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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
129/148

127 《祈りを絶やすことなく》 (11)

〇 この編(117~127)は、劇中劇の扱いです(小説の中の人物がパーティで劇をするという趣向です)


〇 後書き部分に、配役表があります。

【最終:七幕目】


(王城・舞踏会会場のセット)

(幕が開くと、男性陣は黒系の衣裳、女性はそれぞれ色別のミディドレスですでに舞台上にいる。

 全員国王夫妻を中心にして、舞台挨拶のように並んでいる。

 ソルト王国国王夫妻〈グリーン系衣裳〉、アレク王子とグリュン姫〈ホワイト系衣裳〉、ファイルとマリン姫〈ブルー系衣裳〉、ナハトとロゼ姫〈ピンク系衣裳〉、カルム侯爵とゴルト姫〈イエロー系衣裳〉と、貴族たち(練習会メンバー:色は各人の好みによる)


(ナレーションが入る。)


斎藤:さて、カルム侯爵ご一行のご活躍で、グリュン姫やファイルの事情も明らかにされました。   

   グリュン姫というのは仮の姿、神聖フローレ王国の皇女であったのです。ご本名はとても長いので端折りますが、ペルレ姫とおっしゃられるそうです。真珠という意味にちなむお名前です。

   では。

   国王陛下のお言葉をうけたまわりましょう。

   


