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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
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11 Interlude 〜 Ⅱ 〜

 もがいた、ひたすらに水面に浮かび上がろうと残った力を振り絞って水を掻いた。濁って視界もきかなくなった水中で何度も敵の襲撃に遭い、それを撃退しているうちにどちらへ向かえば良いのか一瞬わからなくなった。重石になっている気がしたので、愛用の剣だけ残して装備を外して棄てた。それらが沈んでいく逆方向が上なんだろう、だからそこに水面があると信じて泳いだ。


『ロベルトは、どうしただろう?…ロベルトは無事だろうか?

 …もしかして、僕はロベルトを見捨てて、1人だけで浮かび上がろうとしていやしないか?」

 だけど、探しようがなかった。自分のそばに誰の気配もしない。敵も味方もいない。

 自分はたった一人だ。庇ってくれる人もいなければ、庇わねばならない人もいない。もはや、ほとんど目も見えない絶望の中でなお、ハインリヒはもがき続けていた。

 指先が水ではなく、空を掻いた。必死で何度もロベルトの名前を呼んで、だが、返事はなかった。ロベルト…。息継ぎをしっかりしてから、助けに行かなくては!

 しかし、ハインリヒの意識は、そのまま遠のいていった。



 ん?…寝かされている?だが、自分の部屋のベッドではない。ここはもしかして、診療所か病院のベッド?

 目の前に、可愛い笑顔が大きく見えた。無骨なロベルトの顔ではない。

 金髪美少女、エリザベスの笑顔である。

 ハインリヒには、まさに天使にしか見えなかった。


「ふうぅ〜、蘇生、無事完了です」

 どこか少し離れたところから拍手が聞こえてくる。

 続けてエリザベスが言った。

「おめでとう、ハインリヒ!

 地下迷宮でのクリア最速記録更新よ!」

 さらに拍手が続いた。どうやらハインリヒに仕えている者達が数名いるようだが、皆エリザベスの邪魔をしないように病室?の外にいるらしい。


 ハインリヒは、冷え切っていた身体と心が温まるのを感じた。

「ベス…?も、もしかして君が僕の蘇生をしてくれた…の…?」

「もちろんよ、私、蘇生担当の人だもの。ものすごい勢いで貴方達2人が攻略していると聞いて、昨日からスタンバってたわ♪」

「うわわわ、そ、そんな…。

 感激だよ、ありがとう、ベス。

 って、ロベルトはどこ?

 ロベルトは⁈」

 大きな声を急に出しすぎて、ハインリヒは咳き込んだ。

「もう、大丈夫?…無理しなくて良いわよ。

 ロベルトも私が蘇生しておいたわ♪

 今はご家族に囲まれているわよ。

 本当に2人共おめでとう!」

「ロ、ロベルトにも蘇生…?

 え?き、君って良い人だね、僕達2人共…君に人工呼吸…されてたの?」

 エリザベスはにこにこして

「ええっ?まさかー。

 人工呼吸は、高性能のブリュレ君(ロボット、製造年2016年)が担当してくれたのよ、よろしくね。フランスの研究所で、イタリア人のマルコが作ったの、私の優秀な片腕としてね」

 と、隣のロボットを紹介してくれた。

「オソレイリマス。エリザベスサマノブカデス、ヨロシクオネガイシマス」

 ロボットは、控えめに前面にあるライトをチカチカさせた。ウィンクでもしてくれているらしい。

 ハインリヒは、溜め息をついた。

「ブリュレ君、か…。せめてブリュレちゃんが良かったな」

「あら、何か言った?」

「…んでもないよ、本当にありがとう、ブリュレ君、ベス。

 …このまま、死ぬのかと思った」

 エリザベスは、にっこり微笑んだ。

「はい、どう致しまして。水面に出てクリア判定した直後はほぼ死んでたから、荒療治もやり易かったわ(笑)。

 …ねえ、何か臨死体験しなかった?

 それと気分はどう?気持ち悪くはない?」

「え?気分は、大丈夫、気持ち悪くないよ。

 君の顔を見たら、嫌なことが全部吹っ飛んじゃったよ。

 臨死体験かー?うーん…。

 何もないな、諦めずにもがこうと、ただそれだけしか覚えていないや。

 それより、記録更新って?」

「地下迷宮の擬似精霊を討伐して出るまでの記録。今までアルベルトが7日という最速記録を残していたの。ロベルトと2人協力とはいえ、3日で抜けてくるなんて凄いわよ!

