしかないみたいだ。夏美には、針状金紅石入水晶が、その中のルチルが見えているようなのに」
「ええ、私には見えてるわ。さっきより、少し大きく見える気がするわ、はっきりとしてきたみたい、」
夏美の声は、弾んでいる。
ラインハルトが、心から羨ましそうに尋ねる。
「色はやっぱり赤?
何色のルチル?」
「金色、と銀色の混ざった感じよ。さっきより煌めいているし、ライさん、事態は少しずつ前進しているのかもよ?」
ラインハルトが、がっかりしたようにつぶやいた。
「・・・・。
僕には資格がないか、足りないのかもしれないね。本当は、それを持って行かなくてはいけないのに。
狭間の地に、光も闇も両方理解している者が行かなくてはいけないのに。
僕が条件に一番近いと、みんな期待してくれたのに、」
声が、ふいに途切れた。
「ライさん、、、?」
いつも紳士的に振る舞おうとしているラインハルトが、心から悔しそうに言った。
「僕は、やっぱりどんなにしたって、悪い魔法使いの域を出ないのかも。
そもそも習ってもいないはずの闇魔法ばかりが、生まれた時から得意という禍々しい人間だ。
母と父は、僕の誕生を喜んで《神々からの贈り物》という意味の名前を僕に付けたというのにね。
ご先祖様がそれこそ、ずっと生き続けていれば良かったんだ!天才なんだから。
僕はその一部しか承継出来てない。出来損ないの悪魔使いにしかなれてない。皮肉だよ、全く。
僕が承継したラインハルトという名前もさ、もともとは《純粋な光》とか言う意味なんだけど、とんでもないよ、僕は、ただのまがいもの、でしかないんだ!」
まるで血を吐くような言葉に思える。
「ライさん、、、私はライさんのことを全部知っているわけじゃないけれど。良い所もいっぱい伝わってくるわよ?」
「うん、...ありがとう、」
夏美に向かって、蒼い顔のままラインハルトは頭を下げた。
小さく首を振り、息を吐いた。
「ごめん、ちょっと取り乱したよ...。僕なんかは、まだいいんだ。たくさんの人の、これまでの犠牲を考えるとね。可哀想に、あの子だって...。いつになったら、僕が報いてあげられるんだろう、そう思うとジリジリしてくるんだ。
僕に力があったのなら、って。
努力が足りないのかもしれないけれど、出来るだけ穏便に、物事を進めていっているのに、」
夏美は、初めて見るラインハルトの苦悩の表情に息を呑みそうになりながら、励ました。
「ライさん、あのね、私、ちょっと言ってもいい?
うまく伝えられるかしら?
また私の中でイメージが広がっているわ、、。あのね、ライさん。
ライさんに、枷があるのだとしたら、、。
ライさんは、自分にネガティブになりすぎ、みたいよ? そう言ってって、言っているみたいだわ」
「...そう言ってって?」
夏美は、ラインハルトをじっと見ている。ラインハルトも、真剣に見返す。
ラインハルトは、夏美の瞳ってさっきの龍の少女の眼差しにもやはり似ていると瞬間、思う。でも、夏美のは、もっと温かい眼差しなんだよね。
「気を悪くしないで。遠慮なく言うわね、メッセージみたいなものを伝えてあげたいのよ。
ライさんは美津姫さまのことが好きだから、全ての責めを自分で負担しているみたいだっていう感じで表現しているの。もしかしてライさんだけでなく、美津姫さまも、なにか選択ミスはしていなかった?」
「...」
「ライさんが、騎士のように振る舞っていて、自分の方をより強く責めているのよ。
そうよ、お札さんだけのイメージじゃないみたい、美津姫さまの魂もなにかを私に伝えようとしているわ、お札と共によ、私だけにじゃない、伝えたいのよ。ライさんにね。
言葉じゃなくイメージ、伝わってこない?」
ラインハルトは、静かに首を振った。
「私、うまく伝えてあげられるかしら。
美津姫さまは、本当にライさんが好きなの。
そうね、ライさんのそばに魂としてちゃんと戻ってきていたんだわ。それなのに、ライさん自身が嘆きすぎていて、声が伝わらないみたいな、そんなイメージでいるわ、約束したんだって。そう言っている。
『あなたのそばに戻るから』って、
もう、ちゃんと、ずっとライさんのそばにいるの、わかってあげて」
ラインハルトは、はっとした。
「・・・!」
今の言葉。
あの約束の言葉。
あの子の声で言われたような気がする。ずっと聞きたかった声が、脳内で再現されているだけみたいなのに。
「命と体を失ってしまったけれど、魂はライさんのそばに今もあるみたいに言っているの。天界にもいるって、言っているみたいだけど...。不思議ね、どっちにも同時にいるみたいで。でも、そう言っているから。
