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箱入り姫は樽の中  作者: 葵・悠陽
第一幕 箱入り姫は樽の中
3/4

樽姫様は早速壁に突き当たる

今作は大体一話6000字くらいになるのかな?

目標は1万字くらいでの構成なんだけどなぁ。

頑張ろう。

ルミナリア姫が市井に降りるにあたり、

次期国王であるクリスティン王太子を味方に引き入れ

王と王妃の説得を行う…。


それはとても良いアイディアに思えました。

早速兄王子様のところに向かおうと考えたルミナリア姫でしたが

建国祭と即位の儀を間近に控える殿下です。

今この瞬間も暇な訳がありません。

平時ならともかく、いくら妹姫とはいえ面会を望んですぐに会えるほどの

時間があるとは思えなかったのですが…


「あぁ、それなら心配ありません。

先ほどセレナさんに追われている殿下をお見かけしましたので、

恐らく姫様が面会に行かれると休み時間が取れると大変喜ばれる筈でございます」


「!?」


とマーガレットが先ほどルミナリア姫を探していた際に見かけた様子を暴露。

エスケープ癖は姫様に限ったことではないようです。

何となく釈然としない姫様でしたが、まぁ兄王子が喜んでくれるなら…と

お願いに向かう事にしました。




              ◆




トントン


王太子の部屋に付き、扉をノックします。


「何者だ?」


「お忙しいところ失礼いたします、ルミナリア姫殿下と

侍従のマーガレットにございます」


「おぉ!我が可愛い妹姫かっ!

