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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
17/148

16 《選択の時に》 (2) ー☆ー

 

「ライさーん。いきなり深い話を振らないでくださいよー、考え込んでしまうじゃないですか」

 と、夏美はとりあえず、言った。

「ごめん、まぁ、そこまで深い話をしたいわけじゃないんだけど、この間夏美と話をしてた時に良いヒントをもらえたから、今日も何か言ってくれそうな気がしてね、つい話を振ってみてしまうんだ、それだけ(笑)」

「えー?私、なんか気の利いたこととか言いましたっけ?」

「気の利いたことっていうか、うーん、どちらかというと、君がさ、わりと自然体な感じで言っている言葉がすごいヒントになっているというか。後で考えて、とても感謝したことがあってさ、その話を代わりにしてもいいかな?」

「はい」

「直接僕に話してくれてなかったことだったんだけど、Azuriteが変質して一部マラカイトになっていても、それはそれで素敵なパワーストーンなんだと、君が言っていたのを覚えてる?」

「はい、あのきれいな蒼い石の色を変えないようにする為にはすごく大変だという話の時のですよね。でもごめんなさい、それって、ただの素人の感想ですよ?」

「それでもね、あれは良いインスピレーションを与えてくれたんだ。あの時の僕にはない発想だったよ。僕は、いつのまにか融通のきかない完璧主義者になっていたんだね。

 一点の曇りもない、変質しない立派なものだけに価値を感じるようになっていたらしい。変質してしまった後のAzuriteを駄目になったと思って、僕は見捨てていたんだ。でも、改めて見直してたら、違う発見があったんだ。そういうことが他のことにもあるかもなとか、応用出来ないかなって色々考え直しているところなんだよ、感謝してる」

「え?そうなんですか?

 私が何の考えもなくポロッと言ってしまった言葉なので責任は取れませんけど、ライさんのお役に立てていたなら嬉しいです」

「うん、すごく役にたってるよ。僕はマイペースだから、独学で勉強することがとても効率よくて心地よいんだけど、色々な人と会話するのも大事だね。

 とにかく、成長しようと焦っている時の僕は前しか見てないし、成長したなと思って得意になってしまって初心を忘れていたのかもしれない。たまには立ち止まって素直に物事を顧みないと気づかないこともたくさんあるんだね、反省したよ」

「そうなんですか、ライさんは真面目に頑張っているから、悩みが多いんですね。

 私は、悩みとストレスを増やしたくないから、あまり頑張り過ぎないようにして、手を抜いて生きているんですけど(笑)」

「じゃ、あまり深いというか、重い話を振らない方がいいかな」

「いきなり話を遮ってしまったみたいで、ごめんなさいでしたー。

 でも、深い話が嫌いとか、そんなことは全然ないんです。私、頭が良くない割には、誰かとそういう深い話をしたいなぁと思うこともあるんです。結論が出ても出なくても、どこかでそんな話をしていたことが、意外と私の暴走の歯止めになってくれたりとか」

「え?夏美って、暴走する時があるの?」

「気をつけてくださいね、ライさん。私、たまにきつい、意地悪なことを言ってしまうんです。ふだんは頑張って、必死で暴言や毒を吐かないようにしているんですけど」

「なるほどー。地雷を踏まないように気をつけるよ」

「でも、そういう深い話なら、時間をかけて話したいと思いませんか?

 あの交差点を右折すると、もうあとまっすぐ行けば到着ですよ?

「え?あ、もう?…意外と早く来られるんだね、平日だからかなぁ」

「そうですね、私、土日休めないけど、こういう平日ならではのお得感はあるんです。

 お話を切っちゃって、本当にごめんなさい。

 うちでこういうことするとヒートアップする人がいるんです。議論してる時に話をずらしたりすると、口げんかみたいになって大変なんですけど、ついつい私、やってしまうんですよね」

