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第194話、魔族対策

 周囲には木々が焼け焦げた跡が広がり、鼻につく臭いが充満しています。


「やっと終わったにゃ」


 全てのワイバーンに回復魔法を施したミカちゃんからため息が漏れます。

 まさかミカちゃんも自信が拘束するのに使った魔法の後始末を、自分の回復魔法で補う事になるとは思っていなかったでしょうから、ため息を吐き出したくなる気持ちもわかりますよね。


「これで本当にもう大丈夫なのですか?」


 王子が不安気な面持ちで尋ねますが、これで洗脳が完全に解けていなければ――。

 ミカちゃんも解けていない可能性が出てきますから。

 ここは今のミカちゃんを信じるしか無いですね。


「私を見て誰も違和感を抱かなければ、多分洗脳は解けているにゃ」

「ミカちゃんはいつものミカちゃんですよ」

「そうですわね。普段と変わりありませんわ」

「うむ。皆の言う通りだ。ミカ殿も妾達に対し違う者に見えるといった事は無いのだろう?」

「皆はみんなにゃ」

「なら問題は無いと思うぞ」


 そういう事ですよね。

 行動を起こされるまではわかりませんが、一度行動を起こされればその解決方法は意識を失わせる事で解決します。では何故アンドレア国の国民は洗脳が解けないのか?

 恐らくは普段の生活と同じ事を繰り返している間は解けない類のものなのでしょう。

 翌日にも変わらず洗脳が保ち続けているという事はそういう事です。

 そうでなければ、本当にアンドレア国に嫌気がさしているとしか言いようがありません。

 それは信じたくはありませんけどね。


「それならうちのワイバーン達も――」

「もう大丈夫な筈にゃ」


 王子はようやくホッとした表情を浮かべます。

 そして、騎乗兵の隊長にその知らせを告げると横たえられている今回の犠牲者に視線を向けます。


「今回も大勢死んだ。文献では読んでいたが魔族が種族間戦争で使ったという魔法を今の時代になって体験するとは……なんて悪質な」


 ルフランの大地において人族が魔族と争ったのは有名な話ですが、魔族がとった洗脳という魔法に関しては国が保管している文献を見たものでなければ知らない情報です。

 なるほど……前回、今回の様に味方同士で戦わせお互いに疑心暗鬼に陥れるのが魔族の得意な戦法ですか。

 本当に厄介ですね。

 もし次に仲間内でかけられる者が出れば、そんな事が続けばいつかは仲間をも殺してしまうかも知れませんね。

 そうならない為にも何かいい作戦があればいいのですが……。

 生憎とそれに対抗する魔法は誰も覚えてはいません。

 様子がおかしい者を片っ端から気絶させるしか、思いつきませんからね。

 でももし僕が洗脳を受けたらどうなるんでしょう?

 僕を抑えられる人は、恐らくフローゼ姫だけです。

 その時は――フローゼ姫と僕が死闘するという事でどちらかが死ぬ可能性もあります。

 そうならないように魔族と戦う際には気を付けないといけませんが、どの段階で洗脳に掛かるのかが全く分かりません。

 ミカちゃんの場合は、少しの会話を交わした時だと思えますが、それにしてもどのタイミングだったのか全く分かりませんでした。

 ワイバーンに関しては尚更です。竜種の彼らは泣いて言葉を発しますが前回声を発したのは僕達を運んでいたワイバーンだけでした。

 ――となると、洗脳を行うタイミングは声では無い可能性があります。

 そういえばミカちゃんが洗脳を掛けられた時に少年の瞳が光った様な気がしましたね。

 それが洗脳を掛けた瞬間ならば、対峙した時に瞳を見ないようにするしかありませんが、視線の先を読んで動きを察知している場合は大きな困難を伴いますね。

 全く碌なものじゃないです!


 皆で一列に整列し、亡くなった者達を弔った後で各部隊の隊長さんと騎士団長さん、王子と僕達が集合してこの先の作戦を練り直します。


「恐らくですが、僕の予想が正しければ魔族が洗脳を受けるのは――その瞳を見た瞬間です。なので魔族と対峙しても瞳は合わさないでください」


 僕の注意事項を聞いた皆は、一言唸ると眉に皺を寄せ難しそうな面持ちを浮かべます。

 当然ですね。

 敵と目を合わせないという事は、恐れを意味しますから。

 お婆さんの世界のいじめられっ子が不良に絡まれた時に、何ガンを飛ばしてんだ! と因縁を付けられるのを避けて視線を外すのと同じです。あ、違いましたか?

 でも似たようなものですね。

 武術を嗜んでいるものならば、相手の視線で行動を先読みもしますから。

 やはり視線を見ないという事には納得出来ないものがあるようです。


「視線を合わせないでどうやって戦うんだと言いたい気持ちはわかりますが、視線を合わせたら洗脳されますよ。味方同士でこれ以上戦い犠牲を出さない為にも徹底してくださいね」

「猫殿、この先もあの少年の様な魔族が現れると?」


 キリング騎士団長が不安そうな面持ちで尋ねてきますが、台所にいる黒い虫でさえ1匹いれば数千匹いると言われているんですから。

 魔族も僕が知る限りでは既に2人。

 皇国の民が洗脳を受けていると考えれば、既に魔族が中枢を押さえていると考えた方がいいですよね。


「当たり前じゃないですか。サースドレインに現れた魔族と今回の魔族は明らかに別人でしたよ。2人も居たという事はその数百倍いてもおかしくないですよね?」

「文献では魔族はその特異性から滅多に子宝に恵まれず、人口も人間より遥かに少ないと伝えられていますよ」


 王子に言い返されますが――それは初耳ですね。

 それだと黒い虫と同じには考えなくてもいいのでしょうかね。


「それは初耳です。それが事実だとしても用心に越したことは無いですよ」


 これからどうするのか決まらないまま、日は暮れ僕達はここで野営を余儀なくされました。


お読みくださり、ありがとうございます。

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