表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
124/149

122 《祈りを絶やすことなく》 (6)

〇 この編(117~)は、劇中劇の扱いです(小説の中の人物がパーティで劇をするという趣向です)


〇 後書き部分に、配役表があります。


【五幕目】


 ナレーション(斎藤の声): いよいよ夜も更けました。

 それでも、王宮の広間では舞踏会がまだまだ続くようです。振る舞い酒のせいなのか、交代したばかりの庭園警備の者達もつい大あくび…。

 細い月がしらじらと美しく妖しい。

 …こんな夜は、何かが起こりそうですね。


(幕、上がる。細い三日月がうっすらと傾いている夜空と、黒っぽい城壁のような背景)


 アレク王子、ファイル、グリュン姫の順に、登場してくる。

(3人共黒っぽいラテンダンス仕様の衣裳を着ているが、アレク王子とグリュン姫の衣裳の裏には光沢のある赤い布地が使用されており、動きに合わせてその赤がちらっと稲光のように見えるデザインが施されている。)


「さ、着いたよ、グリュン姫。

 ファイル、その罠の仕掛けられている石に引っかからないように手を引いてあげてね。

 ほら、見上げてごらんよ。

 初代の王、それから順番に記念碑が並んでいて…、これが征服王の銅像だ。その後ろに、お目当ての遺跡の石があるんだ」

 

 グリュン姫は、居並ぶ銅像群を見上げる。

「征服王って、もしかして…」

「ああ、君も知っているだろう、ルディガー征服王の話。

 あの残虐な王ジャメリのいたグラド帝国が多くの国を滅ぼしていく中、我が国の誇るルディガー王は、グラド帝国と戦い続けたんだ。

 そして、最終的に勝利した。

 平和をもたらし、流入する難民の人々にも公正な対応をしたルディガー王を慕い、ソルト王国はいよいよ栄えた」


 グリュン姫は、うなづいた。

「そうね、確かにそうだわ。

 グラド帝国に滅ぼされた国の国土と国民も合わせていったからこそ、ソルト王国はこのように強大になったのね」


 アレク王子は、感動のため息をついた。

「ああ、子孫として本当に誇らしいよ。

 神殿を管理していた善良な神聖フローレ王国さえも滅びを迎え、遺跡が蹂躙されかけたんだ。

 そこで征服王はね、遺跡にあった大切な宝物をこちらへ運んだのさ。

 それはそれは、困難をきわめたらしいよ」

「そう、そうでしょうね…」

 と、グリュン姫は不機嫌そうに言う。


(人物が歩くのに合わせて舞台セットが回転し、『剣』のささった遺跡の石が舞台中央に登場する。)


 グリュン姫は、感激のあまり、泣きそうな声で呟く。

「これなのね。生まれて初めて見ましたわ。

 おお、神様…ようやく…」

「すごいね、グリュン姫。

 君は女の子なのに

 『武器なんて、きれいじゃないわ』

 とか、がっかりするようなことを言わない。

 ね?

 素直に、感動するよね?

 君みたいな姫君に初めて会えた…嬉しいよ」


「ええ…」

 アレク王子の喜びように反して、グリュン姫はどうやら魅入られてしまったようで、ひたと『剣』を見据えている。


 ファイルは、かなり心配そうにグリュン姫を見やる。

 いざ、グリュン姫が飛び出していこうとするならば、腕を引いてでも止めなければならないというふうに近寄りかけるが、、。

(その時、舞台の裏でカタンという効果音が鳴る。)


 アレク王子が、来た道を振り返る。

「あれ?誰か、他に来たのだろうか?」

「は?、どうでしょうか。

 扉は、きちんと閉めてきたはずなんですが。

 もしも、けものでも入り込んでいたら、困りますね。

 お二人はここで待っていてください。

 私が見てきましょう」

(ファイル、立ち去る)


 グリュン姫と2人きりになってしまったので、アレク王子は、少しどぎまぎした様子になる。


「ええと…、う~~ん、そうだね。

 グリュン姫、我々も警戒しつつ、ファイルの戻るのを待とう。

 大丈夫、いざとなったら、僕が君を守るから」

 グリュン姫は、ふふと笑った。

「はい、ぜひとも」


 アレク王子は、グリュン姫の笑顔を眩しそうに見つめてうなづく。

「あのね、実は、今夜ひそかにファイルに『剣』を試してもらおうと思っていたのだよ。

 なんと言っても、ファイルは、我が国の誇る戦士だからね。

 ファイルにも試してもらい、意見を聞こうかと考えていたんだ…」

「そうですね♪

 王子様のお考えは、すごく良いと思います。

 『剣』も誰かを待っているのかもしれません。

 そういえば王子様は、以前お試しになったのですよね?

