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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
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123 《祈りを絶やすことなく》(7) 

〇 この編(117~)は、劇中劇の扱いです(小説の中の人物がパーティで劇をするという趣向です)


〇 後書き部分に、配役表があります。


 ”龍”という言葉がかすかに聞こえた気がしたけど、遥は、周囲をキョロキョロと見渡すことは止めておいた。

 劇が進行中なのに、裏方である自分が変に目立つような行動などしたくはなかった。それに、周囲には人がいっぱい過ぎて、誰が発言したのかはわからないような気がする。


 ただ、舞台上で躍動する夏美のボディを見ていた時にその”龍”という言葉を聞いたことで、新たなインスピレーションが湧いてしまい、幸せな気持ちになった。


 そうよ!

 ある意味、龍のような静かな力強さがあるのよ。

 ぜひ、美しい夏美の”しなやかさ”を見て!

 生き生きという言葉の体現のようで、とてもきれいでしょう?

 

 身体の内面の美しいエネルギーが外側に伝わってくる感じ。

 う~ん、”しなやか”という言葉ではうまく表現できないのだけれど、ダンスをしている時の夏美のボディのねじれ、しなり。そしてそれを戻す時のなめらかさは独特な気がする。

 例えてみれば、生きの良い魚のぴちぴちした感じ。

 ううん、それより少し静かで、それより強い感じ、、、でも、それは攻撃的な強さではなく、攻撃しない気高さみたいな。

 そう、圧倒的に強いからこそ、めったに争わない”龍”の感じだとしたら、ぴったりかも。


 そういえば自分の龍ヶ崎という名前も、龍ヶ崎神社に仕える者であるからこそだったと聞いた。だから、龍には良いイメージを持っているのよね。



 今、ダンスに集中して、生き生きと躍動する夏美を本当に美しいと思った。

 良かった、これなら大丈夫。

 夏美の良さは、失われていない。これから結婚という新しいことに飛び込んでいくことに不安を感じてると話していたけれど、夏美なら大丈夫と言ってあげられる。心から。


 社会人になる直前、およそ就活の頃からつい先日まで、なんだか夏美は窮屈そうだった。

 悪目立ちしないよう、他者と似たような動きをしようと心がけて自分の個性を出さないようにしていたみたいに。

 そう、まるで群舞の一員として自分を埋没させようとしている気がしていた。

 もちろん、なんとなくそれが自分たちの成長で、社会性なのかなと考えようとしている所は自分にもあったのだけれど。

 個性を殺して統一規格化した自分たちって、どう評価されているかもよくわからない、どうすれば正解なんだろうという閉塞感が、とても息苦しいということだけはなんとなく感じていたんだけど。


 どうすれば嫌われずに、社会に受け入れられるというの?

 正解は何?

 でも、ただ正解をなぞるだけの人生はつまらないって心が泣くみたいで…。


 他人の役に立つ・会社の役に立つ人間になりたいと私たちが望んでいるのは、たしかに嘘じゃない。

 でも、ただ右往左往するのじゃなくて、自分なりの動き、働きがしたいと望むのだけれど。

 ちょっとミスると、生意気だと受け取られるし。

 批判とマイナス評価が、とてもこわいし。やっていけなくなりそう…。


 強すぎても、弱すぎてもいけないって、思うようにもなった。でも、どうすれば…?


 柔らかさって、ともすれば弱さと同じみたいだけど、そうじゃなくて柔らかさの内側に強さを秘めたしなやかさっていうのに、私は憧れているのかもしれない。

 例えていうならば、それこそ”龍”という感じ。

 確か、龍ヶ崎神社のご神体は、女性形の龍、あるいは龍の娘のように表現されていたと聞いている。


 ああ、そういう”龍”だったら、夏美にぴったりかもしれない。


 パソドブレでは、闘牛士に対峙していく牛を女性が演じて踊る時があるけれど、夏美の動きは、牛じゃなかったもの。


 そうよね、良いかもしれない。


 夏美の衣裳は、いっそ、黒系じゃなく、メタリックなブルーやグリーンの(うろこ)状のスパンコールかなにかを散りばめた衣裳だったら、ライトに煌めいて、もっと良かったかもしれない。


 ああ、なんで脚本を書く時にこういうアイデアが思いつかなかったんだろう。

 今さらながら、欲が出てくる(笑)。


 いっそ、日本風の衣裳とか、設定にしておけば良かったかもしれない。

 海外のお客様が多いってわかっていたわけだし。



 やはり!

 ここは、龍のお姫様と勇者が出会う恋物語なんかが良かったかもしれない。


 そうね、夏美には日本風の可愛い衣装を着た、龍のお姫様を演じてもらった方が良かったかも。

 もちろん、鱗のスパンコール表現を入れて、煌めく衣裳。

 ライさんは、全く違う文化を背負ってくる勇者で、でも戦いに来たのではなく招かれてきたからすっきりとした衣裳で。だって、鎧なんて着てたら踊りにくいし♪


 東洋の良さと西洋の良さが出会って、、、。

 そして、恋に落ちて。

 時には争うけれども、文化の違いとかも埋め合わせていって、幸せになる平和な感じ。

 そんな脚本が良かったなぁ、、、。


 ちょっとしたハプニングがあるけど、最後はやはりハッピーエンドで。

 例えば。


 父たる龍が認めた婚約者が訪ねてきたというのに、恥ずかしさや反抗心で、最初はお姫様が近づいてきた勇者をいきなり滝壺に落としちゃうの。

 これ、闘牛士に突っかかっていく”牛”よりはましじゃない?

