91 《劔を鍛えよ》 (24)
ラインハルトは、大真面目に頭を下げた。
「気を悪くしたら、ごめん。
でも、僕は最初から言っていたよ。ずっと宝物を本気で探しているって。
僕だけじゃない、僕を支えてくれている仲間の努力の賜物なんだ。
本当に必要があるから、交渉失敗の可能性を減らしてきて、ここにいるんだ。
チャンスが何度も訪れるわけじゃないからね。
それに、宝物は使い方を誤ることは出来ない大切なものだ。夏美もご一族の皆様も尊重したい、だから、準備を整えて許可を受けたいと願っているんだ。整え過ぎでちょうどいいくらいだと考えている」
「ごめんなさい。それでも、ちょっと嫌な感じがする。
正直に言うと、そうなるの。今、私はライさんに嘘をつきたくないし。
でも、きっと意欲の違いとか、文明の進化の差の違いなのでしょうね。だって歴史的にも、東洋を目指してヨーロッパからきてアジアの多くは支配されていくことになったでしょう?
文明が先に進化していたライさんたちには、赤子の手をひねるほど簡単だったんじゃない?」
と、最後はさらに規模を勝手に広げた、かなりな嫌味を言ってしまった。善蔵の心配そうな表情に少し申し訳なくなる。歴史の先生がそういう見方もあるって言っていたんだもの。...言い訳だけど。
ラインハルトは、少し困ったような笑顔で言う。
「そう見えても、そうじゃないんだけどね...。
簡単だなんて、、、気を悪くしないでよ。
赤子扱いしたという覚えは本当にない。リスペクトしてることを信じてもらえるように言葉で言い募るより、態度で示すように努力するよ。
歴史的なことは、否定しない。競うようにアジアに進出していったから争いが起きたと僕も思うよ。
確かに、僕も西洋から東洋の宝物を求めて日本にまで来た。
『西洋と東洋の統合を目指してる理想を持って、』と言っても、東洋の側から見たら、『何を勝手なことを』と解釈されることも想像できる。
だから、自分の視点だけで物事は見てはいけないな、って最近とくに反省もしている。僕もわりと自分勝手な人間だったから、心が大事だって僕は本当に思う。夏美にも、僕は伝えたいことがいっぱいある。僕のつとめとか、誓いのこととか。出来れば、僕の城に来た時に、きちんと僕ら一族の物も見て、理解して判断して欲しい。その上で改めて本気の批判をしてくれていいからさ」
「はい、そうですね」
「それでね、肝心の話はここからなのさ。
お嫁に行った多津子さまが第一の巫女で、本当は『劔』の担当のはずだろう?
だが、劔は失われていた。だから代わりに水晶玉を持っていて、それを司っておられたんだ」
「そうね、そう聞きました、でもね、その水晶玉を探したんだけど、奈良のご本家で今は見当たらないということでした。
どうしよう、それも返せないといけないってことなのね?」
「うん、そうだと思う。で、いよいよ、本題なんだけど。夏美に今日、その水晶玉を見てもらって、《選択》をして欲しいんだ。
と言うと、また夏美がさらに気を悪くしそうだね」
と、ラインハルトは言った。
「え?もしかして、水晶玉までもがここにあるというの?」
夏美は、またラインハルトを睨みつけそうになっている。
善蔵が慌てたように、口を挟む。
「はい、申し訳ございません。
出しゃばりたくはありませんが、それは、ラインハルト様のせいではありません。奈良のご本家から渡されて、内緒でわたくしどもが保管してございました。
このazuriteルームの中にございます。実は、”時が来るまでは”内緒にと厳命されておりましたのです。ラインハルト様にもそれをお伝えするようにとご指示も受けてのことでございます。azuriteルームは、ラインハルト様が主としてお使いになっているお部屋でございますからお納めする時もご一緒にとお願いするようにとのことでした。最も大切な宝にご縁のある水晶玉とのことで、万に一つも損なうことがあってはなりませんということと時が来るまでは、やはり封印を施していただく約束で、ご本家の方からの依頼という形で、秘密裏に行われました」
夏美は安堵半分、ため息をついた。
なあんだ、結局私が関わる前に奈良のご本家の方も、水晶玉を善蔵さんやライさんに渡す判断をしていたんじゃない。それで丸くおさまっているのなら、私は一人で役目をつとめるみたいに気負う必要もなかったみたいね。本当にもうずっと、ライさんとは深く関わっていたということなのね。やっぱり、私の出番とか役割なんて、大したことじゃないのかもしれない。
「善蔵さま、ありがとうございます。それでわかりました。そういう流れで来ているんですね。
じゃあ、本当にあのお話の中の、水晶玉なのね?
