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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
127/148

125 《祈りを絶やすことなく》(9)

〇 この編(117~)は、劇中劇の扱いです(小説の中の人物がパーティで劇をするという趣向です)


〇 後書き部分に、配役表があります。

 【六幕目】


 (幕が上がると、牢屋のセット。囚人服を着せられたグリュン姫が牢屋に入れられている。)


 警備兵が、トレイに簡素な食事を載せてやってくる。


「食事だ!」

「…食欲がありません」

「嘘をつくな!

 食べることが何よりも好きと聞いたが、」

「は、はぁ…そうです…」

(会場で、とくに夏美の友人達が座っている付近から、くすくす笑いが起こる)


「せめてもの慈悲だそうだ。

 刑が言い渡されるまで、まだかかるからな」

「…?…」

「泥棒なのだろう?

 ファイルさまをたぶらかして案内させたとか、怖ろしいヤツだな…?」

「!…」

 返答も出来ずにうつむくグリュン姫。


「…今は食べておくんだな」

 警備兵は、脇の小窓を鍵で開け、外から小さな机の上にトレイを置くとすぐ、バタンと閉めて鍵をそそくさとかける。

 余計なことには関わりたくないという様子で、すぐに牢の前から離れて持ち場に戻っていく。



「…ありがたく頂戴します」


(グリュン姫はうなだれたまま、神に祈っている様子。)

(ナレーションが入る。)


斎藤:グリュン姫は混乱して、投げやりな気持ちです。

   侵入した泥棒として疑われていることは理解できました。騎士ナハトが、アレク王子に危害を加えたと疑っているらしいこともわかります。あの時、そばにいたのは自分だけだったからです。

   しかし、ファイルまで逮捕された理由が良くわかりません。

   アレク王子が怪我をした時には、ファイルはナハトと一緒に行動していたのですから。

   そんなことよりも。

   やはり、アレク王子の怪我のことが心配で、落ち着きません。

   青ざめた顔、自分の怪我よりもグリュン姫を気遣った表情が忘れられないのです。

   


斎藤:ファイルはどのような疑いをかけられているのでしょうか?

   まさか、疑われている自分の共犯と思われてしまっているのでしょうか。

   そうなると、ファイルの出自まで徹底的に調べられてしまうでしょう。

   元々は国交の無かった神聖フローレ王国の者が身分を隠してソルト王国の中枢で長年働いていたのです。いったいどうなるのでしょうか。

   さらに、身分を偽った自分もまた刑罰だけでなく侮辱されてしまうおそれがあります。

   グリュン姫は、うなだれるばかりでした。



(ナレーションの間は、グリュン姫は憔悴して、たしか何も食べないはずの予定だったのだが、夏美は何げなくトレイから食べ物を一つつまみ上げて、自然な様子で口に運ぶ)

(瑞季と遥が、舞台袖で噴き出すのをこらえる)


「…いや~もう、食べないはずだったのに。夏美ったら、、(笑)

 いくら、セリフ無しで良い場面とはいえ(笑)、」

と、遥が困った顔になる。

「お腹が空いちゃったのね?(笑)…。

 予定では、アレ作り物にしておくはずだったんじゃない?」

と、瑞季が応じる。

「それでも、万一変なものを食べちゃったら大変だって、ライさんが言うんですもん。本物の食べ物に変更しておいて…、ええ、まぁ良かったわよ。

どうやら、自然な動き過ぎて、周囲はスルーしてくれているわ」

「エンディングまであとちょっと♪

 途中の着替えタイムでも何かつまむものを用意しておいた方がいいわね、(笑)」




 ナハトが、いきなりグリュン姫の牢屋の前に現れる。警備兵や牢番はペコペコお辞儀をする。だがそっけなく、その場から追い払われてしまう。

(さっきまでとは、ナハトの迫力が違う。どうやらグリュン姫を罪人と決めつけているような態度である。)


 牢の外から、グリュン姫をじっと睨みつけて、ナハトは言い放つ。

「呆れた女だな!、殿下にお怪我をさせるとはッ」


「あの、ナハト様!

 アレク王子様の、ご容態はいかがでしょうか?」


 ナハトは不機嫌そうに鼻をフンと鳴らした。

「お前などに教える義理はない。

 凶器をどこへ隠した!