 あ、ライさん(もちろん、婚約者の勇者の若者)も、本当は強いから、華も持たさなければいけないけれど(笑)。 

 もちろん、ロマンティックシーンを長くするためにバトルシーンは短め、もしくは無しにしたいわね。

 ええと…。


 


 ”そうよ!”

と、イメージの中の龍のお姫様が、叫ぶ。


 ”いきなり、近づいてくるんですもの。

  だから!

  私が、滝壺に突き落としたのよ、”

そして、続けて一気に言い張った。

 

 ”だって、私、困ったんですもの!

  お嫁にいくってことは、この湖から出ていかなければいけないみたいじゃない、そんなの、嫌だもの!”


 ”姫様は、お父上様より人間のお母上様に似ておられますので、里に戻るのが良いとの思し召しでございますよ”

と婆やがたしなめる。

 ”姫様にふさわしい方をお選びくださって、ありがたくも…”


 龍のお姫様は、勇者の話題には触れたくないようだ。

 ”いついつまでも、この湖に置いてくださるって子供の頃は仰ってくださったのに。

 お父様は、大ウソつきだわ!”


 ”でも、素敵な方ではございますわね、”

と侍女たちが歌うように言う。


 くるくると舞うように、若い侍女たちは円を描きながら、水面下に潜ろうとしている。


 ”婆や、あの娘たち、いったい何をしようとしているの?”


 ”姫様の大切な背の君ですから、お助け参らせようとしているのでしょう?”


 ”余計なことを。

  勇者だというから、そのうち浮いてくるでしょう?

 あんな…人なんて、…放っておけばいいでしょ?”


 ”…いかがでしょうね、それは。

  人の身で全ての属性の精霊の加護を持つ者なんて、仙人くらいですよ。

 あの若さですし、青龍王の加護を願いに参ったのですから、きっと炎属性の勇者さまでしたかも。”

 婆やが首を横に振って、大げさにため息をつく。


 ”水が弱点だとしたら、お気の毒にねぇ、、、。

  あの淵はとても深くて。

  きっと大事なお役目がおありになったのでしょうけれど。儚いものですね。

  深淵の魔に身を捧げて終わろうとは、、、”


 さすがに、お姫様も青くなる。

 命をとるほど憎いわけではなかった。

 会ったばかりなのに、まっすぐな瞳に一瞬、見とれて何も言えなかった自分が恥ずかしくてならなかった、だけ。

 それどころか、初めて見たキラキラした笑顔にうろたえてしまったはずみのうっかりが大ごとになってしまうなんて…。

 なんてことを…。

 父をがっかりさせてしまうのだろうか。


 ”…そ、それは困るわね。どうしましょう…”


 ”そうでしょう?

  お父君様が珍しく許しを授けようとされた、良いお方のようでしたが、…。

  まぁ、姫様がお気に召さないのですから、放っておきましょうかね、”


 ”そ、そんな…。

  私、その、お父様のお客様に無作法をし過ぎたわ、

  だから…その(赤面)…ええと、”


 ”かしこまりました…” 


 婆やが手を叩いて合図を送ると、許しを待っていた3人の侍女たちは、人魚のような尾ひれをひらめかせて、勇者より少し下方に潜っていく。


 …3人の侍女たちもまた龍の精なので、生き生きと泳ぐ感じで。

 そして、滝壺でくるくると円を描いて渦を起こし、上昇する水流で、勇者を浮かび上がらせようとするの。


 ああ、そういう群舞だと、泳ぐ表現の踊りの感じが出て良いわね♪


 ひらひらしたひれのような布が付いたドレスで。もちろん、侍女たちにも鱗のスパンコールも付けて!

 水の色、藻の色なんかが表現されてきらめいた感じで♪


 って…、ええと、ちょっと待って(笑)。

 これ、舞台で出来るかしら?

 水の深さが必要じゃない?


 これは水族館のショーみたいに、水槽の中でやらないと良さが出てこないかもしれないわ(笑)。

 舞台に水槽を設置するわけにもいかないし。

 いやーね、良いイメージが頭の中に降りてきてくれたと思ったのに(笑)。



 遥は一人で苦笑しかけて、ふっと気がついた。

 誰かが自分を見ている、気がする。

 嫌な感じがする目線ではなかった。


 なぜだか…。

 ”龍”という言葉を呟いた人が自分を見ている気がした。


 でも、動けない。

 それを確かめることもできない。


 だって…。

 今まさに、これから劇が…クライマックスに差しかかるのよ?




 『剣』がいきなり光る。

 妖しく…

 音を立てていないというのに、なぜか

 『剣』は、まるで己の意思を持っている、と伝わってくるような妖しさが…


☆ 配役表 ☆


グリュン姫(ペルレ姫)=夏美 【イメージカラー:グリーン】

マリン姫=真凛 【イメージカラー:ブルー】

ロゼ姫=遥 【イメージカラー:ピンク】

ゴルト姫=瑞季 【イメージカラー:イエロー】


アレク王子=ラインハルト


騎士団所属術師ナハト(王子の側近)=姫野

騎士団所属騎士ファイル(王子の側近)=マルセル

カルム侯爵=花梨

国王夫妻=フィリップと妻メレイア


サンバ隊(子供心を持った有志・飛び入り大歓迎)

城の警護兵(ダンス練習会メンバー有志)


ナレーションその他(斎藤、遥)


※ 小説上では日本語での表記だけですが、

  実際のパーティでは、司会・舞台上のセリフ、説明などは同時通訳で{英語・ドイツ語・フランス語}の字幕テロップが舞台上の壁だけでなく、四方の壁上部に流れている設定です。

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