 最速記録更新よ!」

「最速記録って、そうなんだ、誰よりも速いってことだよね?

 やったー!きっと名誉なこと、だよね?

 で、ベス、君は?

 凄く成績が良かったから、抜擢されてサポート側にいるくらいだもんね?」

「私は5日よ。でも、それは英国の方の規模の小さな迷宮だから、ここなら、うーん、10日以上かかると思うわ」

「そうかー、で、僕の兄上は…?

 僕、兄上に勝てるなんて初めてかもしれない、嬉しいや」

「ラインハルト?聞くと驚くわよ!

 49日よ、最長記録なの、ダントツの史上最悪のワーストワンね」

「ええ?まさか、そんな…?」

「まぁ、でも、ラインハルトの記録はあまり参考にならないと思うわ。

 今回、私もエドワードとブリュレ君と一緒にこちらの地下迷宮担当チームに入れてもらって聞いた話なんだけど、面白い話過ぎて、作り話としか思えないくらい。

 ラインハルトがトライした時は、『50日以上かかると、強制リタイア』のルールが無かったのよ。というか、そんなルールを作る羽目になったのは、ラインハルトのせいなんだけどね」

「どういう事?」

「ラインハルトの挑戦時は10か11歳くらいで遊び盛りだったので、ええ、彼にとっては、皆が作ってくれた遊び場としか思えなかったみたいで。たぶん本気なんて出さずに地下迷宮の中でずっと遊びまくっていたらしいわよ。しかも、今じゃ中に宿泊もできないようなルールにしてるでしょ。

 でも、ラインハルトはね、本当に出てこないで、ずっとそこにいたの。

 毎日6人くらいの精鋭部隊が彼に婆やのご飯を届けに行く羽目になり、皆さん大変だったそうなの」

「さすが、兄上…。」

「変人の極みよね…。

 みんなラインハルトの心配をしていたのよ。頭は良いけど、身体がそんなに強い方じゃなかったから、初日で大泣きしてリタイアしてくるだろうラインハルトを暖かく迎えようと準備していたのに、その予測ははずれて、帰ってこなかったらしいの。

『生体反応はありますから、大丈夫です』と言っても、婆やが食い下がってね。

『育ち盛りのラインハルト様に自分のご飯を食べさせたい。どこか監視していない場所で死んでしまうかもしれない』と怒ったので、慌てて持参していった非常食料が尽きる3日目に見に行くことと毎日ご飯も届けることが決まって捜索隊を出したんだって。

 すぐに7階層で遊んでいる本人が見つかったのよ。だけど…」

「…けど?」

「それだけなら普通だったんだけど、同じ3日目に

『念の為に、逆から遡ってみます』と言って、貴方達が溺れた最終層100階層からアルベルトが少数の精鋭だけお供に連れて潜っていったらね。

 まずは98階層にいるボス精霊の纏っていたはずのご自慢のふかふかマントが無いなぁ、可哀想にどこにやってしまったのだろうって思ってたそうなんだけど。それからもっと進んで行ったら95階層に癒やしの空間があるでしょう?一息つけるように作られた場所。

 一番居心地の良いその場所に、ボス精霊から奪ったマントでハンモックが作って設置してあったんだって」

「…凄すぎ」

 ハインリヒは、大人を右往左往させて楽しんでる兄の顔を思い浮かべてゲラゲラ笑った。

「その後は、冗談抜きで捜索隊の方が攻城戦の訓練を強制的にさせられる羽目になったらしいの。

 ラインハルトがいたずらして、仕掛けられてたからくりも勝手にいじってしまい、お食事を感謝して受け取るどころか、大人をからかってボコボコにして猿のように掠奪していった日もあったと言ってたわ。中で遊んでいるうちに筋肉も鍛えられたみたいね。とうとう中の擬似精霊まで利用したりしてもういい加減手を焼いたのと、婆やが本気で怒り始めたので皆、限界だと思ったらしいわ。サポートチームの陳情で会議が開かれて『50日以上かかると失格』と決まったと伝えておいたら、ようやく49日目に最終層をクリアして出てきたそうよ」

「本当に兄上にはみんな手を焼いてるんだね(笑)。

 僕にはいつでも優しくて、とても良い兄なんだけど。

 兄上と一緒にもう一度地下迷宮を攻略して記録を更新してみたいな。

 ねえ、それより、これで終わりなんだよね?