 国王が口を開く。

「…さて、会議もとどこおりなく終わった。

 皆の協力に感謝する。

 これまでの通り、変わることなく。

 我らは神のもとに等しく参集しようではないか。

 それぞれの民や国のために尽くし、また我らとは異なる生物、部族、種族等を損なうことのないよう。

 賜った大地と大気の恵みに感謝し、祈り、共に力を合わせよう」


 舞台上の者達は、一斉に国王に向かって礼をする。



「うむ。では、改めてご紹介しよう」


 国王が手招きをして、騎士ファイルとペルレ皇女(グリュン姫)を中央に立たせる。


「こちらにおられるのが、神聖フローレ王国の皇女、ペルレ姫と騎士ファイル殿である。

 さて。

 お二人に今後お願いしたいのは、ぜひに神聖フローレ王国の皆々様と我らの橋渡しに他なりません」


「はい、喜んでつとめさせていただきます」

と2人が応じると、さらに真顔で国王が言った。


「我らソルト王国は、私以下一丸となって神聖フローレ王国の復興のため、そして未だ故郷に戻れぬ皆様たちのためにさらに心を尽くすことをお誓い申し上げたい。

 もともと、神聖フローレ王国こそが国の中の国。

 ソルト王国を含めて他の国は、もともと衛星国のようなものでありましたから、ぜひまた首長国のご栄光を取り戻していただきたいのです」


「え?」

と、その思いがけない言葉にペルレ皇女は国王の顔を見やる。


「グラド帝国のような侵略国が多くの秩序を破壊しましたが、もとの平和を取り戻すために、我らソルト王国が最初に手本を示す誉れを得たいと思い続けて参りました。

 また、この誠をご信頼いただきたいと望んでおります」

と、一度言葉を切った。


 さらに両手を広げて、静まり返る会場全体に向かって言う。

「自国、自国民の権益はもちろん大事ですが、そのことばかりを図り、他国に侵害を与えることこそが、愛国心の名を(かた)る傲慢な帝国主義を生むのです。

 我らは、他国を友として尊敬する国、侵略や蹂躙などは決してしない、高潔な国を目指して参りましたゆえ、今後も他国からの信頼を勝ち得たいと思うのです。

 まだまだ、荒廃した土地を戻すには長い道のり、ご苦労がおありかと思うが。

 ぜひ、お父上様、兄上様にも本来のお立場に返り咲いてご手腕をふるっていただきたいものです。

 どうぞ今後とも、祈りを絶やすことなく我らと共に」


 ソルト王国国王が正式にペルレ皇女に臣下の礼をした。

 即座に他の者が(なら)ってペルレ皇女に向かって深い一礼をする。

 ペルレ皇女は、深々と礼を返した。


「おそれ多いことを承りました。

 もったいないお言葉を賜り、感謝の言葉も思いつきません。

 高潔なお振る舞いを自らお示しになられる国王陛下のようなお方ですからこそ、怖ろしい帝国に打ち克つことが出来たとお聞きして参りました。

 お側でお言葉を承りますと、いっそう陛下への尊敬と信頼の念が強くなりました。

 どうぞ今後とも、ご指導くださいまして、国をお治めくださることを長く続けていかれることを願います。

 …申し訳ありません。政治のことは不勉強の身ですので、他の皆様や父や兄とどうぞご相談なさっていただきますようにお願いいたします。

 そして。

 もしも許されるのでしたら、私もまた、これから様々なことを学びたいと思います。どうぞ大司教様と共に、お導きくださいませ」


「おお、嬉しいお言葉。

 確かにお隠れになっておられた間は、書物などにもご不自由されておられたとお察し申します。

 ぜひ、我が国にあるすべての物をどれでもご利用くださいませ。遺跡や遺物の他、歴史的な資料も保全して、揃えてあるはずです。

 おお、そうだ。立派な学者の方々にもお引き合わせ致しましょう。

 王子アレクも日夜指導を賜っておるところです」


「ありがとうございます。

 どうぞよろしくお取り計らいくださいませ」


「いまだ半人前ではございますが、アレクは少し先を学んでおりますはずです。何かのお役に立てるかもしれません。なんなりとお申し付けください。

 お邪魔にならなければ、共に学んでいく友としてくださいますように」


 傍らでアレク王子も礼をする。


 ペルレ皇女は、嬉しそうに言う。


「ありがとうございます。心強いです。

 では、さっそくよろしくお願いいたします」


 2人が手を取ったのと同時にいきなり陽気な4拍子の曲がかかり、登場人物たちは軽くお辞儀してホールドし、ジャイブ(初心者はジルバ)を踊り始める。


(途中で、アレク王子がペルレ皇女をエスコートして舞台袖まで移動していく)


 ペルレ皇女は、言う。

「あの、アレク王子殿下、よろしかったらもう少しフランクにお話しいただけませんか?」


 アレク王子は笑った。

「だって、君だって、まだ殿下とか言っているじゃないか。

 本当に驚かせてくれたよね!

 おてんばな皇女様♪」


「だから、その…皇女様は、やめてよ(笑)」


 お互いにいたずらっぽく顔を見合わせた。


(この後、少しの間、舞台からペルレ皇女の姿だけ隠れる。ペルレ皇女の衣裳の早着替えタイムなのである。先ほどまでのジャイブが踊りやすいミディドレスから、ウィンナーワルツ用のロングドレスに変化させる=元のドレスにオーバースカートを巻くなどの工夫での早替り)


「じゃ、呼び捨て同士でいくか。

 僕達、良い友達になれると思うよ」


「ええ、お願い。

 勉強は、厳しいわよね?」


「当たり前だよ。覚悟しておきなよね!

 まぁ、優等生の僕を見習っていれば大丈夫」


「ええ、お願い。

 …。

 あの、…そんなに厳しいの?(涙目)」


「ストレス溜まったら、連れ出してあげるよ。

 馬は乗れる?

 自分で走らせていける?」


「もちろん♪、そういうのは得意なの♪」


「やっぱり♪、じゃ、抜け出して遠乗りに行こうよ!

 お勧めの場所がたくさんあるんだ」


「ええ、お願い!」



(周囲がまだジャイブを踊っている中、アレク王子とペルレ皇女が再び登場。舞台中央に向かう)

(ナレーションが入る。)


斎藤:と、このように。

   アレク王子とペルレ皇女は、その後さらに仲良くなり、共に学び、時にはケンカをし、共に抜け出し、共に怒られました。

   そして。本日は(コホン)

   皇女ペルレ姫様とアレク王子殿下のご婚約発表の舞踏会です。

   いよいよ、ハッピーエンド。日本語では、めでたしめでたし。ですね。

   どうぞ、お披露目のウィンナーワルツをお楽しみください。

   皆様、長いお時間劇にお付き合いいただき、ありがとうございました。


(登場人物が整列し、客席に向かって一礼する)

(客席、大いに拍手)



(ウィンナーワルツの曲がかかる)

 

 アレク王子とペルレ皇女が向き合う。

 ペルレ皇女は、差し出された王子の手に自分の手を添えて、深く膝を曲げ片足を後ろに引いてカーテシーをする。王子はペルレ皇女に優しくうなづき、軽くお辞儀をする。

 2人は微笑みあい、踊り始める。


 自分たちを見守る人々の前を移動して円を描いていく。

 客席で見ている人達も2人が近づいて、ピクチャーポーズと言われる2人のバランスを合わせた一瞬の静止ポーズを取ると、大いに拍手が湧く。

 