入れ入れ、セレナ、すぐにお茶の用意だ」


「殿下っ!またそうやってさぼろうと…」


扉の向こうからそんな声が聞こえてきたかと思うと、

キリっとした鋭い目つきの美しいメイドが扉を開けてくれました。

王太子付きメイド長のセレナです。


「……ルミナリア姫様、王太子殿下は即位前のお忙しい身であらせられます。

妹君とはいえ、ご用件はなるべく手短にお願いいたします。

もう本日だけで3回もエスケープされておりまして……」


クッ!っと悔しげに歯を食いしばるセレナに姫様はぶんぶんと手を振って応え、

マーガレットは苦笑い。

どこの侍従も似たような苦労が絶えないようです。


二人を部屋に招くと、セレナはすっと身を引きお茶の用意に。


「二人ともこっちだ。

まぁかけてくれ、本当に助かったよ…朝から晩までセリナがやかましくてなぁ。

ろくに休ませてもくれない。

逃げたくもなろうというものさ」


分かるだろう?とそんなニュアンスを込めつつさわやかに笑う金髪の偉丈夫こそ、

次の王である王太子クリスティン・エル・ブロッサム。

母親も王妃様で、ルミナリア姫の実の兄でもあります。

顔立ちは母親似ですが、性格は父であるヴァフムート8世そっくりだと

もっぱらの評判です。


ソファーに腰かけられない姫にマーガレットが

例によってどこからか取り出した専用椅子をささっと用意。

王太子と向かい合って座る姫に、クリスティン王太子が

早速要件を問いただします。


「あまり長引かせるとセレナが暴れて面倒だ。

ゆっくりもてなしてやれなくてすまないが…、一体今日はどうした?」


「……じつ、は……」


「あぁ、無理しないで、字幕で構わんぞ?」


頑張って自分の口でお願いしようと思っていた姫でしたが、

字幕で構わないと言われて若干しょんぼりです。

でも、口で話すと話が長くなってしまうのも事実。

割り切って字幕でさくさくとお願いの内容を話していきます。


「……ふむ」


一通り話を聞き終え、王太子は沈黙し、考え込み始めました。


「ルミナリア、この話をまず私のところに持ってきたのはいい判断だ。

…実に良い判断だった。

今の父上が聞けば間違いなく祭りどころではなくなっただろうし、

母上ならばまたベットに逆戻りだったろう」


そう言って深くため息をついた王太子は、若干青ざめた顔でセレナを見ます。

黙って王太子の後ろに控えていたセレナは、


「…ご安心を、私以外で聞いたメイドはおりません。

防音術式もすでに展開しております故、

護衛の近衛にも聞いた者はいないでしょう」


そう答えて優雅に一礼。

出来る女は主の求めに聞かれる前に応えて見せるのだ。

そんな二人の様子に、姫は若干の不安を感じました。


『兄上、私は兄上にご迷惑をかけていますか?』


妹姫のそんな不安げな様子に、王太子は苦笑いしつつ


「いやいや、正直私は賢明な妹を持てて実に幸せだと実感しているところだよ。

お前の王族としての意識の高さも改めて知る機会になったし、

どれだけこの国を、家族を愛してくれているのかも分かって私は嬉しい…。

同時に、お前が抱えるその問題はお前だけの問題ではないのだと

改めて再確認できたが為に、少々悩ましい思いに囚われた、そんなところだ」


そう言って妹姫の不安を取り除くべく、彼は立ち上がり妹の前に立つ。

目線を樽の高さに合わせ、頭?を撫でながらゆっくりと諭すように語る。


「いいかい?ルミナリア。

姫としての用を為さない、王族としての務めを果たせない、

そんなお前の抱える悩みは至極もっともで、出来れば如何にかしてやりたかった

問題の一つでもある。

市井に降り縁の下で国を支える、もしくは文官武官となり国を支える、

確かに王族ならずとも国を支えるための方法はあまたあろう。

民は我らが家族も同じ。

国を違えても想いは変わらず、それが我が国の民の誇り。

だからこそお前の意思を尊重してやりたいと兄は思うのだが、

今は時期が悪い。

……お前が想像する以上に、お前の存在は大きいのだよ」


「……??」


どういう事だろう?

こんな樽入りのポンコツ姫のどこにそんな重要性が?

そんな想いに囚われ首をかしげたくなる姫でしたが、


「……5年前の戦争を覚えているだろう?」


その一言で、室内の空気が一気に冷え込んだ…そんな風に感じました。

姫の後ろに控えたマーガレットも、静かに見守るセレナも、

若干の身震いを隠せずにいましたから。


5年前の戦争。


ルミナリア姫とマーガレットの大切な人を失った戦争。

後世には「樽姫の一騎掛け」という題で吟遊詩人の飯の種になるこの戦争は

ルミナリア姫の婚約に関する処々の問題で起きた戦争でした。

実際にぶつかった戦力、被害は片手に数えられるほどに収まったものの

この戦争で周辺諸国のルミナリア姫への見方が変わったのも事実でした。


樽入りの変人から、化け物へ。


ルミナリア姫が完全なコミュニケーション障害に陥ったのもこの一件です。

いずれ詳細を語る機会はありましょうが今は別の物語。


震えながら頷く姫を憐れむように、労わる様に見つめながら

兄王子は語ります。


「あの一件でお前は一個の戦力としても破格である、我が『王家の姫』としての

『力』を証明してしまった。

当代の王族で戦争を、特に実戦を経験しているのは父上とお前だけだ。

そんなお前が市井に降りたとなれば、たとえお前が戦嫌いであっても

他国の者は喜んでお前を軍に引き込もうとするだろう。

そして、引き込めないとあれば今以上に苛烈にお前を狙う者たちが動くだろう。

……同時に、悪意ある国々は即位した私に対し、こんな噂を流すだろう。

『樽姫を持て余した新王が妹を放逐した』……とね」


「「!!」」


ルミナリア姫だけでなく、マーガレットもその言葉に動揺を隠せませんでした。

戦力云々やまた狙われるだろうことはある程度の覚悟はあったのです。

その辺に関する対応なども答えの用意はありました。


ですが、悪意ある噂!