 僕とロベルトは晴れて一人前と認められて、結界の外に出ることができるんだよね?」

 エリザベスがにっこり笑った。

「残念!あと一個だけよ。

 安心して。一族の掟の書かれてある法律の基本書を読み、テストを受けるだけ」

「えーーっ⁈、そんな課題、あったっけ?」

「ちゃんと新しい要項にも載せてあったはずよ?

 ロベルト任せで、ちゃんと読んでいないんでしょう〜。

 貴方とラインハルトが結界の外に出てから、付け足されたものよ。

 一族の掟とか社会生活のルールもきちんとわきまえていないとならないと言われてね」

「何だよ、それ。

 ああ、結界を破ろうとしたわけじゃないよ。お祭りに行って怒られたのが原因か。怖かったなー。ずいぶん前になるけどあの時のこと、絶対一生忘れられないよ。

 誘拐されそうになったと勘違いして抵抗したからって、アルベルトが相当いきり立ってて、兄上を殺しそうになってた。そうか!、迷宮の中で翻弄されたから意趣返ししたかったのかもな。

 手も足もぐるぐるに縛り上げて目隠しと猿轡までした上で、まともに鞭で打ったんだぜ。一発食らっただけで、兄上は沈んでそのまま動かなかったもん。僕は、それを見て兄上が死んだと思ってめちゃくちゃ泣いた。あまり泣き過ぎたので鎮静剤か何か打たれて麻酔?をかけられたし、そのまま熱を出したという理由で強制的に病院に送られて寝かされたまま、結局僕の方だけは鞭打ちを免れて助かってしまった。そんな状況でも、兄上は僕のことを庇って全部自分が責任を負ってなお、僕の心配ばかりしていたらしい。確かまだ今の僕よりも小さかったはずなのに、いつでもしっかりしてたな。

 どんな掟だか知らないけど。たかが子供がお祭りに行ってみたかっただけなのに、本当に酷いよ」

「そうよ。ハインリヒ、今貴方が言った言葉の中に、ちゃんと掟に対する貴方の疑問が表現出来てるでしょう?」

「??」

「貴方には、ちゃんと資質があるのよ。今、掟を学ぶことの意義を言い当てたんだから!」

「え?そうかなぁ?どこが?」

「やっぱりラインハルトと兄弟ね。疑問を持って学ぶ姿勢があるのよ。でも、今の貴方の方がラインハルトより冷静かもしれない。

 私が凄いなと思ったところを言っていい?」

「うん。ベスが褒めてくれると、本当に元気が出るよ」

「つまり、貴方は…。

 一族の掟があるのは知ってる。でも、内容のことまできちんとは理解していない。今はそういう状態でしょう?

 でも、その掟の一つを破ってしまった13歳と8歳くらいの子供に、異常とも思えるくらいの厳しい罰を与えられてしまったことに対して〔正当性があるのかないのか〕ということを貴方は疑問に思ってる、そうでしょう?」

「まぁ、そうだ。でも、疑問だけでなく、文句も言いたいと思うけど」

「そこなのよ。

 凡人はそういう目に遭わされたとしても嘆くだけで受け身のままよ、永遠にね。

 掟が悪い、運命が悪い、自分じゃない誰かさんが悪いと罵るだけよ。

 でも、それだけで済ませないという意思があれば。

 もしかしたら本当に自分が悪いわけではないかもしれない、悪いとしてもそこまで悪いわけではないかもしれないと、積極的に調べ始めるなら、主体的に行動することになるでしょう?

 統治されるだけで満足している人ならば、本人さえ良ければ受動的でもいいわ、なるべくそういうことを考えないで幸せだけ貰えれば良いと願う人達なら無理に考えたくないのでしょうから。

 でも、貴方はそうじゃない。

 貴方は、今は一族の掟を良く知らないかもしれない。でも、掟に正当性がないなら、その掟に文句を言いたいと思っているのよ、だから主体的に行動する側の人だわ」

「ああ、それはそうさ、だけど、あの時も今も兄上をお救いするための、掟の正当性を否定するだけの武器も材料も僕には無い。それに、絶対、長老達は言うよね、

『大事な掟を破ってしまったのだから逆らうんじゃない!、自業自得なのだ』

 とね。いろいろ頭ごなしにごちゃごちゃ言われるんだろうな」

「そうなのよ、そういうことも貴方はきちんとわかっているのよ。

 自分の視点からの意見の他にも、いろんな感想や意見がありえることも。

 今は貴方は、まだ掟や法律を学んでいないだけ。だから、今この時点で勝てない予測が容易に想像出来てるわけ。でも、萎えない気持ちはあるでしょう?どう?