その話も一致しているってこと?
ライさんが昔、宮司さまの善之助さんに見せられた水晶玉は、結果的にやはり大切なものだったの?」
「そうなんだよ、つまり、劔の代わりとも言える最も大切な宝物なんだって。
だから劔が無い今、水晶玉と宝珠と鏡という3つの宝が龍神様の宝と考えていいということらしい。
あの時の僕は、水晶玉を目指してきている訳ではなかった。宝珠と水晶玉は違うってシンプルに思っていたし。だけど、宮司様は、僕を信頼してすぐに大切なものを見せてくださっていたというわけなんだ。
残念ながら僕は知識も情報もなく、見せていただいても何も感じることができなかった。能力も足りなさ過ぎたのだろうし、欠けている要素があったんだ。今もまだ欠けているかもね。
良くあることなんだけど、最も大切なこととか、正解ってなかなか教えてもらえないんだよ。苦労して探索しないと真髄が解らないようになっているんだ。そうじゃないと、資格の無い者が安易に持ち去ることになりかねないからということなんだろうね。
僕がお札をかざしても、あの時は確かに何も見えなかったが、夏美ならば、たぶんかつての美津姫のように何かわかるはずなんだ」
「美津姫様は、その何かを見ることが出来たのね?」
「そう、美津姫は水晶玉を見た時に、龍か何かの形が水晶玉の中に見える、と言っていたらしいが、最後の方には、普通の透明な水晶玉にしか見えなくなったと心配そうに発言していたとか言われていたんだ」
「それって、何かタイミングの問題?」
「ううん、僕も良くわからないけれども、そういうのとは違うと思うな。さ、他に何か聞きたいことはない?」
と、ラインハルトは今にも立ち上がりそうになっている。
夏美は慌てた。
「ちょっと待って。ライさんてば」
「ごめん、つい。
やっぱりさらに気を悪くしてしまうかな。
夏美は、全部のものが僕の支配下にあるとか、僕がもうすでに抱え込んでいるって思っているみたいだけど、僕だってそこまで図々しくないんだからね」
「ええ、」
と言ったが、気持ちはまだ晴れていないみたいだ、どうしたのだろう。ううん、わかっている。あの、立派な声を出している龍の魂が自分の中にいるみたいで、気になっているのだ。
大丈夫、なんだろうか。
ラインハルトは、明るい声で言った。
「良かった。とりあえずお婆様のお言葉を知っている唯一の人に見せてみるということには、ご本家の方からもお許しを得ている。
僕も、自分の物にしちゃったわけじゃないよ、きちんと閉まっておいたから、いよいよ久々に眺められると思うと、嬉しくて。
しかも、夏美に見せてあげられる時が、いよいよきたと思うとね」
「はい、誠にそうですね」
夏美はうなづいた。
「ええと、良くわかりました。奈良のご本家の方がそうされていたというのは、私も安心しました。ごめんなさいね、ブレーキばかり踏んでいて。
ただ、私、ちょっと畏れなければならない存在があるのよ。奈良のご本家の方ではなくて。
、...。あのね、笑わないでね?
ええと、つまり。
私が、いきなり水晶玉に反応したりする可能性は、ないわね?