 本当に…何も起こらなかったんですか?」

「うん、その通りだよ。

 司教様や父上が言ったようなことは起こらなかった」


 グリュン姫は、ひそかにガッツポーズをする。

「資格がおありになるのに、残念でしたね♪」

「ああ、僕は『剣』に認めてもらえなかったみたいだ。

 がっかりしたのは、僕だけじゃない。

 父上も司教様も、みな困っていた。グリュン姫が言うように『剣』が誰かを待っているのならば、『剣』もがっかりしているのかもしれない」

「そうですね♪

 本当に、その通りですわ。

 『剣』もきっと正当な持ち主を待っているのでしょう」


 アレク王子は、一生懸命に説明を重ねる。

「うん、そうなのかもしれない。

 だから僕は、その後ずっと色々な文献を調べたんだよ。

 神聖フローレ王国に遺跡があった時は、王族だけでなく優秀な戦士も試すことができたらしい。

 候補者を決めるために、希望した戦士を競わせたりもしていたみたいだ。

 ソルト王国に来てからの、儀式のやり方にも問題があるのかもしれないし、何か最適な方法を見つけたら良いのでは?と進言するつもりなんだ」


 グリュン姫が目を輝かせる。

「そうなんですね♪

 王子様の、そのお考えは素晴らしいです!

 正当に競い合った人が正当な権利を持つのでしょう。

 権力を持つ人がそれを邪魔しないというお考え、ご立派です」

 アレク王子が、みるみる顔を赤くする。

「い、いや、それほどでも…。

 私はまだ若輩者だから、そう感じているだけなのだ。

 それにまだ、いろいろと考えなくてはならないことだろうし、」

「あの!

 もしよかったら、後で私も試させていただいても良いですか?」


 アレク王子は、一瞬グリュン姫をはたと見つめる。

「え?

 あ、…うん、そうだね。

 どうなんだろう?

 記録では確かに…女性戦士でご立派な方がいたようにも書かれていたけれど…それはずいぶん古い記録で…神話みたいな曖昧な、しかもかなり誇張された強さの表現だったのだけれど、、」


 グリュン姫は、さらに言う。

「私、王子様が見抜いてくださったように、ずいぶん昔から戦士の修行をしているんです♪」

「やはり、そうなんだね!

 僕も、君は立派な戦士だろうと思った!

 …思ったんだけど…」

と、グリュン姫を見て戸惑い始める。


「でも、…。

 ただ、『剣』には魔法がかかっているらしいから、危ないものだということは解って欲しい。

 『剣』が戦士を試すんだ」

「はい!

 それはもう、わかっています!」


 グリュン姫が目を据えるようにして『剣』を見つめているので、少しアレク王子は驚いた様子だ。

「ごめん、君の実力のほどが僕には、未だわからないし、、。

 君は戦士であるかもしれないけれど、大切な姫君でもあるのだから。

 そうだ、後でファイルにも相談してみよう。

 それでいい?

 とてもファイルは君を心配しているようだったから…それに僕も君のことを心配、ええと、心配させてもらえるならば、」


 アレク王子の声を聴きながらも、『剣』を見つめているグリュン姫は、心ここにあらずといった感じで、まるで歌うように口走る。

「大丈夫です!

 剣の訓練もかなりしているんですよ、私。

 もともとは、(スピア)の方が得意なんですけれども♪」


 いよいよ、心配そうな顔でアレク王子が言う。

「ええと、試されるって言ったのはね、武力や技術だけじゃないんだけど。

 心や、生き様が試されるってことだ」

「ええ、覚悟の上です」

「覚悟…?

