第66話、過去の遺物
今、僕達が居る場所は僕がミカちゃんと出会った時に迷い込んだお花畑に似ています。
でもそのお花畑ではありません。
僕がミカちゃんに尋ねると、ミカちゃんも首を傾げています。
そもそも僕達は穴に落ちました。
穴に落ちたのに、お日様が頭上で燦々と輝いているのは何故でしょう?
エリッサちゃんも、漸く周囲を見回す余裕が出来たようです。
「ここは一体……」
エリッサちゃんが疑問符を浮かべながら尋ねますが、僕達にも分りません。
「ここが何処なのか、私にも分らないにゃ」
困った表情を浮かべて、ミカちゃんが答えます。
「みゃぁ~」
僕も分らないと伝えます。
でも落ちた穴には、フローゼ姫が待機してくれています。
きっと、助けを呼んで来てくれるかも知れません。
「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」
僕がそう教えると……。
「それはどうかにゃ? 穴はあそこにゃ」
ミカちゃんが頭上に浮かんでいる、穴を指差して語ります。
空中に黒い靄の様な穴が浮かんでいます。
――ならこれを上れば。
僕が提案しようとすると、ミカちゃんがジャンプで穴に突っ込んでいきました。
でもミカちゃんの体はその穴を素通りして、地面に着地しました。
「無理にゃ……戻れなくなったにゃ」
ミカちゃんが言葉を漏らすと、エリッサちゃんの表情に影が差します。
「お父様に心配を掛けてしまいますわ」
そうですよね。
エリッサちゃんには、心配してくれる家族がいますからね。
「大丈夫にゃ。フローゼ姫が子爵様に話しを伝えてくれる筈にゃ。待っていれば助けが来るかも知れないにゃ!」
ミカちゃんがそう告げると、エリッサちゃんも思い出したように――。
「そ、そうですわね。王女様が向こうにはおりますもの!」
まるで沈んだ気持を、鼓舞する様にエリッサちゃんが言います。
あの場所に目印をつけて、フローゼ姫の足で戻ったとしても今日中の救出は無理そうです。
そんな話をしていると、上空に開いた穴から何かが降ってきました。
『うわぁぁぁぁー』と叫び声をあげながら、鎧を纏ったフローゼ姫が。
この時点で、僕達が行方不明になった事が確定しました。
重い鎧を着て2mの高さから落ちたフローゼ姫は、背中から落ちた様で、横隔膜が麻痺して苦しそうです。
ヒールとか効果があるのでしょうか?
僕が手を翳すと、青い光りが浮かびフローゼ姫の体へと浸透していきます。
あれ程、息が出来なくて苦しそうだったのに、治った様です。
「子猫ちゃん、助かったぞ」
ふぅふぅ、と息を吐き出しながらお礼を述べてきます。
僕はフローゼ姫に苦情を言います。
「みゃぁ~みゃぁ~!」
何故?
当り前です。あの場にいた全員が落ちたら助けは来ません。
絶望的と言うものです。
さっきまでフローゼ姫が助けを呼んでくれると期待していた面々の表情は一気に暗いものに変わります。
「フローゼ姫も落ちてきちゃったら、助けを呼べないにゃ!」
ミカちゃんが、皆が思っている事を伝えます。
すると――。
「それなら大丈夫だ! 落ちた場所に目印を置いてきたし、こうしてロープも繋いで……あれ?」
森の中に目印になる物を残し、ロープを近くの木に縛りつけて落ちてきたらしいフローゼ姫は、会話の途中で異変に気づいた様です。
フローゼ姫が握っていたロープは、長さが1m位の所で切れています。
切れたロープを握り締め、フローゼ姫が困惑顔をしています。
本当に残念姫ですね!
「ともかくこれで帰れなくなったにゃ」
ミカちゃんが眉を下げて、言葉を紡ぎます。
「どうしましょう?」
「みゃぁ~」
僕達が落ち込んでいるのを認めたフローゼ姫が、何故か元気な声で、
「何を落ち込んでいるのだ? 落ちたのなら上がればいいではないか!」
本当に残念姫ですね……今の状況を理解出来て居ないようです。
「それは――無理にゃ」
「何故じゃ? 穴に落ちたのだぞ? 上に登れば……」
ミカちゃんの漏らす言葉に反応したフローゼ姫が、理屈を述べ、登る先を見つめて漸く理解が追いついたようです。
「な、な、なんだ! これは!」
「ここはきっとあの森とは関係の無い、何処かにゃ。帰る方法は分らないにゃ」
ミカちゃんが結論を出すと、エリッサちゃんがお花畑に崩れ落ち泣き出します。
「ごめんにゃ。エリッサちゃん。狩りに誘わなければ迷子にならなかったにゃ……」
ミカちゃんもしゃがみ込み、エリッサちゃんに謝罪しています。
フローゼ姫は、厳しい顔つきで周囲を用心深く見渡します。
「みゃぁ~?」
僕が戻る方法を探そう?
そう告げます。
「そ、そうにゃ! ここが何処かは分らないにゃ。でも戻れない訳じゃないにゃ!」
「本当ですの?」
「落ちたのは恐らく――ゲートだ!」
フローゼ姫が、何やら知っている様です。
「なんにゃ?」
「ゲートですの?」
2人は聞いた事が無い単語に首を傾げながら、フローゼ姫を見つめます。
「ああ、大昔に人族と、獣人族、魔族、竜人族、エルフ族の、5種族であった戦争の時代にエルフがあちこちに作った転移の門。それがゲートだ!」
妾も大昔の資料でしか見た事は無いのだがなと、苦笑いを浮かべ話してくれます。
でもそれだと僕がお婆さんの近所からこの場所に落ちたのも、それが原因なのでしょうか?
でも、お婆さんの話は誰にも、ミカちゃんにさえ話していません。
しばらくは黙っていましょう。
「どの位かかるか分りませんが、家には帰れるのでしょうか?」
エリッサちゃんが、尚も不安そうな面持ちで確認すると。
「あぁ! 勿論。ここは御伽噺の世界では無い。当然戻れるさ!」
「なら帰り道を探すのが先にゃ!」
ミカちゃんも、僕も帰る場所は元々無い様なものです。
エリッサちゃんは子爵家を継がないといけませんし、フローゼ姫においては1国のお姫様です。
このままでは駄目ですよね!
こうして僕達は、帰路を探す旅に出るのでした。
お読み下さり、ありがとう御座います。