私が、意思を持たない、ううん、正義と正当性を振りかざす龍にいきなりなってしまったりして、ライさんと善蔵を傷つけたりしないわね?」
それを聞いた時に、ラインハルトと善蔵が、かすかにうなづいた。
「夏美、、、。正義と正当性を振りかざす龍か。...。
それって、すごいね。
・・・それは、たぶん大丈夫だよ。条件が整っていないはずだからね。
うん、まだ夏美が気づいていないことや、...。
たとえ、うん、例えば夏美が、善蔵と僕に説明してくれていないことが、もしもあったとしてもだよ。
夏美は、何かさっきから悩んでいるみたいだけど、僕は夏美の判断を尊重する」
夏美も、ただうなづいた。
ライさんは、そして、もしかしたら善蔵さんも私がまだ本当に不思議なことを隠しているということを知っているのかもしれない。
正義や正当性を謳う龍のことを話していないということ。本気で色々と調べて準備してきているのね。
そんな、隠し事をしている私を、このふたりはどう思っているのだろう?
ううん、わかる。信じられる。
私の、そして私の何かを尊重して{自由に選択して欲しい}と思ってくれているのだと思える。
善蔵は少しけげんな顔をしながらも、一瞬目を宙に泳がせて考えていたが、
「たぶん、...大丈夫かと思います。
水晶玉と宝珠だけで、龍が出現したという記述があった記憶はございません。そのために、あえて鏡は持ってきておりません。...そのようなご判断ですよね?」
と言った。
「そう、本当は、今現在ある宝物をここに揃えてすべてをきちんと夏美に見せてから、という気持もあったんだけど。鏡は、封印したままにさせてもらっている。
今度、良かったらだけど、きちんと案内するよ。鏡の力で宝珠が反応をするのを、避けたかったという気持の方が強いんだ。
夏美が怖がっていたのも、間違いなんかじゃない。畏れる理由はちゃんとある。その説明もさせてもらっていいかな?その方が安心するよね?
実はね、僕もまだ調査中なんだけど。宝には色々と相関する要素、関係性、役割があるらしいんだ。
伝説では、『蛇の目』という鏡が『白蛇竜の宝珠』に力を与えるんだ。もちろん、闇雲に与えるわけではないんだよ。
擬人化して説明した方が飲み込めるかなと思うんだけど。
宝珠は優しい運命の女神さまが祝福を与えた真珠で、最もおとなしいんだ。{とりなす者}と言われているくらい。けれど、その宝珠の基準で照らしても何か我慢できない時に、鏡にお願いするんだね、本来の自分の力を与えて欲しいと。もしかしたら、与えるというより、封印を解くのかもしれない。
鏡は、宝珠の願いを聞く立場だ。そして善悪照らし合わせて判断する、だから{判断者}とか{審判者}って言えるのだと思う。
そこまでしてようやく龍の力が出るはずで、だから本来親和性がある2つの宝だけど、離して保存されていたんだ。
それはね、本来はその2つの宝の上に『劔』がなければならないからだ。それが正当性や正義を担保しているからだ。
劔があれば、3つの宝物の力がバランス良く保たれているんだが、残念ながら失われているからね。
劔は勇者の持ち物で、実は、勇者は光と闇を両方知って{節制する者}と言われている。だが、ぐらついたり迷ったりもするということも書かれている。
迷うっていうのは神さまに対しては失礼だな、調和を保とうとする天秤のように、と言えばいいかな。正義を判断するために、迷うんだと思う。つまりケースバイケースで必要なことをしたり、バランスを取ったり、中庸を目指すと言われているんだ。天秤のように揺れながらね。
で、正当性の証である正義の劔があれば、龍体でない神の姿、竜人族の勇者のような者が現れると言われているんだ。
その勇者のような者に関する記述が乏しいのだけれど、もしかしたら、龍神様そのものが現れてくれるのかもしれないし、もしかしたら、夏美のご一族のご先祖様のどなたかがそういうお姿になられるのかもしれないね。それは良くわからないらしいが、龍の姿の時は問答無用に強いらしいのだけれど、究極に強すぎて、無慈悲な存在だとか。そこまで行くと、人と意思を通わせたり、相互理解なんかできないのかもしれないね。
他方、劔さえあれば、その勇者のような方はその劔を装備していて、宝珠も鏡も両方、統御できるし、光と闇を両方とも知っているから、それでコントロールできる、そういう話なんじゃないかなぁと僕は思っているんだ。ある意味、3つの宝を統御出来ていれば、それが龍神様の理想形のお姿と言えるんじゃないかな。
例えばタロットカードの『節制』に描かれている天使は、大天使ミカエルさまだと言われているけど、ふだんの武器の槍と天秤を持っている姿ではないんだ。シンプルなお姿で、ただふたつの壺をゆすぶって、あたかも相反するものを調和させながら見定めている絵になっているでしょう?