 たぶんそれくらいの負けそうな予感は覆すことが出来そう、じゃない?

 貴方には剣術や格闘の才能が誰よりもあるでしょう? 身体の使い方からして私とは違うもの。それは今まで、辛いことに萎えないで、覆して乗り越えてきたからだと思うわ。

 裁判とか審判は、結局は武器を持たない決闘のようなものだし、ラインハルトも

『ハインリヒは、真実を見通す力があるから、彼がいずれそういう所でも腕をふるってくれるに違いない』

 って、以前言ってたわ」

 兄が褒めていたと聞くと喜ぶはずなのに、ハインリヒの顔が少し曇った。

「…わかった。そうだ、僕も以前兄上に…頼まれたんだった。

 兄上も…。兄上も学んでいったのかな?」

「そう。ラインハルトはね。

 まさしく最初、自分は受動的だったと私に言ってたわ。

 ずっとちやほやされていて挫折感を味わったことがなくて、地下迷宮でやんちゃをしてもそれは特に悪いことをしたわけではなかったから、皆困りながらも笑顔で対応してくれてたでしょう?

 彼の頭の中では、結界の外に出ることは同じ程度のいたずらのつもりだったのに、罪人扱いされてびっくりしたのね。表面上は大人しく罰を受けていたけど、どうしても罰が納得いかなくて、恨みつらみでいっぱいになって意趣返しに閉じ込められた塔から飛び降りて死んでやろうかと発作的に思ったらしいけど」

 ハインリヒは青ざめた。

「え?…そんなだったの?…ちょっと、想像がつかないよ」

「危ないでしょう?ラインハルトは華奢な身体で大人しく見えるけど油断出来ないわ。刹那的な時もあるし、正直いい加減にしてよと思うこともあるの。ヴィルヘルム様は密かに『ジギルとハイド』というあだ名をつけて見守っているらしいから。悪い方に振れた時にもラインハルトが本気なら止めようがないかもしれないと絶望する時もあるみたい。

 まぁ、自殺のことは、本人が考え直してくれて本当に良かったわ。

 たぶん、皆も陰ながらラインハルトのケアをしていたとは思うけど、死にたいと思っている人を引き留めるのは本当に大変なんだから。結局ラインハルトは自分で思い留まってくれたし、今振り返れば、そんな経験をしたからこそ無謀な衝動が少しおさまって、落ち着いてより良い選択をしたり、自制心も身につけたようね」

「そうなんだ…具体的にどんなことが役に立ったの?」

「死ぬほど悔しくて、でもそんな気持ちの整理をするために、掟や裁定のことが書かれている本を学びたいと自分から言ったらしい。

 それで、違法性(悪いとされていることの性質)があるかないかということがどう判断されているか、とか。違法性があるとしても、それがどの程度なのかということを解説してもらったのが、落ち着くきっかけになったんだって。

『自分のもやもやした気持ちを整理してくれて僕を救ってくれたのは、法律とか掟の話だったな』

 と話してた。解説してくださった学者の先生達が良かったみたいね。全く知識がなかったラインハルトが質問したことは、例えば規定されている条文とか現実にあるものを中心としたものばかりだったんだけど。

『その条文は、どういう願いで、どういうメリットがあると思って作られてきたのかわかりますか?』って先生が聞き返してくれていたお陰で、自分が顕在化されたものだけをささっと見渡してただ要領良く記憶しただけの知識の量だけで自分を誇らしく思っていた馬鹿さ加減に気づいたんだって。それを聞いて、私も改めて勉強が表層的なもので終わってないか確認するようになったわ。

 この現象の、表面に現れていない潜在的なものはなんだろう?とか、この奥にはまだ何か時間をかけて積み上げられてきたものがあるのかもしれないとか、そして先生からも言われなかった、条文があることによって逆にデメリットはないのだろうかと、考えてみたいことがいっぱい出て来た時に、