「いいよ、いいよ。全然、大丈夫。

 僕は、自分からでもしょっちゅう話を飛ばしているんだよ。だから、他の人に話題をずらすな、なんて言えない。と言いつつ、知らないうちに誰かに言ってたりして(笑)。

 この間、夏美と話をしてた時も、どんどん枝葉末節が広がって混ぜこぜになっていたし。

 で、たまに、どこかに飛ばしておいた話のテーマが、ブーメランのように戻って来たりして。

 僕はそれも楽しいんだけど、話し相手がストレスを感じてたら悪いなぁ。

 君はどう?」

「私は、ライさんと話してて、ストレスとか感じなかったですよ。

 たしかに先日、お話してた時、話が混ぜこぜになったり、脱線もしたりしてたんですけど。うーん、上手く説明出来ませんが、ライさんは、理解をしてくれるために『それって、例えばこういうこと?』って例えを入れて聞いてくれてたりしてただけですし、いろいろ関連性のあることをつけ足しても、話をそらしたり拒否したりはしていないで話を聞いてくれているのが何となくわかって。だから安心して話せました。

 話が混ぜこぜになって議論みたいに会話するのも楽しいんだなぁって、久しぶりに思ったんです」

「それは良かった」

「ライさんは、もしかして何か…言えないような悩みがあるんですか?」

「どうして?」

「人って何か悩んでる時に哲学的なことを考えたいような…。確か悩みを解決するために哲学が生まれたと聞いたような…」

「あー、そうだよね、夏美は本当にいきなり核心を突いてくるね。悩みだらけなんだ」

「私で良かったら、なんて軽々しく言えませんので…解決に向かうように祈ってます」

「ありがとう。人に言えないような悩みだから、聞いてもらえる可能性もないわけで(笑)」

「あ、そうなりますね。『言えないような悩み』って。聞いてもらえないような悩みという意味になってしまいますね」

「そうなると、やっぱり自分で頑張って解決するしかなくなるわけで。頑張ってあがいてみるわけ。『僕だけが辛いわけでもないだろう?世の中にはもっと頑張って耐えてる人がきっといるだろう?』ってとりあえず自分に言い聞かせながら」

「なかなかお力になれませんが、うーん、応援してますね」

「ありがとう、一個甘えていいかな?」

「何ですか?」

「僕が君を触ったら、『痴漢だ』って思われてしまうから、僕の肩でも腕でもいいから、僕を触って、『大丈夫。ラインハルトはちゃんと人間として存在している』って言ってくれないかなぁ」

「え?どこでもいいんですか?もしかして、くすぐって欲しいとか?」

「あーいや(笑)。いきなりくすぐられると、運転してるので困るな。タッチするかつねるかでお願い」

「じゃ、二の腕のところをつねってあげますね。どうですか?」

「全然、痛くない。…痛くないってことは、今、僕は夢の中にいるのかな」

「痛くて飛び上がるほどつねっていませんから、大丈夫(笑)。ちゃんとラインハルトさんは存在して、車の運転中であることを私が保証します」

「ありがとう、夏美がさっき言っていたみたいに、自分を人間らしく整えてきたつもりでも、たまに存在感薄くて消えてしまうんじゃないかなって思ったりするんだ」

「大丈夫、ちゃんと筋肉もありましたし、存在感ありますから。

 とりあえず運転中に消えないでくださいね、ライさん。お願いします。私は運転は苦手なので、ピンチヒッターとかできませんから」

「うん、そうだよね。君をちゃんと無事に家に帰してあげられるように、いきなり消滅しないようにするね」

「お願いします。

 あ、あ、ここから一つ目の信号で左折したら駐車場ですよ」

「了解、思ったよりも早く着きそうだね」

「ライさんの周りには、いつも沢山の人がいるんですよね?」

「うん、ありがたいことにね」

「ライさんの悩みを聞いてもらえたりはしないんですか?」

「あー(笑)、ごめん、なんか夏美に本気で心配させてしまったね(笑)。

 大丈夫だよ、僕はもうすぐ独り立ちを認めてもらえそうだから、今ちょっと身内の者にも見栄を張ったりして、自分で疲れてるだけ。ふだんは僕のヘタレ振りをみんな知っているからたくさんサポートしてもらえているし。

 たださ、バカみたいなんだけど当たり前のことにようやく気がついたんだ。

 えっとここでいいのかな、曲がるね」

「はい、ここです。

 ライさん、こっちの第1と第2駐車場の方が、博物館に近いと思いますけど」

「あー、ごめん、夏美、もう少し進んで芝生広場近くの第3駐車場に車を停めていい?

 あそこの池の森で、昼食を食べて休憩しようかと思っているから」

「えー?、今日、暑くないですかね?」

「うん、一応確認してからにしようか。今まだ空いてるから、駐車場を一周ぐるっと回ってもいい?

 HPによれば、なんだか緑と水に囲まれていて夏でも木陰が涼しいらしいけど?