安全なところにいるみたいに言っているわ、信じてあげて。
ライさんのために劔をと、私にそう言っているみたいなの」
ラインハルトは息を吐いた。
「そう、僕は劔を手に入れたかったんだ、あの時からずっと。ずいぶん皆に迷惑もかけて、あの子だって僕のために、」
「ごめんなさい、美津姫さまのほうが、ライさんに謝っているみたいな感じなの、それを認めてほしいみたいなの。ライさんがかばってくれていても、私に真実を伝えて欲しいって。
ごめんなさい、ライさんの心をひっかきまわしたいわけじゃないんだけど。それを私に伝えなくてはいけないみたいで」
「ううん、いいよ。確かに、選択ミスは、そうかもしれない、いや、正直、そういうところもあった。
でも美津姫の名誉のために、僕は、、、言えないな。言いたくない、認めたくなんてなかった。美津姫が悪いわけじゃない。ただ本当に、僕に責任があるんだ。美津姫が感じているだろうプレッシャーが減ると良いと思って、
『本当は君の持っている宝珠を探しているわけじゃないんだ。実を言うと、本当に欲しいのは劔なんだよ。だから、宝珠を取り外すのに君があせる必要がないと思う、じっくり取り組もう』
と言ったんだけれど。後で考えたら、それって正しかったのかなって。逆にそれが美津姫を追いつめる引き金になったのかもしれないんだから」
「ライさん、お願い、お姫さまはそこを私にも伝えようとしているの。私のためにも、鏡の話をしたいみたいで、」
「うん、わかった。そうだね、鏡の話を冷静にするよ。
誰のせいでもないし、もちろん鏡のせいでもないことなんだ。
蛇の目は、定められた役割を果たしたのだし、ただ真実を伝えるんだから。
美津姫は僕のために。自分の身体が弱いことも構わずに命を削るように祈っていた。
僕が戦いに行って留守の時に、、、。分の悪い戦いだったし、望ましい戦いでもない。僕が劣勢だと聞いたのだろう、すごく心配をしていたらしい。
...僕は、自分の弱さを認めたくもないし、美津姫に知られたくもないし、と思っていた。何も伝えず、相談もせず、万一のことを考えて閉じ込めるように部屋にいてもらった。共鳴させてはいけなかったのに、あの子はそれを完璧に知っていたはずなのに。
僕が隠して置いた鏡を持ち出させて手に入れてしまったんだ、そして宝珠と同時に使って自分で劔を探そう、召喚しようとしてくれていたんだ、」
夏美は、うなづいた。何度もうなづいた。何か言いたいのに、慰めたいのに言葉が出なかった。
美津姫さまの優しい言葉が、ライさんの心臓のそばまで届きますようにと願った。
「ライさん、...聞いて。お札さんは、ええと、龍神様かな、あの子と言うべきかな、こう言っているみたいだわ。さっきからね、あのね、こんな感じ。誰のせいとかそういうのじゃなくて。
『巫女姫の魂は、損なわれていない』って。そういう感じに言ったのよ。
そうね、それは、美津姫さまのこと、そういうことだったみたい。
魂は役目を果たすと、ただ天界に戻るから、ってそれをライさんに伝えようとしているみたいよ。
龍神様は怒っていたりしないと思うわ、視えないし、伝わらないかもしれないけれど、ずっとライさんの方に手を差し伸べているくらいの気持ちでいてくれている、みたいよ」
「・・・・そうなのか、嬉しいな」
と、ラインハルトは、ため息をついた。
「ありがとう、夏美、伝えてくれて。
僕も、その言葉を心から信じるよ。
魂がお役目を終えて安らかな所にいるって聞けただけでも安心だし。同時に僕を気にかけてそばにいてくれているって、宝珠がね、まるでサンクチュアリみたいに感じていたのは、それだからなのかもな。
それに、夏美の中に、あの龍の少女と美津姫の魂が寄り添っていて、僕のためにイメージを伝えてくれるなんて、本当に嬉しいよ。
ずっと、目を背けていたこともある。悲し過ぎてね。あと、美津姫をよく知らない人にネガティブな評価をされたくなかったし。でも、少し落ち着いたよ、ありがとう」
「良かった。美津姫さまの魂も安心して、ライさんと共鳴しているみたいよ」
「そうだね、僕は本当に美津姫にも宝珠にも助けてもらっている。ずっと本当にお守りだったから。
ああ、僕は本気で針状金紅石入水晶の言葉も大切にしなくてはならないね。
僕も、悲しいことや自分の失敗に囚われてばかりいないで、勇気と情熱を持って、次への一歩を踏み出すよ。そう誓う。
きっとそれを伝えて励ましてくれる水晶なんだろうから、」
夏美は小首をかしげ、尋ねた。
「どう?、今ライさんは、少しほっとした気持ちになったでしょう?