『死にたいなんてとんでもない、もっといろいろ見て学んで悩みたい、そして解りたい』って心から思ったそうなの」

「兄上も悩んでたんだね。僕から見る兄上は立派な見本みたいにしか思えないんだけど。でもなんか、羨ましいな…。ベスとは、そんな話までしているんだね」

 エリザベスは嬉しそうに胸を張った。

「そうね、私は一応、一族の中でも優等生で重要な役割をやらせていただいてますからね。儀式の時は、かなめの位置に座するラインハルトの隣ですもん♪

 こう言っては申し訳ないけど、私、ラインハルトに負けてると思ってないから♪」

「へぇ…。確かにね、最先端技術の研究所から離されている兄上と違って、ベスの活躍は目覚ましいものな。

 そうか…。

 以前の僕なら、ベスにお願いしたいところだったけど。

 今は、僕ももっと頑張ろうと思う、やりたいことが一つ出来たよ、聞いてくれる?

 今ちょうど2人きりになったから」

 2人の話が盛り上がっているので、小間使い達は遠慮して下がっていったようだ。

「なぁに?」

「僕、今から、その掟とか正当性とかめちゃくちゃ勉強したら、ラインハルトを論破出来るくらいになると思う?」

「ええ、可能性はあると思うわよ。…そんなの、先に学んでいた方が有利とかいうものではないから。

 ラインハルトに勝ちたいのね?」

「勝負とかにこだわっているわけじゃないよ。

 僕は、弟としてすごくラインハルトに大切にされてきたのわかるんだけど、感謝もしてるんだけど庇われ過ぎてて悔しかった面もあるわけ。

 だって、僕の意見なんて聞きやしないまま、先に兄上が僕を庇うと決めて動いちゃってるんだよ、完璧に。以前、兄上がすごく落ち込んでいて、でも事情なんて話してくれず、やっぱり一人よがりで何か決まった事のように

『お前はとても強いから、僕がとても悪い者になったら、迷わず一気に処断してくれ』なんて言ったんだ。悲しかったよ。慰めてあげたいけど、相談もしてくれないから事情も全くわからないんだ。

 その時は悲しいだけだったけど、もしも今度、兄上が意味なく同じようなことを頼んできたら、論破してぶっ飛ばして兄上の命を繋ぎ止めたいんだっ…わっ!」

 いきなりエリザベスに抱きつかれてほっぺにキスされて、ハインリヒは真っ赤になった。

「ハインリヒ!

 ありがとう、私、貴方のその言葉を待ってたんだと思う!

 ラインハルトは天才肌で本当に馬鹿で水臭いとこもあるから、手に負えないところもあるのよ。頑張りましょうね。アルベルトがいない今、頼りに出来る人が出来たわ」

「…あ、ああ。とにかく、兄上を庇えるくらいに強くなろうと思っているよ。

 あ、そ、そう言えば。儀式と言えば、今年大きな儀式があるんだよね?、昨年からずっと言われてたやつ」

「ええ、クリスマス前にね。貴方が参加してくれるから本当に良かった。

 今年2018年は、東洋の暦では犬が主役?の年(戌年)で、ドラゴンの年(辰年)のまさに正反対の年なの。ちょうど30年前にラインハルトが無理をしてドラゴンを探して回ってたのは、1988年でドラゴンの年だったわね」

「まさか、大きなことって、ドラゴン討伐…?」

「しっ(小声で)ドラゴンは滅びたことになってるし、どうなるかわからないけどね。でもね、占い師が言うには、災厄の代名詞のドラゴンの力が最も弱まる年だから、ドラゴンに勝てそうな時の運はありそうじゃない?

 儀式の後で実戦さながらの討伐演習したらどうか?という意見もあるし。私達、平和ボケしてるから意外と面白いかもしれない」

「最高だね!

 僕は、パーティなんかよりそっちの方がいいや」

「私も。ブリュレ君を増員しておくわ!きっと蘇生が大事になる局面もあるわね!」

「それさ、思ったんだけど一体くらいブリュレちゃんにならないかい?」

「なるほどー♪、良いアイデアだわ、それ。マルコに頼んでおく!」

 出来れば、エリザベスそっくりの可愛い作りにして欲しかったが、それは言えなかったハインリヒであった。

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