 あと改装されて、人工的な滝みたいなのを作ったテラスを備えた建物があって、お弁当派に人気なんだそうだ」

「何か買ってから、そこへ戻ります?」

「それなんだけど。

 夏美の分も含めてお弁当を作って来たから、良かったら一緒に食べてよ。

 後ろのクーラーボックスに入れて来たんだ。建物の入り口のコインロッカーに入れておこうか」

「何と!ありがとうございます!

 ライさんは、お弁当男子なんですか?」

「うん、手抜きも多いけど、出かけた先で何をどう食べようかという時は持っていく方が楽だから。お口に合うといいけど。一度こういうピクニックっぽいのをやってみたかったんだ!

 じゃ、木陰だからここに停めるね。あ、ちょっと待って」

 ラインハルトがわざわざ降りて回ってきて、助手席のドアを開けてくれる。

「ありがとうございます。そんなにしていただいたら、ちょっと照れちゃいます」

「嫌、かな?」

「嫌ではないんですけど、慣れないことをしている感が強くて」

「嫌じゃなかったら、させて欲しいな。誰かをエスコートしている、出来るって男側の喜びでもあるからさ。夏美が今日、博物館に一緒に来てくれたからこそ出来ることなんだから。

 でも、ごめん、先に言っておくけど僕は博物館では、子供みたいになると思うから、紳士的なエスコートなんて忘れてしまうかもしれないから、ごめんね」


 芝生広場のそばに、新しくて白い壁の3階建の建物が出来ていた。

「きれいな建物ですねー。最近出来たんですか、全然知らなかったです」

 売店もあり、木陰と水辺のある1階のテーブル席だけは有料だが、予約を先にしておいたらしい。ラインハルトが手回し良くコインロッカーにクーラーボックスを預けて博物館の方へ向かうことになった。

 日差しが心配だったが、道が林のようになっているので、意外と暑くなさそうだ。

「君が暑かったら、車に乗って博物館に移動する?」

「これなら大丈夫そうですね。木のお陰で暑さが和らいでいるし」

「うん、冷房の風じゃなかなかないような、心地よい風が吹いてくるよね」


 夏美は、不思議な感じがする。

 こういう風に、以前もライさんと木陰道を歩いたり走ったりしていたような気がする。

 木漏れ日の下でちらちらと、ライさんのきれいな青い瞳の色が微妙に変化するのを見ていたような気がする。

 無邪気に笑って女の子が駆けた。ライさんを行き過ぎて振り返って、名前を呼んでる。でも、それは…ラインハルトっていう名前なんかじゃないみたいだった。


「夏だからか、誰も歩いていなくて静かだね。

 もしかして、疲れた?」

「いやー、まだまだ若いもんには負けないくらいの、体力はありますって」

「良かった。車の中で僕がずっと話しかけてたから、疲れたのかなって」

「いえいえ、そう言えばさっき話の途中でしたね、『当たり前のことに気がついた』って」

「ああ、大したことじゃないんだよ。自慢するわけではないんだけど、僕は生まれてからずっとたくさんの人に囲まれて世話されてきて、それを当然のように思っていたんだ。で、僕の物語の中で用意されている登場人物のように他人を見ていたんだ。でもね、決してそうじゃないってことに気がついた。

『僕は、僕の物語の主人公で。それは間違いない。でも、例えばうちのコックさんは僕のために仕事をしてくれて、僕の物語の中でかなり重要な登場人物だけど、別に僕のために用意されて生まれてきてくれたりしてるわけじゃない。

 彼は勤務時間が終わると家に帰って、奥さんと子供と楽しく過ごすんだ。もしも、僕が彼に片想いをしたならば、よほど頑張らないとダメだろうな。彼が主人公の物語の中の僕は、彼にとって、いてもいなくても大して価値がない』、そうだろう?」

「あー、なんとなくわかります。私もね、子供の頃に読書していて、それが羨ましくてならなかったんです。

 小説やドラマの世界では、主人公の提示する悩みとかぶつかった困難に、作中人物が答えをきちんと返していったりしてくれるし。主人公のために作中人物が用意されて良いタイミングで関わってきてくれていたりするお話の世界にいることができたら良かったのにって」