 夏美はピクチャーポーズで遥か上を仰ぎ見る時に、ティールーム《Azurite》の蒼い色を思い出していた。

 荘厳な蒼の色。

 でも、純粋な蒼だけじゃない。

 様々な色のかけらを散りばめた蒼。

 ともすれば輝きを失い、損なわれてしまうと聞く、繊細なパワーストーン、アズライト。


 あの時、宇宙を感じたような気がした。大げさかしら。

 そうね、ウィンナーワルツでライさんと踊りながら描いていく円の軌道は、惑星が宇宙の軌道を辿ってゆくようにも思える。

 まるで自転している地球という惑星のように2人で小さな回転を繰り返しながら踊って、行き渡って行くところも、本当に似ている。

 宇宙から見れば、ちっぽけな2人の人間だけど。

 でも、今は、まるで惑星のように。

 神様の定めた運命に導かれて辿ってゆく星になったような気持なの。


 踊っている時は2人顔を見かわすことは出来ないけれど、なんとなくラインハルトもそう感じているように思える。そこまでいかなくても『そうだね』と答えてくれる、きっと。

 私たちはこうやって出会い、《運命の輪》を一緒に辿って行くのね。


 たくさんの人と出会い、お世話になりながら。

 いいえ、それだけじゃない。

 私たちも、私もライさんも、それぞれの人達に良い影響をお返し出来ますように。



 一期一会の、このひとときを一緒に居合わせた人たちと一緒に味わえたことの喜び。

 自分たちの幸せを喜んでいただけている幸せ。



 舞台上にいた者は、まだ役を演じることを忘れぬようにとつとめているようだが、真凛や花梨の頬には涙の筋が光っている。


 遥も瑞季も、例外ではなかった。

 自然と目から涙がこぼれていきそうで。

 温かな涙。優しい思い。 



 最後にくるりと、アレク王子がペルレ皇女をターンさせ、舞台正面に揃って向き直り、一礼をする(ペルレ皇女はこの時も深いカーテシーをする)。

 そしてその瞬間、王子役からラインハルトに戻ったかのような微笑みで、傍らの夏美をちらっと見た。


 促された夏美は少し照れながら、ふわりとラインハルトの肩に両手を載せ、少し身を低くした姿勢のラインハルトの頬にキスをした。


(会場、拍手)

(『アンコール!』という声がかかる。)


 ラインハルトと夏美は、照れて笑いながら顔を見合わせてた。


 ダンスのアンコール?

 え、キスのアンコールじゃない?ダメ?

 ダメ!(笑)ダメに決まっているでしょう?(笑)

 という感じのやり取りをしているようだったが。


(すかさず、ナレーションが入る。)


斎藤:アンコールのリクエストは、ええと、やめておきましょう。


(2人が気を揃えて再度客席にお辞儀をする)

(拍手)


斎藤:そうですね。アンコールは、この後、お二人何度でもプライベートでどうぞ♪

(笑い声、拍手)

 どうぞ、おふたりには末永いお幸せを♪

 そして、皆々様にも末永いお幸せを♪

 まことにおめでとうございます!


(盛大に拍手、幕が下りる)


斎藤:この後、有志の皆様のかくし芸大会となります。ただいまから10分間、休憩致します。

   もちろん、その間にもダンス音楽を演奏していただいております。

   どうぞ、引き続きお食事やダンスをお楽しみください。

☆ 配役表 ☆


グリュン姫(ペルレ姫)=夏美 【イメージカラー:グリーン】

マリン姫=真凛 【イメージカラー:ブルー】

ロゼ姫=遥 【イメージカラー:ピンク】

ゴルト姫=瑞季 【イメージカラー:イエロー】


アレク王子=ラインハルト


騎士団所属術師ナハト(王子の側近)=姫野

騎士団所属騎士ファイル(王子の側近)=マルセル

カルム侯爵=花梨

国王夫妻=フィリップと妻メレイア


サンバ隊(子供心を持った有志・飛び入り大歓迎)

城の警護兵(ダンス練習会メンバー有志)


ナレーションその他(斎藤、遥)


※ 小説上では日本語での表記だけですが、

  実際のパーティでは、司会・舞台上のセリフ、説明などは同時通訳で{英語・ドイツ語・フランス語}の字幕テロップが舞台上の壁だけでなく、四方の壁上部に流れている設定です。

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