その心で、水晶玉をもう一度見て?
今度はどう?何か見える?」
ラインハルトは、じっと目を凝らした。手を伸ばしてそっと玉の向きを変えてもみている。やはり、幻影水晶としか見えず、ルチルは見えない。
また、ラインハルトは首を振ったが、さっきよりは落ち着いた声で
「ダメだ、僕にはやはり、見えない。
僕にはまだ足りないものがあり過ぎるんだね、きっと。
うん、めげずに頑張るよ。夏美にも助けてもらいながら。
また、何かヒントがあったら、教えてほしい」
と、そっと言った。
「ええ、もちろん。あ、この角度ならどうかしら?
ここよ、ここ」
と、夏美はラインハルトにもわかるように水晶を指し示そうとして、つい、玉を支えているラインハルトの指に触れた。
「あ、...」
と同時にふたりが息を呑んだ。
お札がシンクロして、いきなり鳴ったような感じがした。無音なのに。
2人同時に、身体全体にその音が響いた気持ちがした。耳で聞いている音ではなくて。
自分たちの身体が教会のパイプオルガンのパイプの一部みたいな気持ちがするくらいに。そして。
まるで、曼陀羅のように、色々な神々、天使、仏様、魔法生物たち、自然界の生き物たち、が全部描かれている壮大な絵のイメージが脳内に広がったような気持がした。
膨大なスケールなのに、はるか果てまで描かれているのに、なのに瞬時に全部見渡して、瞬時に挨拶を全部したような気がするくらいの幸せなイメージで。そして。
2人同時に、ああ、見えたと思った。
水晶の中にいきなり光を与えたように、針状の小さなものがひときわ強くきらめいたのだ。
「見えた?ライさん、」
聞くまでもなかったようだ。
ラインハルトの目が、まるで水晶玉に吸い寄せられるかのように魅入られている。
「うん、ありがとう、夏美。見える、僕にも。
ルチルだけでなく、ああ、魂が天界にもそばにも、ああ、そうだ全てが同時に在っていいんだ。
それが、本当のところなのかもしれない。
すごいね、ようやく...。大切なものがわかりかけてくるように。
ありがとう、夏美、本当に。
じれて泣き言ばかり言って、諦めそうな僕を導いてくれて。
認められたかどうかはわからないけど、ようやく僕にも見えたよ。
すごいね、きれいだ...
本当にきれいだ。
これ、これがそうか、劔なんだね、小さいけど、とても美しいものだね」
「そうね、小さな劔の赤ちゃん、みたい?
本当に、泣きそうにきれい...あ、ごめんなさい、善蔵さんは全然、見えないというのに」
善蔵は静かに笑った。
先ほどより少し緊張が解けて、目を覚ましていたのだ。もしかしたら、先ほどの音の響きみたいなものを感じたのかもしれない。
「大丈夫です、私には祖父よりもさらに力などありませんし、だから気楽なものですよ。そして、どうぞお気遣いなく。
おふたりの表情を見ていてわかります、なんとなく良いことが起きたのだと」
「ようやく僕は、ずっと探していた宝物を見つけた気がする」
「でも、小さいわ、とてもとても小さくて」
「あ、いいよ。持ち運びに便利じゃないか」
「そうかもしれないけれど、困ったわね。
ライさんの役には立たないんじゃない?」
ラインハルトは、大真面目に言った。
「きっと大丈夫だよ。
僕は魔法使いだから、ここからなんとか出来るかも。それに杖職人だし、鍛冶屋っぽいことも出来る。
失われていた、冒険に必要な劔がやっと僕の手に入るなんて...。
ねぇ、夏美、お願いしてみて?水晶玉に。
僕に貸してあげるって言ってみてよ?」
きれいな小さな劔の形の結晶に見とれたまま、ラインハルトは、言った。
「...嫌だと言ったら?」
夏美の声にしては、ずいぶん低い声だった。
「え?夏美?」
ラインハルトは、慌てて夏美を見た。