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理解不能の、弱い蒼  作者: 倉木 碧
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117 《祈りを絶やすことなく》 (1)

〇 この編は、劇中劇の扱いです(小説の中の人物がパーティで劇をするという趣向です)


〇 後書き部分に、配役表があります。


 幕が下がっているままの舞台裏にまで、客席の楽しそうなざわめきが伝わってくる。

 いよいよ、パーティが始まる。

 第一部の劇の出演者が円陣を組んだ。

 皆、笑顔だ。

 緊張というよりも、どうにでもなれ♪、なハイテンションみたいだ。


 円の中央で全員の手を重ね、ラインハルトの合図で

「ファイト!」

と小声で息を合わせた。

 

 司会を仰せつかった斎藤のあいさつが始まった。

 ラインハルトが遥を見やり、笑顔を見せた。

「彼は…仕事の打ち合わせ時の説明がいつも上手で感心しているんだが、これでは本当にまるで、プロ司会者だよねぇ?」

 遥も、大満足といった様子だ。

「ええ、おじい様も『彼に秘書の仕事ばかりさせておくのは、少しもったいないな』と言うんです」

「公務員でも、たまに住民説明会とかでマイクを持つ機会があるんだけど、あそこまで上手くやれないわ、見習わなくちゃ」

と瑞季が言った。

「君だって、けっこう弁が立つ側じゃないか♪」

とラインハルトが瑞季をほめる。

「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど、一度そういう評判が立って以来、何も考えずに、みんな私に振ってくるの。

 本当は私だって、緊張して頭が真っ白になってしまうっていうのにね」


 よどみなく、斎藤の説明は続いていく。

 たまに笑い声や拍手もまじり、すでにパーティらしい楽し気なムードが伝わってくる。

 いつもは控えめに見える遥が生き生きと指示を出している様に、

「今日は、遥の指示に従えばいいんだもん、気が楽よ♪」

と瑞季がきっぱり言った。

「そうだね、楽をさせてもらおう♪」

 乾杯の合図の後に劇の幕は上がるので、各自待機位置に散らばり始めた。 


 ラインハルトは、先ほどまで緊張して見えていた夏美の笑顔を眩しそうに見やる。

「夏美は、意外と落ち着いているんだね?」

「夏美は、昔からそう見えるの。私と同じで、弱音も吐くこともあるのにね。

 でも、急に役割を振られてもなんとかしてくれて、場を明るくしてくれる。アドリブで行動してもセンスがあるのよ。

 本当にピンチヒッター向きね♪」

と瑞季が横から夏美にハイタッチをする。

「うん、ありがとう、そうだといいんだけどね。

 たぶんみんながいてサポートしてくれるってわかっているから、大丈夫な気持ちになるんだわ。

 それよりも…さっきからね、心配事が一つ出来て、」

「え?何だって?

 このタイミングで?」

と応じたラインハルトの声が聞こえたのか、散開しかけていたマルセルと姫野が何事かと集まってきた。


 夏美は、ちょっと赤くなる。

「あ!ごめんなさい、大したことじゃないの。

 みんな、心配しないで。

 ええと、半分は冗談みたいな話で。

 あのね、…あのおいしそうなヤツが配られているでしょう?」


 夏美の細い指が幕から見える客席を指す。

 幕の隙間からかいま見えているのは、各客席に配膳された、透明な玉手箱仕様の前菜盛り合わせである。

 和洋折衷の料理が豆皿やミニカップに入れられて二段のガラス製のお重の中にとりどりに盛り付けてあるようだ。目の前にセットされたお客たちは、みな嬉しそうに給仕の説明にうなづいているのが、見えているのだ。


「私たち出演者って、しばらく客席に行かないでしょう?

 ええと、つまり…あれは私、いつ食べられるのかなぁって心配、、、」

「んもう、やーね、大丈夫よ。

 遥が夏美の分を用意していないはずがないでしょ?」

と瑞季が笑顔で話をさえぎった。

「あ、でも、今あわてて遥に聞きに行ったりしないでよ?」

 遥と真凛はと見れば、逆方向(舞台の下手(しもて))から登場する予定で、かなり離れている。

 どうやら夏美の声が届いていなかったようで、小声で談笑しているようだ。

 姫野とマルセルは、笑顔で立ち去る。

 瑞季は夏美をともなって上手(かみて)側に移動していきながら、さらに続けた。

 

「楽屋裏の控室に全員分、用意されているらしいわよ?