「そうなんだよ。たまに存在するけどね、悪役キャラとか敵キャラとか。

 でも無視したりしない、スルーしない、ちゃんとなんらかの反応を返してくれる」

「わかります、もちろん一人芝居で素晴らしいのもありますけど、主人公がそこまで頑張らなくても、誰かが用意されていて反応してくれる」

「そうそう、まず、ひとりぼっちの寂しさはないよね。

 現実はきちんとした物語じゃないんだから、答えをもらえずに放置されたり、頭ごなしに否定されたり、そこまでは望んでないのにお節介されたりお説教されたり、望んだように展開しないんだ。

 例えば、Aという人に何か重大な話をしたいと思うとする。でも、それはこっちの都合なわけで、拒否されるのも覚悟しなきゃならない」

「はい、私は臆病なので、想定されるマイナスをカウントして、それがなんだか多そうな場合、そこで諦めかけますね」

「誰だってそうだよ。

 マイナスを想定する要因としては。

 一つ、Aに対するこっちの関わり方がまずかったのかもしれない。

 二つ、偶然にもAの方が忙しかったり辛い目にあっていたりで、そもそもこちらの話なんて聞く余裕はない。

 三つ、そもそもAを選択したのが良くなかった場合かな。実はこちら側が把握してなかっただけで、こちらはAに思いっきり嫌われていたとか。メンタル、性格的にすれ違いがある」

「三つ目がめちゃくちゃ悲しすぎますね、リアルに」

「そういうの、無い?」

「うーん、ありました。子供の頃なんですけど、他の人に尊敬されている偉い先生なんですけど、その先生の言動で、『私、この人を尊敬出来ないな』って思った瞬間があって。

 嫌いというよりも、ただ悲しかったです。その先生が根本的には良い人だったから。

 そして、ほんの子供の自分なのに、そういう風に立派と言われている大人に対して冷たくマイナス評価をつけた自分も恐ろしくて嫌な子供かもしれないと思ったんです。

 あー、こんなこと今まで誰にも言わなかったのに。内緒にしておいて下さいね」

「うん。だからさ、ああ、ブーメランが戻ってきた。はからずも僕のさっきの重い質問にリンクしていきそうだね。

 {悩みを抱えていて、状況と背景を説明した上で、その悩みを聞いてもらいたいと思った時に、勇気を振り絞って痛いところを説明した方がいいのか、黙って我慢して誰にも伝えないか。その2択じゃなくて、自分をさらけ出すことなく悩みを上手く解決してもらう方法があるのか}ってやつ。ごめんね、自分の質問に寄せていっちゃうけどさ」

「いいえ、大丈夫です。うーん、そうですね、かなり近いですね」

「ドラマでハッピーエンドが用意されていたら、

『良かったー。Aさんがいてくれて。話を聞いてもらえて』って主人公が言う。Aさんも

『主人公さんの気持ちを聞けて良かった。自分が力になれて良かった、これこそが絆かもしれない』

 テーマソングが高らかに流れる。うん、でもさ、やっぱり自分の痛いところやらいろいろとヤバイ真の姿を見せてしまっていて、ちょっと次に会った時に恥ずかしいねぇ、それこそ照れちゃうし、わー、たくさん変なところ見せちゃったぞって」

「確かにいたたまれないかも。あ、そうだ、私、いい解決策、ひらめきました」

「さすが、夏美!、言って言って!せめてヒントをくれ」

「大丈夫、お昼ご飯のお礼になるかわからないですけど、ライさんには特別に教えてあげますね!

 そんな劇的になる前に、ちょっとずつ小出しにしてガス抜きをしておくといいんですよ」

「具体的には?」

「うーん、例えば主人公とさっきのAさんを例にすると。

 主人公はAさんに対して悩みを打ち明けたいし、でも急にいろいろ自分の痛いところを見せたくないので、たまに会って一個ずつ差し障りの無さそうなところから話をするんです」

「なるほど、それが小出しか」

「はい、で、そうすると、そういう話をしているうちにAさんがとても冷たい態度で話をあまり聞いてくれないとしますね、それはAさんが忙しいか、主人公を嫌っているのかもしれない。だから、そこでちょっと考えたり立ち止まったりするんです。

 で、たまにAさんがぽろっと自分のことを話したそうにしたら、たぶん嫌われてることはなさそうだし、今後も仲良くしたいから主人公も自分の悩みはちょっと置いておいて全力でAさんの話を聞いて助けになりそうなことを頑張るんです。

 どうですか、『急がば回れ』作戦です」

「うん、夏美、ありがとう。

 …本当にそうだよね。僕は、気が短い所があるから、思いつめていきなり突進して一か八かってやっちゃいそうになるんだけど、そういう風な『急がば回れ』作戦にする。

 夏美は本当に良い軍師になれるよ、気持ちが軽くなった」

「良かったです!、じゃ遠慮なくお昼ご飯をたくさん食べさせていただきますね」

「じゃ、夜ご飯もご招待していい?