それでバランスをコントロールしていると言われるけれど、夏美の一族の勇者様の『劔』というのは、それに似たイメージなんだよね」
メモを取りながら聞いていた夏美は、いきなり閃いたので、つい大きな声で叫んでしまった。
「わかったわ!
それじゃ、ライさんの探していたものは『白蛇竜の宝珠』そのものではなくて、まるで三角形の頂点にあるような、制御をする『劔』でやっぱり合っているのね?」
「そう、そうなんだ。
最高の理想を言うんだったら、『3つの宝を全部貸してあげよう』と言われる位、龍神様に信頼されればいいけれど。最初に想定していたのは、勇者様の『劔』、正義という銘を持つ剣なんだ。なぜかというと、それは、伝説のミトルの装備品と匹敵するからだ。
良かったら、僕のミッションのことも話していいかい?」
「ええ、もちろん」
「今はもう、神話の時代じゃない、ルネサンスの時代でもない、全てのものが失われつつあるけれど、ご先祖様は本気で、神様の望まれていただろう、この地球全体の平和を望んでいたんだ。良く言われるだろう?
『み国を来たらせたまえ。み心の天になるごとく地にもなさしめたまえ』って。
錬金術や科学で真実を見きわめたり、物事の発展を目指していたのも、神様から離れていくためじゃない、逆なんだ。神様の意思を理解して神さまの予定していた理想の、平和な世界に近づけていきたいという意欲を持っていたということなんだ。
どこかで自分たちが間違っていたならば、神様に背いた方向に進歩してしまったのだから、再度神様のお側に誰かを派遣したいという壮大な夢を描いたんだ。
ギリシャ神話よりさらにさかのぼる、古代ペルシャに、光と闇を併せ持つミトルという勇者と思われる者がいた。僕の生まれた城にその姿絵を飾ってあるほどだよ。ある意味、それも一つの信仰だよね。
だから、異端者みたいなもんだ。本来のクリスチャンと少しずれている。ご先祖様は4元素を象徴する魔法生物や悪魔のことまでも研究したりして、その勇者の再来を創出しようとしていたらしい。
研究は不十分なままだけど、そして、科学で様々なものを解き明かされた時代に、あまりに不確かな夢のような話を続けているんだけど。
だけど、彼は子孫に夢を託した。僕は自分の生まれた経緯も知って、その夢を継ぎたいと誓った。
ありがたいことに家をきちんと継いでくれる弟もいるからね。僕は安心して放浪者になれる。
最終的には、光と闇、両方を理解して、東洋と西洋の宝を装備して、という姿で、狭間の地に行く。どうしても青龍王の許しを得て、その正義の劔を装備させていただきたいんだ。西洋の者が、東洋の者から託された劔をもっている、そのことが狭間の地に行く《証》の一つとなるらしいんだ」
「そうなのね、」
「だから、今から夏美にその水晶玉を見て欲しいんだ。今ここに宝珠はあるけれど、『蛇の目』はないから条件はそろわないはずだし、夏美は龍にはならないと思うよ、だから大丈夫。
水晶玉を見て、助けて欲しいんだ。『劔』につながるヒントがあったら、僕に教えて欲しい。湖はもう無いからどこを探せばいいかと思ったけど、青龍王の使者の方にはお札を頂けたわけだし、夢に近づいた希望をずっと持っているんだ」
「わかったわ」
と、夏美は答えた。たぶん、8割くらい納得できたように思う。
ライさんは、揺るぎない。
本気で誓いを、ミッションを果たそうとしている、そのために生き延びてきたのだもの。
全てが整えられていて、宝珠も鏡も水晶玉も全てライさんが持っているのは間違いない事、そしてそれはちょっと手回しが良すぎて気持ちが悪いのは、どうしても否定できない。今日は、さすがに飛びかかってしまう位の気持ちはないけど、かつて反対なさっていた人たちの気持ちがわかる。
だって、私も今ちょっと釈然としないものを感じているから。夢の中で、勇者姿の私が、劔が無いと思った時の、落胆したような気持ちそのものなんだもの。
それでも、自分にはわかっている。ミッションの話に魅了されそうな気持ち。
美津姫様は、自分の欲のために宝珠を届けてと夢の中の私に祈っていたわけじゃない、美津姫様もライさんのために命がけで祈っていたのは、このせいなのかもしれない。ライさんだって、我欲で宝物を集めて回っているわけじゃないみたい。
そして、私は夢の中で、偉い天使さまに『友達が何か水の中に宝を探しているんだけど、ヒントをあげなさい』って頼まれていたのだけど。
もしかしたら私の自我だけが、ちょっと鼻を鳴らしてふくれっ面をして邪魔しているだけ(笑)?