 ファイルが持っていたのは稽古用に使う剣のみだった、との報告だが」


 グリュン姫は、神妙にうなづく。

「凶器と呼んでいいのかどうか。

 あの…『剣』をお調べくださいましたか?」


 ナハトは首を振る。

「また、あのウソ話を始める気か。

 『剣』は、もともとの、同じ場所に刺さっていたではないか。

 古来、一度も抜けたことのない『剣』を凶器だと言い張れば、我らを騙しおおせると思ったか。

 もともと、聖なる遺物。

 確かに、不思議な現象が起こるかもしれないと、つい考えるからな。

 だが、調査はまだ始まってもいない。

 触れることすら禁じられていた大切なものだから、まずは大司教様にご報告したのみだ。

 …大司教様はたいへん困惑されて、夜明け前というのに、まずは祈りを捧げに行かれることになっている。

 何か邪念でもかけられて、穢れてしまっていては困るということらしい」

と、一度言葉を切った。


「…そんなことに…」

と、グリュン姫は小さく呟く。


「まぁ、たとえ、殿下の血が『剣』に付いていたとしても、だ。

 あの場には、殿下とお前しかいなかった。そして、我らが駆け付けるまでの時間はあった。

 それこそ、身軽に動けるお前なら、なんでも小細工が出来たであろうよ」


「……」

グリュン姫はショックを感じたようだ。自分の言葉を信じてもらえないという経験をあまりしてこなかったので、どのような態度をとるのが正しいのかもわからない。


「ああ…」

と、ナハトは大きなため息をついた。

「…まことに困った。

 大変なことをしでかしてくれたな。 

 今後、調査をするご許可が出るかどうか、わからない。

 もちろん、我らとしても真実を知りたいのだが。

 『剣』の神秘的な話も無視しがたいが、犯罪は許せぬからな。

 だが。…事件の真相よりも、大切なことがあると大司教様は言われた。

 確かに、そうなのだ」



 グリュン姫は、さらにうなだれた。

 自分では認めたくなかったことがぽろりと口からこぼれる。

「…そうですか…。

 もしかしたら…私が関わったことで、大切な『剣』が禍々しいものになってしまったのでしょうか」


 ナハトは、いっそうグリュン姫を睨みつける。

「フン、自分でもそう思うのか。

 『剣』は、本当に祟られてしまったのかもしれぬな。

 そして、それは確かにお前の責任だ。

 お前が関わらなければ、起こりえなかったのだ。

 これまでは一度も、問題が起きたことなどないのだから。

 ただの一度も、だ。

 最も問題視された時と言えば…。

 あの戦乱時に遺跡や遺物を神聖フローレ王国の神殿から運ぶことだったと聞いておる。

 大司教様も思い悩まれたと仰せであった。神のご意思に背くのではという心配があったのだ。

 だが、侵略国のグラド帝国に渡してはならぬと決められた。自国の利益のためではない、平和のためだった。

 そして、それは正しい選択だったと証明されたともいえる。

 なぜなら、問題は何も起きず、むしろそれ以後大司教様と共に『剣』をきちんと保全したソルト王国は栄えに栄えたのだからな。

 讃えるべきは、まこと神のご意思である」


「……はい」

と、ただグリュン姫は神妙にその話を噛みしめている風である。



「怪我をさせられたものの、殿下は優しいお方であって、どうやらお前をかばっているようだ」

と、ナハトが言いかけると、グリュン姫は即座に顔をあげ、

「では、アレク王子殿下は、ご無事なのですね?」

と言った。


 少しほっとした表情を浮かべたグリュン姫を見て、ナハトはかなりムッとする。

「下手な、その”心配してます”演技は、ほどほどにしろ!

 もしも、少しでも責任を感じているのなら、黙って聞け」

「はい、…すみません」

 

「とにかく、殿下には大切な儀式の前であった…。

 相当ショックを受けられたのだろう。

 お前と同様、不思議な話をするのだ。

 『剣』が勝手に飛んできて、自分に刺さったと仰せだ。

 しかも…(顔が歪む)。

 あの、聡明な殿下が、、。お悩みのようなのだ。

 あろうことか、自分には資格がないのだろう。だから、そのせいで『剣』が機嫌を損なったのかもしれないという意味のことを…。

 大司教様や陛下に、もしも正式に『儀式を辞退する』などとおっしゃられたら、今後どうなることかと思うと…」

と、ナハトは苦しげに言う。


「そんな!」

 慌ててグリュン姫は、発言する。

「それは、違います!

 いけません。そのようなことはありません。

 どうか、殿下をお止めください」


 ナハトは睨みつけるが、グリュン姫の発言を止めなかった。


 グリュン姫は、意を決したように言う。

「たぶん、私のせいなんです。

 ど…泥棒に入った私が『剣』を欲しがっていたのです。

 そんな汚れた心を見抜いて『剣』が嫌がっていたのかも、と。

 きっと、そうです!