 なんなら、劇終了後にも会場のテーブルに運んでくださるらしいし。

 着付けの時に、細かい説明があったでしょ?」

 舞台奥へスタンバイしに行きながら、ラインハルトが振り返って言葉を添えた。

「ああ、最終打ち合わせで席を外してて聞いていなかったのかもね。

 さっき、楽屋でさ、内緒で味見させたげたヤツは、その一部だよ、夏美!」

「あのキッシュ・ロレーヌも?」

「うん、それから控室で僕が渡してたサーモンマリネも中に入っているはずだよ、じゃ、後で♪」

と、手を振りながら去っていく。


「呆れたわ、もう♪

 結局、打ち合わせ中に2人でつまみ食いしてたのね(笑)。

 あなたたち、すごい余裕ね♪」

「少し食べておいた方が、緊張しないもの♪」

「そうね、夏美はお腹がすくと悲しそうになるものね♪

 私は、今は胸がいっぱいでとても食べられない。人を手に書いて飲み込むおまじないだけでお腹がいっぱいよ。

 終わってから、食べるのを楽しみにしているわ」



 劇の開始を告げるベルが鳴った。

 幕がするするっと上がるが、舞台上は無人でセットも立っていない。

 舞台の白い壁(スクリーン)にアニメ映像のお城が映っているだけである。ほのぼのとした絵本のようなイラストのお城である。が、塔に掲げられた国旗がたなびいているので、動画なのだろう。

 どうやら、最初はナレーション付きアニメーションを視る趣向のようだ。


【一幕目】


ナレーション(遥の声): 

 昔、昔、あるところに小さな王国がありました。

 その国には、素敵な王子様がおられます。正式なお名前はとても難しいので、ここではアレク王子とお呼びしましょう。

 もうすぐ王子様のお誕生日です。

 今年のお誕生日には、大切な儀式が2つ予定されています。


 まずは、本日開催される舞踏会です。

 王子様の花嫁さまを探すことが目的のパーティです。

 国内外のお姫様、お嬢様方をお招きして行われるのです。


 もう一つの大切なことは、伝説の『剣』の儀式です。

 でも、一般の方には非公開ですので、お話だけしておきましょう。

 王族しか入れない空中庭園には、かなり前に古い遺跡から大きな石が運ばれて飾られているとのことです。

 『剣』はというと、その石にほぼ半分くらい埋もれている古いものなのです。

 さて、この国の王族の方は、年頃になればその『剣』を”抜く”儀式を受ける習わしがあるとのことです。

 もちろん、未だに『剣』が抜けていないから、ずっと石の中にあるわけで、抜けるかどうかを試してみる儀式なのですが(笑)。

 それでも、ふさわしい方がその『剣』の(つか)を握ると、『剣』が光ったり、ぐらついて今にも抜けそうになる反応を示すらしいという噂です。

 (少し声を落として)

 実は、ここだけの話ですが、

 先日行われた『剣』の儀式のリハーサルでは、期待されたことが何も起こらなかったようなのです。

 王子様はそれ以来、なんだか少し元気がありません。

 本番では、うまくいくといいですね。

 

 占い師によれば、舞踏会を催し、花嫁探しで大成功すると運気が上がるということでした。

 他の占い師も、舞踏会を催せば景気が上がるという話でした。


 はい、というわけでございまして。

 王国の片隅で、景気が上がったお礼を申し上げさせてください。

(コホン)

 本日は当ホテルをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。

 わたくしども龍ヶ崎グループのスタッフ一同、お客様皆様に精一杯のおもてなしをさせていただきます。

(会場内のスタッフが会釈をする)

(拍手、笑い声)


 そうですね、『笑う門には福来る』と申します。

 今宵は、王子様にも元気を出していただいて、舞踏会に招かれた私たちもハッピー気分で、幸運を呼び込みましょう!!