他国の情報操作に対しての対策など、全く考えていませんでした。

噂など、信じる信じないは関係ありません。

ただ結果だけを見て、「そうだったに違いない」と決めつけるだけで

民衆は面白おかしい方向へと流されてしまうのです。


もちろんブロッサムベルの国民はそんな噂を信じることはないでしょうが

即位早々そんな噂を流されれば、新王の威厳は大きく損なわれます。

肉親を切り捨てる非情な新王、妹姫一人御せぬ無能、

そんな噂が面白おかしく脚色され、飛び交う・・・。

考えただけで姫様は泣きたくなってしまいました。


「なぁ、ルミナリア。

お前は私たちが嫌いかい?」


「!?……(ぶんぶんぶん!)」


「なら、自分が『今』何かできないからと言って、

それを重荷に感じることはない。

だって、私達もお前に対して『今』何もしてあげられていないのだから。

お前が感じる苦しみは、転じて私たち家族が抱えるべきものでもある。

どうかそれを忘れないでおくれ。

あぁ、そうだ、いずれ市井に降りるにしろそうでないにしろ、

まずザーマス子爵婦人に相談してみるといい。

彼女はちょっと性格がアレだけど、信頼に足る人物だ。

『一般常識その他』、まずは覚えることがたくさんあるのではないかな?」


この話はそれらを一通り身に付けてからまたおいで、と

姫様の樽の上部をポンポンと優しくたたき、兄王子は立ち上がります。


「姫様、どうぞこちらへ」


会談はここまで、という事なのでしょう。

さり気なくセリナが進み出て、姫様を誘導します。


「あ…り、が…と」


そう言って立ち上がり、扉に向かいます。

セリナの瞳に、一瞬だけ涙が浮かんだように見えました。





              ◆




「……」


「……残念、でしたね姫様。

ですが、収穫はありましたね」


「……(こくこく)」


頷きながら、自室へとマーガレットと二人歩みを進めます。

市井に降り、自活する。

その決意は早くも壁にぶち当たり、一旦の挫折を余儀なくされました。

ですがおかげで問題がはっきりした…とも言えます。


今この時期に自立しようとするのは問題がある。

でも、落ち着いてからなら問題がない。

王太子はそう言っていたのですから、今は出来る事をすればいいのです。

そう、まずは一般常識を学ぶところからです!


