表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/229

第196話、岩山の攻防

 ワイバーンは最大限に高度をあげて人の川の先頭を探すように飛んでいきます。

 しばらく進むと前方に岩山があり、その間の街道から周辺に砂煙が立ち昇っている場所に出くわしました。


「あれは――」

「既に戦闘は始まってしまった様だな」

「岩山を砦にして進軍を食い止めているにゃ」

「ガンバラ側のワイバーンが居ませんわね」

「戦闘に魔法を用いてもいないですね」

「とりあえず王子に連絡を――」


 流石に高度が高すぎて容易に窓は開けられません。

 目の前を飛ぶ王子の意見を聞く為に、王子達の前方に目印の魔法を放ちます。


 地上では――。


「皇国の兵はいったい何人居るのだ!」


 日の出と同時に交戦を開始したガンバラ王国の第1兵団団長のカールソンが苦戦を強いられ愚痴を漏らします。


「はっ、ここから目視出来る限りでは後数万はいるかと――」

「なんだと――まさか皇国はこちら側に20万全ての軍を押し進めたというのか!」


 ガンバラ王国軍はエルストラン皇国へ進軍するに当たり二手に分かれていました。

 スレイブストーン渓谷を渡り切り追撃を仕掛けた本隊に対し、途中で左に折れて首都へ直接乗り込む道を選んだカールソン率いる1万の軍勢は次から次へとやってくる皇国軍によってジリ貧の局面に瀕していました。

 ワイバーン部隊が居ればまだ勝てそうな戦でも、本隊と王子の部隊に編成されてしまいカールソンが率いる部隊は弓兵や一般兵が殆どでした。

 足が遅い部隊だからこそ本隊とは別の進軍ルートを進んだという事でもあるのですが……。

 まさかそのルートに皇国軍の全軍と思われる程の戦力を集中されるとは予想外だったのでしょう。

 何とか地の利を用いて進軍を食い止めてはいますが、もはや時間の問題でした。


「奴ら死を恐れぬのか!」


 岩山の高所に弓兵を配置して矢を放っても、それを避けようともせずに死ぬまで前進を続ける異様に恐れを抱きながらも弓兵達は矢を放ちます。

 街道は血に染まり死体が積みあがっていきますが、それでも皇国軍の足並みは変わりません。当然、弓兵の矢の数も少なくなり――。


「団長! 弓兵から伝令が――」

「何事だ!」

「はっ、矢が――」

「矢が何だというのだ!」

「はい。矢がそろそろ切れると報告がありました!」

「なんだと――」


 岩山から降り注いでいた矢の雨が止んだことで、遮るものが無くなった皇国の兵は屍を踏み荒らしながら前進を始めました。


「奴ら本当に同じ人間か?」


 矢が当たり倒れている者の中には意識がある者もいるのに、それを情け容赦なく踏みつけて進む皇国軍にガンバラ王国の兵も顔を引き攣らせます。


「盾兵を前へ――」


 盾を持った兵で街道を封鎖しようと試みますが、多勢に無勢とはまさにこの事。

 皇国軍の兵達に押され呆気なく瓦解します。

 ガンバラ王国の兵は接近戦において味方を間違って切り伏せないように突くように剣を扱いますが、皇国軍の兵は同士討ちをものともせず、剣を振り回してくる事で容易に近寄り事が出来ずにジリジリと後退を余儀なくされました。

 そうして岩山も中頃まで戻され、カールソンが最初に指揮を執っていた場所。

 昨晩ガンバラ国の兵達が野営した広場まで押し戻されると、まるで雪山で積もった雪が麓の村を襲う様に敵兵が雪崩れ込んできました。


「う、うわぁぁぁぁ」

「た、たすけ――」

「まだ死にたくないよ――」


 皇国軍の兵の勢いは凄まじく、騎士鎧を付けていない革装備の兵達はあっけなく剣に貫かれます。

 苦悶の表情で空を見上げた兵達が見たものは――。

 大空からゆっくりと降りてくる馬車と、大口をあけ魔力を収束させているワイバーンの姿でした。

 次の瞬間――。


「聖なる癒しにゃ」


 どこからともなく甲高い少女の声がしたと思えば、青い粒子が傷つき倒れ伏している人間全員に降り注ぎました。

 皇国の兵達の元にはファイアーボールが上空から雨の様に降り注ぎ、着弾すると爆音をまき散らしながら燃え広がっていきます。

 その様子を兵達がボーっとした面持ちで見つめていると――。

 ガンバラ側の兵と共に、気を失い倒れていた皇国の兵も回復魔法を受けて起き上がりました。

 ガンバラ王国の兵は慌てて周囲に落ちている剣を探し振りかぶります。

 すると――。


「ま、待ってくれ。助けてくれ」


 今まで一切声を出さず、屍のように突き進んできた皇国の兵が命乞いを始めました。


「なっ、何を今更!」


 兵が剣を振り下ろした瞬間――。

 ギャン、と何かに剣を弾かれてしまいました。


「命乞いをしている人を殺すのは感心出来ませんね」


 1匹のワイバーンが間近まで降りてきていて、それに吊り下げられている馬車の窓から1匹の子猫が顔をのぞかせていました。


 今の様子を見る限りでは、皇国の兵は先日ミカちゃんやワイバーンが掛けられた洗脳と同様の魔法に侵されていたようですね。

 僕は兵が剣を振り下ろした瞬間に爪を飛ばしその剣を弾き飛ばします。

 自分の意志で戦っていたのならまだしも、洗脳によって戦っていた兵ですからね。ミカちゃんじゃないですけれど、慈悲を掛けてもいいですよね。

 こうして僕達はガンバラ王国軍と合流を果たしました。

 問題は、洗脳された皇国の兵をどうやって正気に戻すかですね。

お読みくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