これはたぶん、ライさんのせいもあるわね、私がライさんに勝てるのなら、ライさんじゃなくて私が勇者になる可能性だって、あるんじゃないの?
私の中の宝珠さん、あ、白蛇竜の宝珠は、ライさんが持っているんだったっけ、だから違うわね。
ああ、そんなのなんでもいいわ、私の中の何かは反対するより、今はまるでわくわくしているみたいだし、以前聞いたはずの、怖い感じの龍の声も聞こえないし。それにきっと、お婆さまのお言葉が私を守ってくれる。
大丈夫、本当にみんなが時を待っていたんだ、そう思う。
「いいわ、私の中の宝珠さんも今は全然、反対していないみたいなの。
ライさんがミッションのために頑張っているというのは、良くわかったし。
《協力者》として、一族の末裔の一人として、水晶玉を眺めてみるわ」
ラインハルトは、明らかにほっとした表情になった。
「うん、ありがとう。そして改めて《協力者》としてって言ってくれてありがとう。
夏美に反対されたら、本当はね、僕はすごく困ったし、苦しいと思う。
誓いを果たしたい僕を、夏美にこそ認めて欲しいって思うから。
じゃ、そろそろ夏美に水晶玉を見てもらおう。
あ、善蔵、いいよ、厳重に封印してあるからね、僕がやらないと」
ラインハルトが嬉しそうな顔のまま、立ち上がった。
「あ、ごめんなさい、ちょっとストップ。もう1個だけ聞いていい? あ、」
ラインハルトがタイミング良く、コント風にずっこける振りをした。善蔵もつい、笑ってしまっている。
「お上手でございますね」
「もう、ライさんてば、コント風のコケそうな真似をしないでよ(笑)」
「ごめん、ごめん。夏美と僕でお笑いのコンビ、何とかなりそうかな?」
「ならないわよ(笑)。絶対にやらないから!
あのね、もし、ちゃんとしたヒントがあげられなかったとしても、がっかりしないでね。
ねぇ、だって私が見て、本当に何かわかるの?
しつこいようだけど、私、美津姫さまみたいに巫女の修行をしていないわよ」
ラインハルトは難しい説明を終えたからなのか、ふだんよりももっと子供っぽいと思えるような嬉しそうな笑みを浮かべているので、夏美もそれを見て気持ちが明るくなった。
ああ、そんなこと、みたいにラインハルトが朗らかに言う。
「君には、別の要素があるんだ、君の中にね。
だって、君に話しかけている何かがいるって、夏美はずっと言っていたじゃないか。
僕はその正体にずっと気がつかなかったけど、考えていたんだ。想像だけどね、ようやくわかったことがあるんだ。
それはね、」
※ 蛇足ですが、タロットカードの『節制』に描かれている天使は、大天使ミカエルさまという説は、ほぼ多数説です。
ウェイト版のタロットカードには、シンプルな衣の胸部分に△マークが描かれています。キリスト教的には『三位一体』の意味を持ちます。その△は、4元素で構成される物質世界を表現する四角形で囲まれています。(3+4=7という話も後に出てきます)
拙作では、善と悪が、両方とも神の下にある(神が頂点にある△)三角形を想定しています(架空の勝手な設定ですので、どうぞお許しください)。