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第184話、スレイブストーン渓谷の戦い

「ねぇ、アッキー。なんで私達はアンドレア国じゃなくてこんな荒れ果てた渓谷にきているのかしら?」

「さぁ、知らないっすよ。文句があるなら直接帝に言ってくださいっす」


 ここは皇国の南、ガンバラ王国とエルストラン皇国との間にあるかつての神話で竜と神が戦ったとされる古代の竜の爪痕。


 南と北とで軍を分け、両者一触即発の雰囲気を醸し出していました。

 北に陣取るガンバラ王国の兵数は5万。他にもワイバーン部隊が200。

 対して南に陣を布いた皇国軍は総数2万。

 その数だけ見て取ればガンバラ王国の圧勝と誰もが思う事でしょう。

 そこに迷い人の渚とその弟子が居なければ――。


「良くもまぁこれだけの兵とワイバーンを集めたものね。あの鱗とかやっぱり硬いのかしら? 引っぺがして売ったら高く売れるのかな?」

「ワイバーンの鱗なんて金に比べたら半値以下だって聞いたっす」

「それは残念ね。アンドレア国を攻め落とした時に、城にある金貨を慰謝料代わりに貰う予定だったのにお城に高価な物が無かったから、ここでボーナスを稼ごうと思ったのに――」

「アンドレア国は小国だったっすからね。でも今回は大国っす。古くからある国っすから財宝も期待できるっすよ」

「そうだといいけど――」

「あっと、敵さんの進軍が開始された様っすよ」

「私達の出番って、ある程度の犠牲者をこちらの兵に出させた後って事で良いのよね?」

「そう聞いているっす。こちらから仕掛けるのは反則っすよ」

「詳しくは知らないけど――国際社会を納得させる為に先に攻撃させるとか昔の〇〇の様な事をする国が異世界にもあったのね」

「あーお師匠様の世界で最大の国家だった国っすか。支配者なんて皆考えている事は同じって事っすね」


 2人は軍の後方の陣で和気あいあいとそんな会話をしています。

 これから自陣の兵が大勢犠牲になると言うのに、お気楽な事です。

 2万いた皇国軍は最初のワイバーン部隊の攻撃により瞬く間にその数を半数まで減らします。子猫ちゃん達には通じなかった上空からの投石と油による攻撃です。


「何ともまぁ惨い事を平気で行うものね」

「それが戦争っていうものっすよ。おっと――ようやく出番っすね。今回もお師匠様は見ていてくださいっす。たまにはいい所を見せるっすよ」


 アッキーは渚さんにそう告げると、瞬間移動し敵のど真ん中に出没します。

 まさか敵の魔法師が自陣に出没するとは誰も思ってはおらず、突然現れた少女に訝し気な視線を送っていますが、すぐに兵の視線は皇国軍の先頭に向けられます。

 自分を見つめる視線が無くなると、アッキーはにやりと笑い口元を吊り上げます。

 そして――。


「ドーナッツインフェルノ」


 声音を低くし魔法名を漏らした瞬間――アッキーを中心に轟々と燃え盛る青い炎が広がっていき一瞬で辺り一面が灼熱の地獄と化しました。

 乾いた空気の中に人肉の焼ける臭いが漂います。

 異臭の中にあってもアッキーは顔をしかめるでもなく平然としていました。


 ワイバーンの攻撃により皇国軍の半数を倒した事で調子に乗っていたガンバラ王国軍は、たった1度の魔法攻撃で半数以上を失います。


「まったく――あの子ったら。あんなに向きになって雑草を刈るなんて」


 意味不明な言葉を渚さんが漏らした瞬間、彼女は燃え盛る炎が一瞬で消化される光景を目にします。


「あれは――」


 青い炎が消された場所を凝視すると、そこにはブロンズ色の長い髪を熱風でなびかせた紫の瞳を持つ女性が杖を構えた姿で立っていました。

 その女性の姿を認めた瞬間――渚は酷く辛い吐き気と、頭痛に襲われます。

 薄れゆく意識の中、渚さんはポツリと呟きます。

 ミ・・ンダと――。


 自身の放った魔法を一瞬で消化させられた事で、当然その女性はアッキーの視線を集めてしまいます。


「ちっ、ガンバラ王国にも魔法師は居るって事っすか」


 苦虫を噛み潰した様な面持ちを浮かべ、邪魔をしたその女性に愛用のタガーを携えて一気に詰め寄ります。

 2本のタガーをその女性の胸に突き刺そうとした瞬間――。

 ギャン、と甲高い音が鳴り響きタガーは上空へと跳ね上げられました。


「むっ――」


 タガーを跳ね上げた剣がアッキーに振り下ろされる瞬間、いち早く剣の動きを察知した彼女はその場をバックステップで飛び退きます。

 アッキーが立っていた場所を大剣が風切り音と共に過ぎ去ります。

 そして――。


「ミランダ殿、怪我は無いか?」

「ええ、助かりました。ハイネさん」

「いやぁ~一瞬で辺り一面が燃えだした時にはひやひやしましたね」


 その場には、巌の様な体格で強面の青年とブラウンの髪を無造作に伸ばし油でオールバックにしている温和そうなおじさんが立っていました。

 アッキーは大剣を振り下ろした強面の男が放つ威圧を受け、追撃を行うか迷います。


「あーこれからいい所なのに邪魔されるのはいい気がしないっす」


 アッキーが恨み言を吐き出すと、


「ふん。容姿は少女でも中身は薄汚い魔族か」

「はぁ? いったい何の事っすかね?」

「そんな瞳をしていて誤魔化し切れると思っている事の方が驚きだぞ!」

「あちゃ~そんな言い伝え未だに信じている者がいたんすね」

「皇国は魔族を飼って何を企んでいる――」


 ハイネ元アンドレア国第一騎士団団長は言葉を交わしながらアッキーの姿を捉えようとしていますが、思いの外素早く大剣では捉えきれていません。

 一方的に剣を振り下ろすハイネ氏とそれを避けるアッキーの攻防が続きますが、そこに割って入った第三者によってそれは終わりを告げます。

 ハイネ氏が剣を振り下ろした瞬間、ハイネ氏に向かって魔法が放たれました。

 奇しくもそれは以前子猫ちゃんに敗れた時と同じメテオ。

 立場が逆転しハイネ氏が燃え盛る隕石から飛び退き逃げまどいます。

 アッキーとメテオを放った第三者は、ハイネ氏が避けている間に距離を離し小声で言葉を交わします。


「迷い人が倒れた」

「はぁ? なんでまた――」

「わからん」


 二言三言会話をしたかと思った瞬間――2人の姿は消えていました。

 その場には未だに燃えさかる隕石と、避け切って息を荒げているハイネ氏と他2名の姿が残されていました。

お読みくださり、ありがとうございます。

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