 私はそう感じました!」


 ナハトは、満足そうにうなづいた。

「やはり、お前は泥棒であったか。

 私の見抜いた通りじゃないか。

 そうか、神妙である。自白をしてくれるのが一番、良いのだ。

 自分の責任だということは、認めるのだな。

 普通は神を怖れて出来ないことだが、辺境の蛮族の出身だとしたら、ソルト王国や神に遠慮などないのだろうからな」


 グリュン姫は泣きそうな顔でうつむいたまま、押し黙っている。


「次は、ファイルについてだ。

 知り合いだろうから、お前もきっと心配しているのだろう?

 ちょうど、あいつも取り調べを受けているとこだ。

 泥棒を姫君に仕立て上げて、あろうことか殿下にまで近づけるとは!

 ほぼ、あいつは共犯と言ったところか、決まりだな」


 黙ったまま、うなだれて首を横に振っているグリュン姫を見下ろして、ナハトはさらに続ける。

「それで、お前は…。

 ファイルとは、どういう関係なんだ?

 愛人かなにかか? やたら仲が良さそうだったが」

 

 グリュン姫は、きっぱりと言う。

「あの、関係なんてありません。

 そうなんです。ナハト様のお見通しのように。

 私は、ただの泥棒です。白状致します。

 価値のある宝物があると聞いてやってきたのです。

 そして、ファイル様をだましたのです。故郷の者と偽って、」


「そうか、じゃあ聞こう、ファイルの故郷は、いったいどこなんだ?」


「知りません!

 …ええと、ただ…そのう、ゴリ押しして、上手く騙しただけです」


 ナハト、大いに笑う。

「なかなかだが、説明できないのはおかしいじゃないか。

 こちらの手に上手くのって、考えた嘘のようだが、矛盾しているな。

 故郷の者と信じ込ませるためには、その故郷を出身者と同じくらいかそれ以上に知っていて、共感させてこそ油断をさせられるものだと思うのだがな」


「…」


「泥棒というよりは、お前は暗殺者なのかもしれないな。

 普通の女泥棒ごときに、殿下が不覚をとられるわけがない。

 ファイルは、忠義者の仮面をずっと被り、陛下や殿下を騙しおおせてきたのだろう。

 そして、暗殺者を手引きした。…周到な計画だな」


「いえ、そんな…そんなことは、決してありません」

 

 ナハトは、いよいよ聞く耳を持たぬようだ。

「もともと、武芸にも秀でた殿下だ。だが、姫君に化けたお前に油断をした。

 首尾よく傷を負わせただけでも、お前は大した腕だよ。

 しかし!

 ファイルもバカだよなぁ…。

 暗殺しそこなった、とはな(笑)」


「そんな!

 それは、違います。

 アレク様を、王子殿下を暗殺なんて…。(身震いする)

 ファイル、…ファイル様はそんな方ではありません」


「ずっと、そう、以前から私はファイルを疑っていたのだ。

 あいつがぼろを出すまで、何も出来なかったがな。

 ようやく、あいつを反逆者として突き出すことが出来るとは!」



 グリュン姫は驚いて、はっと顔を上げる。

 ナハトの瞳は暗い。

 顔は強張っているようだが、皮肉な笑みを浮かべてもいる。

 一つの面だけ見て推しはかれるほど人は単純なものではないと、今さらだが気づく。


☆ 配役表 ☆


グリュン姫(ペルレ姫)=夏美 【イメージカラー:グリーン】

マリン姫=真凛 【イメージカラー:ブルー】

ロゼ姫=遥 【イメージカラー:ピンク】

ゴルト姫=瑞季 【イメージカラー:イエロー】


アレク王子=ラインハルト


騎士団所属術師ナハト(王子の側近)=姫野

騎士団所属騎士ファイル(王子の側近)=マルセル

カルム侯爵=花梨

国王夫妻=フィリップと妻メレイア


サンバ隊(子供心を持った有志・飛び入り大歓迎)

城の警護兵(ダンス練習会メンバー有志)


ナレーションその他(斎藤、遥)


※ 小説上では日本語での表記だけですが、

  実際のパーティでは、司会・舞台上のセリフ、説明などは同時通訳で{英語・ドイツ語・フランス語}の字幕テロップが舞台上の壁だけでなく、四方の壁上部に流れている設定です。

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