 お待たせいたしました。

 ただいまから舞踏会が始まります♪


(拍手)

(ファンファーレ)

(オープニングのメロディが流れてくる)

(同じタイミングで2人×2組が舞台に登場する)


 舞台の下手から、水色に蒼のグラデーションを施したドレスの真凛と、桃色に紅のグラデーションを施したドレスの遥が登場する。 


 舞台の上手から、薄いレモン色に黄色のグラデーションを施したドレスの瑞季と、薄い黄緑色に緑のグラデーションを施したドレスの夏美が登場する。


 4名はお揃いで色違いの衣裳をまとっているのだ。

 群舞なので、気を揃えて同じステップを踏み、踊る。


 下手袖に姫野が、上手袖にマルセルがシックなタキシード姿で登場する。

 4名の姫君を舞踏会(会場)のお客様がたにお披露目する場面である。


 まずは、遥の手を取って姫野が中央付近にいざない、華やかなターンをして優雅に膝を深く曲げたお辞儀をする。



ナレーション(斎藤の声):ロゼ姫様(遥)、ご到着。(拍手)


 次に、マルセルが瑞季の手を取って、同様のお辞儀を行なう。交互に行い、4名全てを紹介する。


 ゴルト姫様(瑞季)、マリン姫様(真凛)、グリュン姫様(夏美)と全員が紹介され、拍手を受ける。

 だが。

 少し間があいていまったようで、結局、女性4名が中央に集まって、にこやかにお辞儀をしあい、会話を始めることになる。



ナレーション(斎藤の声):(少し小声で)あれれ、手順がちょっと違っているようですね。

 あ、そうですね!

 お姫様方それぞれにご紹介をしようにも、かんじんのアレク王子さま(ラインハルト)がいないから、このまま女子会になっちゃいそうじゃないですか!

 アレク様はいったい、どこなんですか?

 ま、まさかまだご自分のお部屋じゃないでしょうね?


 スポットライトが、あちこちの会場中を照らす(サーチライトのようだ)。


 スクリーンにそれが大写しになり、映されたお客が手を振ったり、投げキッスをしたりする。

 

ナレーション(斎藤の声):ナハト(姫野)さん、ファイル(マルセル)さん、この事態をどうされます?

 側近のあなた方の責任じゃありませんか?


 舞台上で、2人がいいえいいえとでも言うように、手を振って否定する。



ファイル「確かに、さっきお支度をしてましたし、いらしていただいていたはずなのですが!」

ナハト「ええ、いつもよりも今日は、まともな一日を過ごしていただいておりましたし♪」

ファイル「(その発言を聞いて慌てる)あ、いいえ、安心してください!

 毎日、それはもう、最大限まともに過ごしておられます!」


ナレーション(斎藤の声):そうなんですね♪、王子様の一日ってどんな感じなんでしょうかね?



 舞台上の人物たちは、すでに舞台の端に寄っている。

 また、白い壁にフィルムが映る。


 タイトル『王子様の一日ルーティン♪』

 (但し書きがついている。”これは、あくまでもフィクションです”)


 アニメではなく、実写版のようである。

 動画というより、写真がどんどん紙芝居のように流れる。王子様の日常?の写真が、かなりコミカル仕立てになっている。


 『ねぼうする』、『食べる』、『さんぽする』、『犬とあそぶ』、『わすれてた宿題をやっつける』、『また、ねる』、『猫を追いかける』、『池にはまったと思ったけど、よだれだったかもしれない』と簡易な説明のついた写真に、会場の子供達までもが笑う。


 王子様の衣裳をつけたラインハルトの写真のコミカル具合がどんどんエスカレートしていく。


 小さな羊のぬいぐるみを抱っこしてよだれの池?の中に寝ていたりする。

 たまに、ベッド下に墜落していたり、お菓子を手に持ったまま、机の上のノートに突っ伏していたりする。

 そんな場面ばかりで、会場中、クスクス笑っているようだ。


 舞台上のナハトとファイルが、慌て始める。

 どちらともなく、口々に叫びつつ、右往左往する。


「そろそろ、この映像は止めてくださいよ~!」

「機密漏洩で、逮捕されますぞ~!」

「あ、いえ、フェイクニュースはいけませんって言うべきか…?」

「と、とにかく王子様~!、早く出てきてください~!」


ナレーション(斎藤の声):いよいよ、お供の方たちも困っているようですね。

 では、会場の皆様も力をお貸しくださいね!

 一緒に、呼んであげてください。せ~のっ!


「(会場全体で)王子様~!!!」



 そこへ、何事もなかったかのように白地に金モールのタキシードという、いかにも王子様っぽい姿でアレク王子が登場!!

