0 Prologue 《戌年に埋火を熾せ 》 ー☆ー
『錬金術師たちは、物質同士の結合を行う際に自分たちの心の中の相対する要素の統合をも重ね合わせて見ていたのである。』 [Carl Gustav Jungの言葉より]
「絶対、ここで『クッソ、何でこう上手くいかないんだ?』ってヤツは叫んだに違いないよ」
欧州の某古城の書庫で、ぶ厚い本を閉じながら少年は悪態をついた。歳の頃、13、14歳くらいか。やんちゃ盛りといったところである。
「だいたいそんで今、Az…の杖は誰が持っているんだよ?
まさか、まんまジジイが握りしめてたりして」
古城の地下墓所にある棺桶の中を想像してみる。
「集中なさっていないようですね。
殿下、悪態もいい加減になさいませ」
書庫の奥で古書を整理していた侍従が戻ってきてそっとたしなめる。
「大大祖父様は、多少の理解不能に打ちのめされるお方ではございませんでした。
それどころか困難に打ち勝って研究を続けなさったからこそ、、」
少年は、最後まで言わせなかった。
「あーあー。それはもう心から感謝しているからさ、ただ兄上と最近遊んでいただけてないから退屈でね。
いつお目覚めになるんだっけ?」
「もう間もなくですよ。一族の者の悲願が叶う慶事、待ち遠しくてなりませんですね」
書見台にぶ厚い本が追加されたのを見て、少年はため息をついた。
「30年は長すぎるし、占いの誤差としてもヒドイと思うけどな」
一族の家系図のてっぺんにいる偉大なる賢者のジジイなら、まぁ朽ち果てていてもいいのだが、大好きな兄が異国の地で儚く崩れ去っていては困る。
「遥か昔から比べましたら、万全の対策を講じておられるとのことです。一族の物のみならず、薬や石、文明はますます進歩しているのですからご安心なさいませ」
「ああ、僕も快適だったよ。最新式だったし。そうだ、ちょいと二度寝してこようかな?」
「殿下は、最近お目覚めになられたばかりですし。どうかお勉強をもう少し進めていただかないと。私までも、、」
少年はまた遮った。
「わかっているって。お前にまでお小言がいくようなことは慎むよ。
それに僕だって、すごく興味があるよ。予言なんて当てにならないと思うけど、もちろん1/100の可能性を信じたいんだ、兄上のためにもね」
「もう間もなくですから。
殿下こそが、兄上様の右腕になるであろうお方ですし、何よりこの本拠地の城を守っておられるのも殿下なのですから」
ゆるりと運命の輪が良い方向に回転するのを一族郎党が期待している。時代はまた大きく変わるだろう。更なる困難が生じる可能性もありえるのだ。
『好事、魔を生ず』
一族の皆が不吉な予想をしたくないと、あまり口に出さないようにしているが、過去の多くの失敗と落胆の歴史があるので気を引き締めてかからねば。
油断はしてはならないと言いつかっている。
「もちろん、僕こそが兄王をを守る第一の騎士みたいなものだからね。
最近、剣の先生からも褒められたんだ!
これからは秘儀の剣を極めようかと」
侍従はそっとため息をついた。
殿下はまた隠れて冒険小説などを読んでおられたに違いない。いや、そのようなことも必要になってくるだろう。前回の災厄を自分は経験していないのだ、役に立ちそうな事柄は全て学び、準備をしておかねば。
2017年秋、予言の年を来年に控えて身の引き締まる思いの主従であった。
『SEVEN of CUPS (聖杯の7)』
このタロットカードのテーマは、《ぼんやりとした計画》、《白昼夢》です。
『7つのカップに雑多な物を詰め込み、素晴らしい予感がしているのだが…(しかし…)』という正位置のキーワードは…あまり良い意味ではありません。
逆位置となると、その『ぼんやりとした計画が具体的になる』、『実現に向けての真面目な歩み』というキーワードへ変化して、良い意味となります。
ざっくりした設計書を作成し、わざわざジグソーパズルのかけらのようにバラバラにして、『わかりにくい』小説もどきを書き始めました。
恋愛、ファンタジー、相互理解、相対するものの統合、タロットの寓意、神や天使への祈り、価値判断の基準(選択)などを筆者の不器用さを武器として真面目に考え、読者(筆者自身をも含みます)に話しかけたかったのです。
では、『わかりにくい』ものにしたのは何故なのでしょうか。
完結時のEpilogueにその理由を明かすことを楽しみにしながら、書き続けております。[2019年3月14日]