 確かに覚悟は必要だけど、君には、覚悟なんてしないで無事で…幸せでいてほしい。

 つまり、怪我とか争いとかと無縁な場所で、その…きれいなものに囲まれて、みなに大切にされて…ずっと微笑んでいてくれれば(赤面)。

 僕は、女の子はみな男よりも柔らかく生まれてくるって教えてもらっているし、…」

「女の戦士では、いけませんか?」

 きりっとした視線で見つめられて、さらに王子はどぎまぎする。


「ああ、君を軽んじたいわけじゃない。気を悪くしないで。

 ファイルがいないこの場で、僕がグリュン姫に無理をさせるわけにはいかない。ファイルの意見も聞いてみたいんだ。

 ファイルなら、君の実力がわかるのだろうし、」

「…はい」

と返事をしたものの、グリュン姫はとても不満そうだ。

 アレク王子は、取りなすように言う。

「とにかくあれは、やはり伝説の遺物なんだ。

 『剣』が僕に警告してくれたんだよ。

 ”戦士が『剣』を試すのではない”と。

 だから、僕は『剣』が戦士を試すのだと理解して、つまり…」


 グリュン姫が、王子を見つめ返す。

「なんですって?

 『剣』が人の言葉を話したって言うんですか?」


 グリュン姫が至近距離で食い入るように見つめてくるので、アレク王子はさらに赤くなり、一歩下がる。

「ええと、そうなんだよ。嘘じゃない。

 君は僕の話を信じてくれるかい?

 妄想かと思われる内容だから、まだファイルにも言えていないんだけど。

 『剣』が話したって表現がふさわしいかどうか…。

 僕が柄を握ったら、声が聞こえたんだ。

 教えられた通りのことは何も起こらなかったというのに」

「そうだったんですね」

「ああ、それでね、つまり『剣』は抜かれたがってないっていうか、抜こうとしてはいけないみたい感じを受けたんだ」


 呆れた、というようにグリュン姫が呟く。

「抜こうとしてはいけないんですって?」

「ああ、…。なんか変かな?」

「だって、ちゃんと武器でしょう?」

「…うん、そうだよね。

 いったい僕に何を伝えたかったんだろう?

 君は、どう思う?」

「そうですね…。

 きゃ!…、あそこに何かが!

 怖い!」

「え?

 ちょっと待ってて。僕が君を守るから安心して!」

 アレク王子は、あわててグリュン姫の指差した方に踏み出していく。


 その隙に、グリュン姫が台座の石をめざして遺跡を駆け上がり、『剣』の柄を握ろうとする。

 王子がすぐに気づいて後戻りをし、グリュン姫に必死で追いすがり、腕を引っ張って止める。


「いや!触らないで!」

「え?

 あ?ごめん、失礼をした」

 礼儀正しく手を離すと、またグリュン姫が『剣』のそばに寄ろうとする。


 アレク王子は再び、追いすがる。

「危ないよ。ファイルが戻るまで待ってくれないか。

 君、もしかして…何かとてもいけないことを考えていない?」

「は?いけないことですって?

 抜くのよ!

 抜いてみたいの、試してみたいのよ!

 この『剣』は正当な者に正義の力を与えるはずなの!

 きっとご加護を得ることができるのだから!」

 

 アレク王子がきっぱりと言う。

「させないよ、そんな無謀なこと。

 それよりも『剣』の言葉を考えてあげようよ、

 何か伝えたいことがあったに違いない。

 ちょっと失礼だけど、」

 先ほどからためらってはいたのだが、意を決したのかグリュン姫の腕を再度つかむ。


「離してッ!」

「離さないッ!

 ええと、無礼は謝るから!

 『剣』は、おろそかには扱えないんだ…!

 すごい力だね、グリュン姫。

 君は、本当に戦士なんだね」

「女だからって、油断してたんでしょう?」

「君は、ええと、もしかして泥棒でもするつもりなの?

 さ、危ないから少し離れよう。

 もしも価値のある物を望んでいるのなら、なにか代わりの物を僕がさしあげるから、それで、」


 グリュン姫はその言葉に、さらにヒートアップする。

「泥棒?

 失礼な!

 私に、王子様が優しく施しをしてくださるとおっしゃるの?

 私こそが、くっ…。正当な、、。

 本当に失礼な方ねッ!