「……(うーん)」


「あ、何が一般常識なんだろう?って悩んでますね?」


「……(こくこく)」


「その辺は中々に難しい問題ですね。

王家の一般常識と、市井の一般常識は当然のように隔絶していますし、

地域や職種によっても常識は変化するものですから。

ま、ザーマス婦人に相談しろと王太子様もおっしゃってましたし、

その辺は明日改めて考えましょう」


「……(こくこく)」


そうして二人は自室に戻りました。



「「「おかえりなさいませっ!」」」


部屋に戻るとメイド達が元気に出迎えてくれます。

口々に結果はどうだったのかと、若干不安げに問いかける面々に、


「はいはい、その話は食事をしながらね。

もう準備は出来ているのかしら?」


パンパン、と手を叩きつつマーガレットがメイド長らしく皆に呼びかけます。

蜘蛛の子を散らすようにそれぞれが準備に散り、

瞬く間に姫の部屋に食事の準備が整っていきます。


「…い…も、……が…う、ね」


「いえいえ、こうして姫様と毎日食事をご一緒させていただけるなど、

侍従としては名誉以外の何でもありませんので」


ルミナリア姫は、他の王族たちとは食事を一緒に取りません。

本当は家族でご飯を食べたい。

笑って今日あった事を話せる、そんな温かい食卓。

ですが、姫にはそれを望めない理由がありました。


毒殺、です。


姫が樽の中に入るまでの期間、多くの者が毒に倒れました。

姫一人殺すのも、王家そのものを潰すのも、手間は変わらないとばかりに

様々な食べ物、飲み物の中に毒が仕込まれたのです。

自分のせいで家族を危険にさらせないと、

一時期恐怖心から拒食症になりかけた時期もありました。

その改善策として採られた策が、「専任のメイドがその都度食材を確保」し、

「専用の調理場で毎食用意する」方法でした。

確保する食材はその日のメイドの気分ひとつ。

調味料からすべてその都度用意するため手間こそかかりますが、

これが最も毒を混ぜられにくい方法でした。


当初は姫一人での食事だったのですが、幼い少女の一人飯は情緒教育に悪いと

当時のメイド長の発案でメイドも一緒に食事をとる、という方針に変わりました。

ザーマス婦人辺りはいい顔をしなかったらしいのですが、

姫様付きのメイドは全員王華繚乱(ロイヤルメイド)の資格持ち。

立ち振る舞い、礼儀作法は完璧です。

このおかげで姫様は寂しいぽっち飯生活とはおさらばし、

主従の絆はより深まったという訳です。


ちなみに王や王太子は「毒くらいっ!毒くらいぃぃぃぃっ!」と

血を吐くような声で娘、妹と食事をとれない悲しみを嘆いたそうですが。


「本日の献立でーす。まずはイオル豚のじっくり煮込みシチューと

季節ものでアブラナの和え物をご用意しました。

パンはオルージャさんの店の夕方一番の焼き立てです。

レーズン入りなのでそのままでも美味しくお召し上がりいただけますよ。

飲み物はダイネンさんの牧場の朝一を確保したものです。

おかわりもありますのでいっぱい召し上がってくださいませっ!」


本日の当番のミリーシャがメニューを紹介。


「それではみな席について。

…今日の糧に感謝を、民の努力に敬意を、日々の平穏に奉謝を。

いただきます」


いただきまーす!


マーガレットの合図で食事が始まります。


ちなみに「今日の糧を神に感謝を」というのが正式な祈りなのですが、

彼女たちの間では「神には縋らない」という固い意志がありました。

神は確かにルミナリア姫に樽を与え、命を守ってくださいました。

が、姫の心までは守ってくれませんでした。

姫を護ろうと願う者たちの命までは守ってくれませんでした。

だから、彼女らは決して神には縋らないと決めていたのです。

日々の糧は人々の苦労の末に得たもの。

神の恩寵の結果ではない。

そう思うが故に、彼女らは神を信じはしても頼りも祈りもしません。

きちんと助ける気がないなら、天の上から黙って見ていろ…!

樽姫メイド隊はそんな娘たちの集まりでした。

ルミナリア姫もこの件に関してはちょっと同意できる部分があったので、

咎めるような真似はしません。

姫様自身、ザーマス婦人の授業で一番エスケープするのが「神学」でしたので。


「……なるほど、他国の情報操作っスか。

それは確かに盲点でしたね、パイセン」


「パイセンはやめなさい、姫様の前ですよ?」


「メルは行儀がなってませんから。

こんなのが双子の姉と思うと涙が止まりません」


「アタシはカティみたいに猫被りじゃないだけっスよ!?

姫様だって分かってくれるっスよねっ!」


「……(こくこく)」


「姫様、お優しいから同情してるだけよ?

後、食事は静かに食べるべきだと思うのよね」


「ミリーは冷静にセメントっスねっ!」


ぎゃいぎゃい大騒ぎするメイド達、そんな中無言で黙々と食べる二人。

無言でありながら何か妙な意思疎通が成されている二人に、

つい皆の視線が集まる。


「……(すー)」


「……(ふるふる)」


「……(はむはむ)」


「……(こくこく)」


「……(にぱー)」


「……(にこにこ)」


「「「「姫とローラの会話が一番謎ですね」」」」


穏やかな、若干騒がしくも暖かい食卓。

血のつながっていないけれども、ルミナリア姫にとっては彼女たちも大事な家族。

そんな温もりに包まれて、姫は自身が抱えていた焦りの様なものが

少し楽になっていることに気づき、静かに微笑む。


樽なのでその微笑みに気づく者はいなかったが。






感想や評価貰えると嬉しかったりしますよ!

次回は早くて木曜、遅くて日曜日に!

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