 僕のお昼ご飯が美味しくなかった時の埋め合わせをしなくてはと思って一応、予約しておいたんだけど。夜ご飯も付き合ってくれると嬉しいな」

「え、あ、いいですけど、もしかして…すごく気を遣うレストランですか?」

「ううん、ごめん、そんなんじゃなくて自分が行きたかった焼き鳥屋さん。自然素材ばかり使ってるってことで、外食許可がおりたので」

「わぁい、焼き鳥、すごく好きです!ぜひぜひ。

 でも、ライさん、本当に大変ですね」

「うん、哀れな情け無いお坊ちゃんだろう? 周囲のスタッフに頭を下げて許可をもらって頑張るしかない。みんなの期待と制約のもとに僕は生活させてもらってるんだ。

 …夏美?いきなりダッシュしないで?」

「ライさんにご馳走になるばかりでは悪いので、せめて入場券を購入させてください。券を買ってきます!」

「ありがとう、わかったから転ばないでよ」

「ライさんまで走らなくても」

「いや、姫が走ったら、騎士(ナイト)も走る必要があると思うんだが?」

「お姫様役より、私、軍師がいいです。気に入りました」

「軍師様、一緒に列に並んでもいいですか?」

「ライさんは、お財布を出しそうだからダメです」

「出さないよ。せっかくだから夏美におごってもらって、半券を家宝にする」


『VI THE LOVERS 恋人たち』

《選択の時に》の章のイメージは、このタロットカードに託してます。


似て非なる三角形と逆三角形を重ねた図形、六芒星が表す安定数が6です。

自分と異なるものと出会い、結合するのですから、素直に《愛》、《結婚》が正位置のキーワードとなっています。

しかし、このカードのメインテーマは、『選択』です。正位置の場合、まさしく『選択の時が来た』、逆位置になりますと『選択の誤り』の意味まで含めます。


拙作では、〔波風を立てたくない=失敗したくない〕主人公、あるいは〔愛する人を失った=失敗した〕主人公という設定にしてあります。

表向きは、両者共に高いコミュニケーション能力を持っているのですが、それはペルソナ(他人向けの顔)なのかもしれません。

空気を読まねばならなかったりする世間で、深い話をしたり、内面の繊細な部分の話をすることのできる相手を見つけることは、そう簡単ではありません。表面的な交際、交流の方がハードルは低いですが、それだけでは淋しさを感じます。そのような他人との関わり方すべて、ほぼ《選択》の問題です。皆さま一人ひとりが対人関係の度合いを《選択》すれば良いのです。

ただ、残念ながら、選択できないこともあります。就職先、学校、もしくは家族。好きではない人と同じコミュニティにいなくてはならない場合も多いのです。他人と関わっていく以上、もちろん自分の都合だけでは終わらず、《相手に振り回される》、ともすれば《自主性が無くなる》という逆位置のキーワードもあるのです。心を殺して我慢するという《選択》もあり、今まさに耐えている方も多いはず。仏教用語にも『怨憎会苦』(嫌な奴と会う苦しみ)というのがあるほど、ポピュラーなのです。


この章はデート編なので、正位置のキーワードとして《コミュニケーションの取れる相手との楽しい恋の始まり》という最も幸福な意味を込めました。

逆位置のキーワードとしては、《まだ選択できない》という意味を込めています。このカードは、理屈による選択よりも《直感的な選択が、正解である方が多い》というメッセージも持ちますが、主人公たちは、まだまだ遠慮がちで臆病なのかもしれません。

カバラ数秘術を考え合わせると、6の数字は、15番目のカード(1+5=6だから)にも関わります。

15番目のカードは『XV THE DEVIL 悪魔』のカードです。悪い意味だけでなく、良い意味でもそのカードは、恋の進展、対人関係を深めることに関わり、終盤にそのモチーフが登場します。


※ 本作品「26」には、本文中に脇役の話の展開中に『VI THE LOVERS 恋人たち』の解説が出てきます。

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