(拍手)


 が、華麗にターンしてお辞儀をした王子の背後に、たしか先ほどの写真で写っていた羊のぬいぐるみがくっついたままなのが見えてしまい、また笑い声が起きる。

(「王子様、羊、羊、ほら、背中だよ、」と教える声もあり)


王子「し、しまった(汗)…証拠隠滅しなくては、ね♪」


 舞台から降りて、最前列の客席にいた少女に、そのぬいぐるみをプレゼントとして渡す。(他の子供達、それから欲しいという意思表示をした大人のお客様にも、会場スタッフがそっと配って回っている)


 すぐに舞台に戻り、王子が中央に姿勢を正して立つ。

 ナハトとファイルは、一人ずつお姫様をエスコートし、王子に紹介する。

 王子は一人ずつと挨拶して、短いフレーズをそれぞれダンスのお手本のように、きれいに踊っていくことになる。

(メドレー形式で)

 ワルツはロゼ姫(遥)と。

 タンゴはゴルト姫(瑞季)と。

 フォックストロットはマリン姫(真凛)と。

 クィックステップはグリュン姫(夏美)と。


 ナハトとファイルは、それぞれ自分の担当する2人のお姫様を応援し、花嫁候補として推薦したいようだ。

 舞台袖で控えている時も、自分の担当するお姫様の踊りのタイミングでより多く、拍手し、客席にもそれとなく拍手をするよう促しているそぶりである。


 王子は、それぞれのお姫様ときちんと踊っていたが、最後のクィックステップは、いったんホールドを解き、観客の方に2人が向き合い、並んだ形になる。

 そこで、少しふざけたように王子がチャールストンステップを披露し、ドヤ顔をする。客席にもアピールして拍手をもらう。

 すると、同じ速さで同じようにきれいにステップを踏んでみせるグリュン姫。客席に軽くお辞儀をし、こちらも拍手をもらう。


 ロマンティックというよりは、好敵手を見つけた嬉しそうな笑顔で

「おお~♪君は、すごいねぇ。足にバネがあるよ!

 まるで…そう、勇猛な戦士のようだ!」

と、再度手を取ってホールドしようとするが…どうやらグリュン姫はあまり嬉しくない様子である。

「…何か失礼なことを言ったのだろうか…?」

 とまどい、手を取り切れない王子の逡巡。

 それでも、再度お願いしてみようと勇気を出したのか、王子がグリュン姫に近づいた。

 と、そこへ突然、ナレーションが入る。


 ナレーション(斎藤の声):サンバ隊、突撃~、あ、間違えました、入場!

 (サンバ、流れる)


 そして舞台上には、斎藤以下、ど派手な格好{ブラジルのリオのカーニバルをリスペクト}をしたサンバ隊がにぎやかに登場する。

 花梨や多くの子供達が参加していて、舞台をサンバウォークで練り歩く。

 会場のお客様まで舞台に上げたりしつつ、それらを巻き込んで最終的に会場を練り歩き、最後はそのまま退場していく。


 その中には、王子、ゴルト姫、マリン姫、ロゼ姫も参加して、サンバ隊とは別れて、舞台に戻ってきているのだが、グリュン姫はいつのまにか退場してしまっていて姿が見えない。


 あれれ?といった振りを演技で見せながら、皆と一緒に退場する王子であった。


 サンバ隊が去った後、いったん舞台は暗転する。幕、降りる。


ナレーション(斎藤の声):さぁ、舞踏会もいよいよ盛り上がってまいりました。

 ですが、大広間から少し離れた廊下では、小声ではありますが、なにか口げんかが起きているようです。華やかな貴族社会も、根っこにはどろどろとした駆け引きがあるともお聞きしますし、ね。

 明らかに雲行きがあやしいようですよ…?


☆ 配役表 ☆


グリュン姫(ペルレ姫)=夏美 【イメージカラー:グリーン】

マリン姫=真凛 【イメージカラー:ブルー】

ロゼ姫=遥 【イメージカラー:ピンク】

ゴルト姫=瑞季 【イメージカラー:イエロー】


アレク王子=ラインハルト


騎士団所属術師ナハト(王子の側近)=姫野

騎士団所属騎士ファイル(王子の側近)=マルセル


国王夫妻=フィリップと妻メレイア


サンバ隊(子供心を持った有志・飛び入り大歓迎)

城の警護兵(ダンス練習会メンバー有志)


ナレーションその他(斎藤、遥)


※ 小説上では日本語での表記だけですが、

  実際のパーティでは、司会・舞台上のセリフ、説明などは同時通訳で{英語・ドイツ語・フランス語}の字幕テロップが舞台上の壁だけでなく、四方の壁上部に流れている設定です。


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