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第153話、子爵城の落城

 ――サースドレインの街


「フェルブスター様、各門に配置した油が切れました!」

「や、鏃も切れそうです!」

「このままでは持ちこたえられません!」


 かつて子猫ちゃん達の活躍によりオードレイク伯爵軍の猛攻を耐え忍んだこのサースドレイン市壁も、王都から派遣された元アンドレア国第二騎士団団長ルケス・ハンドレイク率いる約5000人の軍勢に取り囲まれ、先程まではなんとか門に取りつかれるのを防いでいましたが、肝心の油の予備も切れ、弓矢に使っていた鏃も既に底を付き窮地に陥っていました。


「旦那様が不在の今、ここを落とされる訳には参りません。ウォルター殿、城内の警備の者達も防衛に――イゼラード殿、冒険者で此度の防衛に参加出来るものを門の内側に配置して頂きたいのですが……」

「希望者の数は多くは無いぜ、この街に愛着のある者はまだしも――依然と違い国王派は今じゃ向こうだ。皇国では君主と呼ぶんだっけか? まぁどうでもいいが」

「それでも旦那様が不在の今、ここを落とされる訳にはいかないのです!」


 丸2日による貴族派が集めた兵の猛攻は苛烈を極め、サースドレインの街はたった1日で陥落。サースドレイン側の被害、死者630人、重軽傷者700人を出し事実上全滅する事になりました。

 負傷した兵達は兵宿舎に監禁され、満足な手当ても受けられず、死者の数は日に日に増えていくでしょう。

 サースドレイン側の指揮を執っていたサースドレイン家筆頭執事のフェルブスターと城中警備責任者のウォルター、冒険者ギルドのギルドマスター、イゼラード等は国家反逆罪でサースドレイン城地下にある牢屋に監禁され刑の執行を待つばかりとなっていました。

 貴族派が用意した兵達は街の市民には手を出さず、市壁を攻略後は真っ直ぐ子爵城へとなだれ込み嘗てエリッサちゃんの母上が愛した花壇を悉く踏み荒らし、城中にある金目の物と、行方の分からない第一騎士団長、サースドレイン子爵の行方を虱潰しに捜索していたのでした。


「ハンドレイク隊長、財宝が置かれていると思われる宝物庫は思ったより鍵が頑丈で難航しております。もうしばらく猶予を――」

「ハンドレイク隊長! 行方の分からないサースドレイン及び、ハイネは何処にもおりません!」


 兵からの報告を聞き、かつてはサースドレイン子爵が座っていた執務室の革張りの椅子に腰かけルケス・ハンドレイク将軍は眉をしかめ思考します。


(フローゼ姫の捜索でここにやって来たのは確実なのだが、一体どこに消えた……。此度の落城で姿を見せるかと思えば、最後まで現れず――しかも城主の子爵の姿すらないとは……。奴の性格は長年一緒の訓練を積んできた俺が良く知っている。たとえ不利な戦況であっても逃げる男では無い筈だ……では何処に?)


 この元第二騎士団団長のハンドレイクは第一騎士団団長の座をボルグ・ハイネ団長と競い常に2位に甘んじてきた男であった。しかし今の状況は真逆。皇国に飲み込まれたアンドレア国は旧貴族派が治め、貴族派出身のハンドレイクは部隊の統括を任された。将軍という皇国の役職を得て。一方で皇国とは一戦も交えていないが国王派であったハイネ騎士団長は逆賊として追われる立場に――。

 行方の分からないフローゼ姫と同様、お尋ね者の扱いとなっていました。


(グースドレイク閣下からは5日の猶予を貰っているが、期日までに探し出す事が可能なのか……)


 サースドレイン城が落城した後も姿を見せない、ハイネ騎士団長、サースドレイン子爵を拘束する事が今回の目的であった事からハンドレイクは城内だけで無く、領内へ捜索範囲を広める様に部下に指示を出します。

 そして――。


「今回捕らえた者達にも尋問を行い、両名の行方を聞き出すのだ! 隠し通路の存在も探し出せ!」


 城の地下牢に幽閉されている3名に対しての尋問と城であるならば当然ある筈の隠し通路の捜索も併せて命令しました。


 一方で、子猫ちゃん達は――。


「間に合わなかったにゃ……」

「お父様――」

「流石に1000の守備兵に対し5000ではな……」


 馬車を飛ばし半日足らずで子爵領まで到着したものの既に勝敗は付いており、今はサースドレインの街の裏手にある以前に子猫ちゃん達が冒険者ギルドで依頼を受け魔物退治に入った森の中に身を隠していました。


「子爵殿も、騎士団長も直ぐに罰せられる事は無い筈だ。まずは様子を窺い、隙を見て救出しよう」

「奪還では無く救出ですのね――」

「妾達であれば楽勝と言いたい所だが、5000人を倒してどうするのだ? 殺すのか? 敗走させれば次は援軍を皇国に頼るだろう。その結果は――皇国との戦だぞ。逃がさず監禁する余裕も無い。」


 見知らぬ国、ガンバラ王国の兵は殺さず見逃した僕達が、自国の今は敵になってしまいましたが兵を殺すのかと問われ皆、俯いてしまいます。

 確かに倒すのは楽勝ですね。

 でも問題は、倒した後収容する施設も無い。

 仮に施設を用意出来ても、兵達に食わせる食事を用意する事が出来ない。

 飢えさせる事もまた殺す事と同じです。


 僕達が救出か街の奪還かで迷っていると――。


 3人一組となった騎馬の集団が街の門から出てきて、各方面に散らばっていくのが見えました。


「騎馬の集団が出てきたにゃ」


 目ざとくそれに気づいたミカちゃんが、それを皆に知らせます。

 砂煙を上げながら四方に散っていくその集団は、当然僕達が隠れる森にもやってきます。まずいですね――森の入口には馬車と馬さんを待機させています。

 このままでは見つかってしまいます。

 馬車が見つかれば森の中に大勢の兵がやって来るでしょう。

 救出か奪還かを迷っていた僕達を急かす様に、3人の騎士が近づいてきます。

 騎士の一人が馬車の存在に気づき指先で指示します。

 もう迷っている時間はありません。

 僕は掌に魔力を纏い、爪を飛ばそうとした時――。

 騎馬の一人が反転、勢いをつけて街に戻っていきました。


「子猫ちゃん――もう遅いにゃ」

「報告に走られましたわね」

「やはり戦うしか無いのか――」


 争いを避けようとしたフローゼ姫の思惑は、海岸に打ち寄せる波が運ぶ泡のように脆くも消し飛びました。

お読みくださり、ありがとうございます。

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