 離しなさいよッ」

「とりあえず、大人しく『ファイルを待つ』って僕に約束してくれないと、離せないよ。

 頼むよ、そんなに暴れないで。怪我をさせるわけにもいかないし。

 君の、その細い腕を折りたくないんだ。

 女性や姫君に乱暴なんて出来ないよ。

 頼むから、落ち着いて…」

「どこまで、私を馬鹿にするつもりなの?」


(『Carmina Burana』の曲が始まる。)


 2人、手をつかまりあったまま、にらみ合う。

(その片手ホールド状態から、2人がもみあううちに両手で組み合う→ラテンダンスのホールドに変化をし、バトルがパソドブレの踊りになっていく。

 曲は、その後変調してタンゴのルーティンを挟むが、またパソドブレに戻るアレンジがされている。)




 ♣︎♣︎♣︎♣︎♣︎




 踊りとバトルの融合、そして演じる2人の迫力のおかげで、客席の視線は舞台に釘付けだ。


…客席側から劇を眺めることが出来て良かった…。


 遥は、鑑賞の邪魔をしないようにと気をつけながら、客席フロアをゆっくりと巡っていた。

 バンドの出番が早まってくれたおかげで、肩の荷が8割ほど降りたことにも感謝かもしれない。

 注意して見渡してみたものの、斎藤と似た客は、やはり見当たらないようだ。


 ちょっとした見間違い、だったのかしらね。

 ふだんだったら、他のバンケットのお客様と人違いということもあるけど、…。

 今日は貸し切りだから、見知らぬ人がいるはずもない。


 それでちょっと気になってしまうのよ。 

 ご本人は、あまり気にしていないようだったから、まぁいいんだけれど(笑)。

 確かに。

 見間違い、人違いということは良くあること。

 

 日焼けした好青年の典型で、他にあまり特徴のないと自他共に認める斎藤は、良く人違いされるらしい。


 学校の付近を歩けば、いきなり知らない人から声をかけられる確率がかなり高いらしい(笑)。

 生徒に人気のある体育の先生としか見えないようだし。


 『オリンピック選手のなんとかさんでしょ?』と言われることすら、ある、とも聞いたことがある。

 逆に言えば、オリンピック選手のユニフォームなんて着せれば、選手村にフリーパスで入れそうとも言えるわね(笑)。



 斎藤は祖父 龍ヶ崎善蔵の秘書だから、VIP席の近くにも行くことにした。パーティ開始直前に挨拶は済ませているから、他の用事でそばを通っている風情で、そっと見るだけにすればいいわね。


 もしも、そこに普通に斎藤(っぽい人物)が控えていたら、自分はかなり驚いてしまうでしょうね(笑)。

 今はナレーションを一手に引き受けてくれたので、確実に放送ブースにいるはずなんだから。

 放送ブースにいてくれている斎藤の方がニセモノだったら、それはそれで困るけれど(笑)。



 舞台から離れているために少し小高くしつらえてあるVIP席には、主賓のテーブルがある。

 ラインハルトの祖父ヴィルヘルムは、老人扱いをするのは失礼な位の、しゃきっとした紳士で、座っていても背筋がピンと伸びてみえる。

 その隣に、古くから取引を通じて長年の付き合いだという祖父善蔵も座っている。互いに語学が堪能なので、通訳など交えずにリラックスして会話を楽しんでいるようだ。


 さすがに斎藤に似た人物は…その近くにも見当たらず、遥はほっとした。

 考え過ぎちゃった、わね。

 ふだんの癖で、会釈をしつつ料理や酒がきちんと行き渡っているかも素早く確認してしまう。

 大丈夫、スタッフのおもてなしは完璧なようだ。


 良かった…。

 安堵しながら通り過ぎた瞬間、なにか”龍”という単語を聞いたように思った。


 ?

 龍?

 今、”龍の、”って言った?


 今回の劇には”龍”は、出てこない予定なんだけれど、何かしら?


☆ 配役表 ☆


グリュン姫(ペルレ姫)=夏美 【イメージカラー:グリーン】

マリン姫=真凛 【イメージカラー:ブルー】

ロゼ姫=遥 【イメージカラー:ピンク】

ゴルト姫=瑞季 【イメージカラー:イエロー】


アレク王子=ラインハルト


騎士団所属術師ナハト(王子の側近)=姫野

騎士団所属騎士ファイル(王子の側近)=マルセル

カルム侯爵=花梨

国王夫妻=フィリップと妻メレイア


サンバ隊(子供心を持った有志・飛び入り大歓迎)

城の警護兵(ダンス練習会メンバー有志)


ナレーションその他(斎藤、遥)


※ 小説上では日本語での表記だけですが、

  実際のパーティでは、司会・舞台上のセリフ、説明などは同時通訳で{英語・ドイツ語・フランス語}の字幕テロップが舞台上の壁だけでなく、四方の壁上部に流れている設定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